Period D: End of Economic Boom (late 1960's - 1970's)
Ma Griffe (1946), as the predawn of Green Floral/Chypre Aldehydic scents
1945年にメゾンを開き、戦後のオートクチュール界を席巻した御年104才(2013年現在)のクチュリエ、マダム・カルバンが初めて発売した香水、マグリフ(1946)のヴィンテージです。調香はタブー(1932)、カヌー(1936)、ショッキング (1937)、ミス・ディオール(1947)を輩出した大御所、ジャン・カールで、その緑と白のパッケージが全てを物語っており、軽やかで親しみやすいながらも凛とした存在感があり、いい意味で相手を刺激しないやさしさは後に続くイグレック(1964)、クリマ(1967)、カランドル(1969)といった一連のグリーン・シプレ・アルデヒドの原型ともいえましょう。欧米では親の世代が使っていて大好きだったので自分も、というコメントが圧倒的に多いのが特徴的です。パルファムですがあまり香りもちはせず、美しく肌に馴染んだ後に消え入ります。カルヴァンは2010年に主任デザイナーが変わり、2013年秋、67年ぶりに大々的なリニューアルとなったマグリフ、機会があれば香り比べをしたいと思います。
マグリフ パルファム
Climat (1967)
1935年に調香師・アルマン・プティジャンが香水店として創立し、今や世界的ブランドとなったランコムが、1967年に発売した名香、クリマです。クリマは2005年「ラ・コレクシオン」としてオリジナルの調香にてEDPで限定復刻されたほか、一般流通品としてフランスランコムにてEDT(75mlのみ)がありますが、注意すべきは80年代後半に生産終了しているパルファムで、ランコムの公式ラインナップにはないので、現在海外通販などで見かける14mlサイズのパルファムはクリマが人気だった旧ソ連諸国向けの偽物が殆どで、もし仮に本物のパルファムであれば、1,000米ドル近くすることもあるそうです。
さわやかなアルデヒドのトップから、やがて極上のクリームのようにまろやかなグリーン・フローラルへと展開しますが、一貫して明るく優しい香調は、欧米では発売後40年以上経った現在もクリマの名は名香として広く知られ、多くの香水ブログで「母が使っていた、私が戻っていく香り」と2世代に亘り愛されています。毎日使ってもつけ飽きない親しみやすさは、現在も「トレゾァ」「ポエム」「ミ・ラ・ク」など、世界的ヒットを輩出するランコムのパフューマリーとしての実力を物語っています。
クリマは、手に入るなら断然EDPの調香がよく、限定EDPとほかの濃度との差は、さしずめオリジナル原稿とそれを受け取ったファクス原稿の差ほど体感します。とはいえEDTでも充分に良い香りなので、EDPではいかほどか、想像していただけることでしょう。
ランコム・ラ・コレクシオンより。右から2番目がクリマ
Calandre (1969) & Rive Gauche(1971)
パコ・ラバンヌより1969年に発売された初出の香り、カランドルです。調香はその2年後にジャック・ポルジュとの共作でリヴ・ゴーシュを作ったミシェル・イーです。彼は戦後〜高度成長期の明るく必ずグリーンが主張するフローラル・アルデヒド/シプレ系の大家で、ニナ・リッチではフィーユ・ディブ(1952)やファルーシュ(1974)、サンローランではY(1964)やリヴ・ゴーシュ(1971)、そしてP・バルマンではイヴォワール(1979)と、いずれも当時大ヒットして日本でも人気を博したものばかりなので、中年以降のかたであれば、日本にいても必ずやどこかですれ違っている香りを生み出した調香師といえましょう。
発売当時は、それはもう「カッコいい香り」の代名詞のように紹介されていましたが、今香るとそれでも身持ちの良い、控えめな香りの部類だと思います。当時としては斬新なグリーン・フローラル・アルデヒドのすっきりと
した中にどこか熱源反応を感じるような温かみを併せ持つ、クラシックかつスタイリッシュな香りで、20世紀末に一旦廃盤となり、2002年に同じく廃盤となっていたメタルと同時再発されましたが、昨年初めに惜しくも再び廃盤になったようで、海外ではすでに流通量が減り、入手が困難になってきています。
