La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Declaration d'Un Soir (2012)

立ち上がり:ローズ系の香り+少しスパイシーな香りも加わって夏向きのいい感じです

昼:印象はつけはじめとあまり変わらず。少しナツメグみたいな感じがあるかな

15時:持ちがいいです。まだ汗に負けてません。ウッド系の感じが強まってます

夕方:最後まで汗臭さから逃げ切りました!いいですねこれ。

ポラロイドに映ったのは:夏の真っ盛り、自転車で東北地方都市の狭い路地を抜けてカキ氷屋に向かうパナマ帽のオジサン。

 
Tanu's Tip :
 
1847年創業の宝石商・高級時計ブランドであるカルティエの香水と言ってすぐに思い浮かぶのは、色々な意味で強烈な印象のマスト(1981、ジャン=ジャック・ディーナー作。ちなみにオピウムのジェネリック品としてCabaretでも紹介したCafe/Cafe:1978の調香も手掛けている)や、宝飾品全般にも通じる、瀟洒が過ぎてゴージャスと成金趣味の汽水域とでも言いたくなるようなギリギリのデザインで、カルティエの作品には一歩も二歩も近寄りがたいものを感じていました。現在日本での正規取扱店はカルティエのトラベルリテールブティック(羽田・成田・沖縄空港各国際線の免税店)だけで、デパートなどのカルティエブティックではフレグランスの取扱はありませんが、並行輸入多数のため国内でも入手性は比較的高いブランドです。

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 カルティエと言えば、昭和の日本では「カルチェ」と呼ばれ、フロアレディのバイトをしている女子大生がお気に入りの客のタバコに火をつけてあげるため、金ピカのライターをグアム旅行の帰りに免税店でゲットしたとか、そのライターが絶対元ネタなアニメや超合金ロボまで登場し、大変な人気を博していました。一方フレグランスにおけるカルティエ全作品の中で最も成功したのは、1998年に登場したジャンクロード・エレナ作のデクララシオン*で、同じ金型のボトルでドジョウが延々と生まれ続けています。今回ご紹介するデクララシオン・ダンソワールもそのドジョウのひとつですが、ジャンポール・ゲランのサポート調香師から2005年にカルティエ専属となり、作の他にもデクララシオンのドジョウシリーズをいくつも手がけているマチルド・ローレンが担当しています。ゲラン時代にはジャンポール・ゲラン作と称しテラコッタ・ヴォワルデテ、シャリマー・オーレジェール(≒オードゲラン)、ゲットアポン、初期アクアアレゴリアシリーズなど多数手がけながら、時代という壁に阻まれ長らくゴーストライターを余儀なくされたマチルドさんでしたが、過去ゲランで粛々と名もなく作り続けた女性調香師たちが近年次々と紹介され、世間がその功を労い、マチルドさんに至っては現在カルティエ専属としてハイピッチで新作を発表し、華々しく活躍している姿を見ると、なにかこちらまで励まされるものがあります。

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デクララシオン・ダンソワール EDT 100ml 一部破損(頭部)
このデクララシオン・ダンソワールは実売100ml40ドルとアフォーダブル系の名に恥じないお手頃価格で、メンズラインですが断然ユニセックス扱いOKのフレッシュなスパイシーローズで、特段個性的でもなく、かといって没個性的でもない、オンタイムに背筋の伸びるきりっとしたローズが、ピリッとしたブラックペッパーやナツメグ、クローブなど医食同源系のスパイスとともにすっきりと香ります。立ち上がりにシトラスがない分落ち着いた香り立ちですが、重さはなく、あっさりとしながらも長くリニアに香るところは、少し前の主流といった感がありますが、1990年代~20世紀末から台頭した「薄くて軽くてきつい」香りの揺り戻しでベースがドカッと甘くなった昨今のトレンドからしたら、こういうさらっ、キーン!と香る一本も手許にあったら良い気分転換になると思います。台風前夜の宵風に吹かれたジェントルマンから香るデクララシオン・ダンソワールのラストノートは、最後まで爽やかで少しだけ甘く、仕事帰りで汗まみれなはずのジェントルマンが一瞬汗など無縁の爽やかな青年に見えた、そんな錯覚をおぼえました。今回ご紹介する3種の中では一番のお好みだったようで、実際一番お似合いでした。
 
さてこのデクララシオン・ダンソワール、パートナーとシェアできる夏向けのローズ系香水としてはおすすめライン◎の及第点なのですが、オリジナルのデクララシオンとは名前とボトルデザインこそ継承しているものの、香りは全くの別物なうえ「夜の宣言」という意の名前からもかけ離れた清々しい香調で、その辺にシリーズものとしてのいい加減さというか、ビッグヒットのふんどしをはかせて売っちゃえ感が透けて見えるのと、このボトルが、キャップ一体型のスプレィヘッドが非常に華奢で、通販で買って箱を開ける前にカランカラン音がするので開けてみたら首がぼっきり折れていて、要はそんな繊細なデザインのメタル風パーツが全部プラスチックで壊れやすいというのも、しゃちほこ御殿のお勝手口がトタン屋根、みたいな見栄っ張りに通じるものを感じます。そんな残念なところも、ディープディスカウントのお財布応援団として、細かい所は目をつぶり、香り上等で楽しみたいものです。
 

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頭部破損 ボキッ
*デクララシオン:2018年にはオリジナル20周年を記念してデクララシオン・パルファム(2018)を制作、こちらはエレナ作のオリジナルに敬意を表した香調のパルファム濃度だが、発売とほぼ同時にアメリカのディスカウンターへ流出、パルファム100mlで実売90ドル以下の大廉売。
 
 
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