【パターン4:ドジョウ】
これからご紹介する4つは、現在も全国のデパートに入手可能ですし、説明は不要だと思うので、ざっくりオリジナルとドジョウの違いをお楽しみください。
7.No.19 Poudre / Chanel (2011)
ジャック・ポルジュ&クリストファー・シェルドレイク作 アイリス+ホワイトムスク
8.No.19 / Chanel (1970)
アンリ・ロベール作 アイリス+ガルバナムとオークモス
まずはシャネル19番のドジョウとオリジナルです。ムエット7番と8番を嗅ぎ比べしてください。7番がドジョウのプードレ、8番がオリジナルの19番です。プードレの調香はジャック・ポルジュとクリストファー・シェルドレイクの共作です。最初に、墨をすったような清浄なアイリスがドカーンと来ます。でもオリジナルの青々としたガルバナムはほとんど感じないでしょ?ただ、このアイリスドカンは15分と持たず、徐々にパウダリームスクの甘さが前へ出てきます。このホワイトムスクの甘さが現代的ですね。
ミドル以降もオリジナルとは別物の、パウダリーというほどパウダリーでもない、甘口のムスクフローラルがうっすらと香り、ラスト近くになってようやく、19番の面影が顔を出します。19番が原点というよりは、チャンスやココマドモワゼルの骨格に19番のオマージュを着せ、大量にアイリスを投入した全くの別物ですね。2011年の購入当時、店員さんに「19番の事は一度忘れて楽しんで下さい」と言われました。たぶん19番ファンへ向けたものではなく、あくまで当時売れ筋のチャンス、ココマド、アリュールのユーザーへ、19番を現代的に意訳・拡大解釈したもので、クラシック香水好きにはちょっと違うなと思う部分もありますが、何度か使ううちに言わんとしたいことが伝わってきます。40年ぶりの新解釈をかって出るにはこうするよな、と思います。
19プードレは、浴びるようにつけてこそ良さが引きだされる香りで、オードパルファムだからといって控えめにつけると、ミドル以降の甘さばかりが薄く残って、どこにでもあるデパート香水の香りになってつまらないんですよ。さらに、この19プードレのスプレィは、押切ってミストが止まる普通のヘッドではなく、押し続ければ指を離すまでミストがしゅうしゅう出続ける構造になっており、知らずに指を離さないと吹き付けた場所がびしょ濡れになってしまいます。昭和の時代、ボトルの中になんかのガスが注入してあって、押すとエアゾールっぽくしゅうしゅう出るスプレィが多かったですが、出過ぎるのが流行おくれになったからか、今はポンプ式のナチュラルアトマイザーばかりですよね。ここであえて復活させたところを見ると、19プードレはEDP濃度ですが全身たっぷりと浴びるようにつけるように出来ているみたいで、どんどん出るミストに任せてたっぷりつけると、アイリスの美しさが控えめにつけた時よりも不思議に長く持ち、良さが引き出されます。
ふと気づいたのですが、シャネルのフレグランスは、ゲランや主要クチュリエ系ブランドと違い、ヒット作のFlankers(ドジョウもの)をさほどバカスカ出しません。濃度違いを出すか、まあチャンスは若い子向けなので結構2匹3匹とドジョウが続いていますが、この19番も濃度違いはあるだけで、ドジョウはこのプードレ1匹だけ。しかもほかのブランドみたいに、売り上げに貢献しないとなればさっさと廃番、とはせずに、割と長々売り続けます。オリジナルのココにしたって、ココマドモワゼルの大ヒットの陰に隠れて、今では昔のファンと共に年を重ねているだけでも、ヌワールが出ても、廃番にはなっていません。それだけ、シャネルの香りが定番の人は幸せだという事ですね。
9.L'instant Magie / Guerlain (2007)
アーモンド&ホワイトムスクで粉物度を強化 シルベーヌ・ドラクルト&ランダ・ハマニ作
10.L'instant de Guerlain / Guerlain (2003)
マグノリア&アイリスで粉物 モーリス・ルセル作 ゲランで初のマグノリア
ランスタンシリーズは、先代の専属調香師、ジャンポール・ゲランが2002年に引退し、2008年に現在のティエリー・ワッサーが5代目専属調香師に任命されるまでの間、外部調香師に依頼して作られた時代の作品です。2003年にオリジナルのランスタン・ド・ゲラン(写真右)が、その5年後の2008年にランスタン・マジー(写真左)が登場しました。
いずれも現行販売中で、ランスタンの方はパルファムもあります。どちらも昨年ボトルがビーボトルやクアドリローブ(四葉ボトル)に統一されましたね。オリジナルのランスタンドゲランも粉物ですが、マジーとの違いは、ランスタンはマグノリアとアイリスの粉物、マジーはアーモンドとホワイトムスクの粉物で、粉物感はマジーの方が5割増しといったところです。たった10年、15年前の作品ですが、最近のゲランの作品とは表情が全然違いますね、この時期はまだ甘さがストイックで、幅広い年代の方がてらいなく、長く愛用できるタイムレスな作風で、こういう香りこそ、21世紀のゲランクラシックとして、なんとか最近の子供向け商品ややたらと高いシリーズに負けずに、長生きしてほしいものです。