24,Faubourg (1995)
ヴァンキャトル・フォーブル(24の次にはカンマがつくのが正式)は、パリのフォーブル通り24番地にあるエルメス本店の住所をそのまま戴いた香りで、ボトルもエルメスの顔であるスカーフを象っており、度々限定デザインのボトルが発売されており、エレナ前(~2004)の近作としては代表格の作品といえましょう。パルファム、EDP、EDTの3濃度に加えオーデリカート(オーレジェール、ライト版)、豊富なバスラインが揃い、折々に限定品も発売されます。
調香はシャネル出身でトカド、エンヴィなどの大ヒット作を持ち、ゲラン初の外部調香師としてランスタン・ド・ゲランを作った「マリオおじさん」ことモーリス・ルセルで、フレデリック・マルの「身を焦がすムスク」もルセル作です。日本ではEDTとパルファムが発売されていますが、パルファムを置いている店舗はごく限られており、基本的にはEDTが主流のようですが、可能ならばEDPを御手に取って頂きたい香りです。というのも、出始めの頃、トラベルサイズのEDTを所有していて、その頃はなんて可愛げのない、気取った香りなのだろうと、大して使わずに手放してしまいましたが、先日たまたま免税店限定発売のEDPを羽田で試す機会があり、EDTのつまらなさとは比べ物にならないシックなフローラル・シプレに驚きました。先入観から全く期待せずムエットに数プッシュして、バッグに放り込んでいたのですが、バッグをあける度に予期せぬ芳香が立ち上るので、帰国後数年前日本で限定発売された100mlEDPボトルを入手しました。
香りとしては、路線で行ったらパルファム・ディヴィーヌのディヴィーヌEDP(1986)に良く似ている、ピーチとベルガモットのトップにジャスミンやアイリスが主軸となり、ベースにしっかりパチュリやサンダルウッドが座る、端正でシックな脇が堅い感じのフローラル・シプレで、エルメスのレディスの中では、実際のクラシック香水であるカレーシュよりもクラシック感が強く、香り立ちもメリハリが効いているのと、この端正さ加減がカジュアルやリラックスタイムには合わせにくいので、オンタイム中心の香りとなります。この正装感がいい感じで気分を上げてくれるのですが、ちょっと残念なのが、ラストノートが若干だらしない所で、良家のご婦人であろう美しい女性が、他家へお邪魔する際、玄関で靴をはき捨てて上がりこんでくるような、生まれ育ちではなくDNA的に持ち合わせた素性の悪さみたいなものを感じる時が日によってあり、使用している香料の違いなのか、ディヴィーヌと比べより構造が複雑で厚みがあるせいなのか、この辺が、徹頭徹尾上品なまま消え去っていく、天性の品格を持って生まれたディヴィーヌとの違いですが、そんなちょっとしたお行儀の悪さはすぐに気にならなくなる程、全体的な完成度は高いので、最近の香りで、いい意味でスクエアな、作り込みの利いたフローラル・シプレをお探しなら、海外通販では普通に入手できますので、ヴァンキャトル・フォーブルの、くれぐれもEDTではなくEDPをお奨めします。やっぱり国内のエルメスブティックで、という場合は、このEDPが、より端正で背筋の伸びたような、美麗なパルファムの方をどうぞ。
オードパルファム(2009年限定ボトル)