La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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New-York (1989)

New-York (1989)

オイルランプ香料の調香からスタートし、香料調達から香水製造、充填まで自社一貫生産している世界でも数少ないメーカーであるパルファム・ド・ニコライ初のメンズフレグランスにして、メンズラインナップ中唯一大容量の250mlボトルが定番であり、発売後25年を経てなおブランドの看板であるニューヨークです。

ニューヨークといってもあくまでWASPの富裕なホワイトカラーなイメージのニューヨークで、オデッセィのネイティヴ・ニューヨーカー的有色人種のるつぼ様ではありません。メンズコロンの王道であるレモンとラベンダー、オークモスといった伝統的なフゼアノートの派手なイントロで始まるニューヨークは、フゼアに共鳴するかのように中核のアンバーとパチュリが登場、ゲランのベチバーや戦前クラシック香水のベースノートに通じるパウダリーなシダーウッドに、クローブやペッパーといった爽快かつフレッシュなスパイスが芥子粒のように煌めきます。フジェール・ロワイヤル、ジッキー、ロリガンという名が浮かぶ、フランス近代香水の歴史をきちんと踏襲した丁寧な作りの、端正で知的なメンズ香ですが、きちんとベースを作り込んでいる割りには持続が短くあっという間に拡散して3時間もすれば何事もなかったかのように消え失せてしまいます。長くとどめおきたい場合はムエットやハンカチなどの布にスプレィすると、香りの展開が肌の上よりもゆっくりと、しかも明快に、えもいわれぬ美しいパウダリーアンバーのラストノートがしっかり残ります。

このニューヨーク、2012年頃からさかんに処方変更の抗議が相次いでおり、試しに現行流通品と日本の代理店がオークション出品していたボトルを取り寄せ、かたや公式オンラインショップ現行販売品、かたや外箱のセロファンが経年のため黄変・硬化し始めている、明らかに長期保存されていたボトルの香りを比べたところ、確かに同じ香りではあるものの、決定的に違うのは香圧ともいうべき香りの厚みで、ご多分に漏れずこちらもIFRAの香料規制にオークモスの処方量が引っ掛かり、ぐっと積載量を減らしたか、合成香料に置き換えたのだと思われます。同じ歌を同じ声で、腹式と胸式で歌い違えているような違いで、処方変更品は腹から歌っていないからある意味フゼア系特有の暑苦しさが控えめでユニセックス系としても通用しますが、旧品の方がより男臭く、彼氏の香水を失敬したような雰囲気に陥りそうです。朝の出勤時に一吹きして、いい男といい朝を迎えた演出にはもってこいです。素敵な噂だけばらまいて彼氏はあっさり消えてくれますので、昼にはいつもの香りをつけられますが、今売っているボトルではそうはいきません。その辺の性的魅力が半減してしまうほど、オークモスの規制はゆゆしき問題と言えましょう。処方変更前の胸板厚いニューヨークは今なら日本の代理店で、さっぱりとした現行品はオンラインショップでどうぞ。
 
定価:30ml 36€ (100ml,250mlあり)国内価格 30ml 5,500円 オークション出品あり

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