一方でカランドルは、同じ作者のリヴ・ゴーシュと酷似しているとよく話題になる香りでもありますが、同じEDT濃度をつけ比べてみると、カランドルの方が若干造作が粗く、リヴ・ゴーシュの方がより精製されてシャープに香ります。いうなれば、同じ砂糖なら白糖とグラニュー糖、塩なら粗塩と精製塩位の違いですが、カランドルに感じる謎の熱源反応はリヴ・ゴーシュにはなく、逆にきーんと長持ちする一方でカランドルはまろやかに肌になじみながら薄れていきます。この2年の差で、カランドルが自信を付けてより意見を言うようになったのがリヴ・ゴーシュで、どちらがお好みかは体感による、と言ったところでしょうか。いずれも、高度成長期のアルデヒド好きにはたまりません。個人的には、カランドルの方が、一生懸命頑張っているけれど、ちょっと脇に隙があって好きかな、というところです。
こうした香りをどんどん廃番にして、パコ・ラバンヌが安っぽいイメージの大衆香水ばかり出すようになって久しいですが、かつてはカランドル、メタル、ラ・ニュイ、プールオム(唯一現行品)という大人の香り四天王を輩出したブランドですので、この4つだけは永久定番にしてほしいと願います。
Infini (1970)
フランスのグラン・パルファム、キャロンが1970年に発売した、現代の名香と評価の高いアンフィニです。
「無限」の名を持つこの香りは、「詩人や科学者がようやく無限性なるものに辿りついた1970年、キャロンは香りで『無限』を表現いたしました」とキャロンHPで紹介されている通り、グリーンがそこここに顔を出すフローラル・アルデヒドの香りは、つける時によって様々に表情を変え、一筋縄ではいかない多面性が魅力です。現在パルファムとEDTの2濃度展開で、国内販売はありません。カネボウ時代にはPDTも販売され、カネボウ時代のデッドストックが時折リサイクル店などで見かけます。
オーデトワレは香り持ちは良い方で、パルファムと比べアルデヒドが若干全面に出る感じです。パルファムはかなり香り立ちが強く、EDTにくらべ目鼻立ちのはっきりしたクールビューティといった感じです。夏場につけるとアルデヒドのきーんという爽快感が癖になりますが、体感温度が下がる香りなので、暑さ寒さも彼岸まで、アンフィニも秋のお彼岸が過ぎる頃には来年までお休みです。
First(1976)
ショーメ、ブシュロンと並び「グランサンク(世界5大宝飾店)」の称号を与えられた宝飾商、ヴァン・クリーフ&アーペルが1976年に発表した初のフレグランスです。ジュエラーとしても初めてのフレグランスだったそうです。
調香師は現エルメスのメゾン・パフューマーで、ブルガリのオ・パフメなど数々の名香を手がけた、ジャン・クロード・エレナです。
ヒヤシンスとアルデヒドのトップノートに始まり、ランを中心としたホワイト・フローラルのミドルノートから、アンバーを軸としたウッディノートへとまとまる、知的で品のあるフローラル・アルデヒドの代表作です。アメリカなどの香水サイトでは、アルデヒドの名香ベスト10には必ず入っています。日本ではしばし廃盤になっていましたが、2008年夏ファースト・プルミエブーケと共に再上陸、全国有名デパートのフレグランスカウンターで大々的に紹介されています。
日本ではEDTが再発されただけですが、日本未発売のEDPはトワレよりも更にきりっとして、正装感の強い「仕事で勝負」系です。大切な商談の時にどうぞ!優しさは控えめです(笑)さらにパルファムは、ジャスミン、ヒヤシンス、アルデヒド、もうどれも厚盛りで、きりっきりに香ります。度のきついメガネを掛けて何もかもが見えすぎる集中力を要しますので、体調と相談してお使い下さい。
- Appendix -
Dの時代の香りには、戦後まもなく発売されたマグリフにルーツを見出すグリーン・フローラル・アルデヒドの発展段階として、下記のようなイメージが髣髴します。
1.クリマ(1967)男性の庇護のうちに開花する自立、みたいな、まだ自分以外の後ろ盾のある強さが見える、社会に出ようとしている女性のイメージ
↓2年後
2.カランドル(1969)その彼女が仕事を始めて、主張も通さなければならない場面で、めりはりのある化粧も身支度も覚え始めた女性のイメージ
↓2年後
3.リヴ・ゴーシュ(1971)その彼女が今ではお化粧もスーツもばっちり着こなして、目力もめっきり強くなったけれど、まだ何となく可愛げがある女性のイメージ
↓4年後
4.ファースト(1976)その彼女が問答無用で強く美しくなり、時には優しさすら感じられなくなった、隙がなく主張の強い女性のイメージ
番外:アンフィニ(1970)
微妙に不思議テイストが加味されていて、何を考えているか分からない部分がある。相当主張は強いけれど、かといってバリバリ仕事をしそうでもない。何を主張しているかはヒ・ミ・ツ♪