Gucci No1 (1974)
ギィ・ロベール師の作品は、さすがは巨匠の誉れが高く、リニューアルされたものも勿論ありますが 現在も数多く現存しています。一方で、廃番となって最も惜しむ声の高いものといえば、 現在はヤング向けチンピラ香水百貨店のように変わり果てたパルファム・グッチの為に師が作ったグッチ初出の香り、本年生誕40周年であるグッチNo1だと思います。
ロベール作品の裏番長ともいうべきNo1は、表現の違いこそあれ、集約すると「今、これほど 知的で洗練された『女』の香りを輩出するブランドがあるだろうか?廃番はかえすがえすも口惜しい。くれぐれも、手に入らなくなる前に嗅いでみて欲しい」という共通の嘆きを、 何度見かけたかわからない程、欧米では評価の高い香りです。フローラル・アルデヒドと分類 されている事が多いのですが、オークモスが効いていますので体感としてはクリーミーな フローラル・シプレで、実際のところアルデヒドは徹頭徹尾黒子に徹して他の香料のリフトに つとめている程度のさじ加減で、快活なフルーティノートでスタートした後は主軸のフローラルにクリーミィなサンダルウッドやオークモスなどシプレの味わいが折り重なり、無数の光を放つ 滑らかなカボション・カットの貴石さながらに香り立ち、知性と情熱、母性と情念が渾然一体と なった一筋縄ではいかない、滑らかなシルクのブラウスにうっすら乳首が浮いているような、穏やかな面立ちの中にるつぼのような情熱を秘めた「大人の女」を 表現しています。この当時のトレンド、グリーンシプレのようにとがった主張は一切せず、 ニベア/オロナイン系の柔和な心地よさも兼ね備えているので、昂揚感ばかりでつけ疲れるということもありません。
香りがもはや生産されないのも勿論残念ですが、この香りが意図し、この香りが似合う、奥行きのある端正な「大人の女」を見かけなくなったというのが、最も残念です。
これだけ評価の高いグッチNo1ですが、日本では作品としての評価が伴わず、ただの「昔のグッチ」 程度にしか扱われていないのか、香水としてはB級イメージがつきまとい、デッドストックのボトルが二束三文でオークションに出回っているのを見ると、当時はグッチとしても満を持してブランドイメージを委ねる思いでロベール師に依頼し、世に出した香りへの評価と認識がこんなものか、というのも裏寂しい思いがします。オードパルファムとパルファムの2濃度が発売されましたが、EDPでも 香り持ちがよく、この香調にしては少々どっしりしすぎのパルファムよりも華やかな表情が楽しめますので、もし未使用品のEDPボトルを見かけたら、ローベルファンは迷わず必携、試して損はないと思います。
オードパルファム 125ml