La Parfumerie Tanu

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No.19 (1971) EDP

No.19 (1971) EDP

19番は、エルネスト・ボーの後継でシャネルの2代目調香師であり、古くはコティのミュゲ・ド・ボワ(1936)、シャネル・プールムッシュウ(1955)、のちにクリスタル(1974)を作った、ギィ・ロベールのおじでもあるアンリ・ロベールの手によるグリーン・フローラル系の代表格で、結構な確率でライトフレグランスの部類、リラックスタイムにお奨め、と紹介されていますが、とんでもない話です。確かに19番はグリーンの際立つフローラル系の頂点にいると思いますが、このグリーンが曲者で、自然を彷彿とする豊かな「緑」ではないうえ、単なるフローラルのように徐々に香りが抜けて消えゆかずに、つけた時よりも時間が経ってからの方がものを言うというか、主張し続ける感じがあり、とても寛げる香りではありません。相手が徐々に後ずさっているのもものともせず、人差し指を絶えず指しながら口角泡飛ばし声高に話す、臨戦態勢のビジネスウーマンといったイメージがつきまとうので、どちらかというと大事な商談など、檄を飛ばす時こそ出番です。私自身、平日の昼間にしか使いません。19番をつけたら、自分も相手も居眠りしている暇はありません。ファースト(1976)にも同じ攻撃性を感じますので、含まれる主軸の香料、ヘディオンとガルバナムに人を安心させない因子があるのだと思います。試したのはEDPですが、パルファムのほうがもう少しアイリスが前に出て落ち着いた感じになり、ヴィンテージのパルファムではさらにまろやかで落ち着いたグリーンシプレでつけやすいので、初めてお手にする方は、できればヴィンテージのパルファムをお奨めします。

是非、お友達がシャネルカウンターで「おうち用にリラックス系の香りが欲しい」と19番を手にしようとしたら、その人は確実に寛ぎの場を失ってしまいますので、全身で止めてあげてください。休日の昼間、部屋でごろごろしていたら「ちゃんとスーツ着て仕事しなさいよ!」と怒った19番の声がどこからか飛んできそうです。

ちなみに19番は何故か男性受けがよく、勤務先で余り接点のない中年男性がすれ違いざまに立ち止まり、戻ってきていい香りだね、と言われた事がありますが、ご本人曰く「爽やかでいい香りだね、シャネルなの?5番なら知ってるけど。5番はくっさいよねー」と言われ、19番より5番の方がはるかに出番の多い私は、この「くっさいよねー」にかなりショックを受けましたが、現代男性のクラシック香水に対する偽らざる感想として、しかと受け止めました。

1970年代パルファム、パーススプレー、現行EDP

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