La Parfumerie Tanu

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Pour un Homme de Caron l'Eau (2018)

A Gentleman Takes Polaroids Chapter Thirty Four : Lavendar Gentleman 
 
立ち上がり:うーん 人気ある香りだと思うのですが私はこれ苦手だ…ラベンダー香ですが重い!起き抜けにフロリダデスメタルを聴かされた気分。身の回りに辛い香りが満ちていく。
 
昼:少し薄まったけど印象は変わらず。フロリダデスメタルから北欧デスメタルに変わった位だ。教会焼き討ち!
 
15時位:ようやく耐えられるくらいに。バニラ香が出てきたような。バーミンガムのデスメタルだ、ナパームデスだ!イヤーエイクレコードものだ。1曲2秒!
 
夕方:ここでムスク系の残香出てきて落ち着いた。頭の中ではキングクリムゾンのエピタフが流れてる。混乱は我が墓碑銘!
 
ポラロイドに映ったのは:カタコンベの骸骨…理由はない!
(すみません・・・デスメタルは嫌いではないです)
 

Tanu's Tip : 

短くも長かった緊急事態宣言終結が表明された本日、私の頭の中に流れるのはGavin Fridayがカバーしたボブ・ディランの曲'Death is not the end'。オリジナルのディラン版は聴いたことがありませんが、ギャビン・フライデーのデビュー作「ギャビン・フライデーの世界(廃盤、現在はiTunes/Spotifyで配信)」に収められたこのカバー、サビの部分では

...Not the end, not the end

Just remember, that Death is not the end...

と延々繰り返され、優しいメロディに乗っていかようにも解釈できる歌詞がぐりぐりと心に刺さります。

この歌詞、今大事なのはDeathではなくて'not the end'の部分です。終結宣言と共にデパートや観光地へ押し寄せる人々、突如混み始める公共交通機関、一方ライブハウスやカラオケボックス、のぞき劇場やヌードスタジオは休業要請緩和へのステップに全く乗せてもらえません。バランスが悪いなあ…これで感染の第2波が来ても、あの時諮問委員会がOKって言ったから~♪、と責任のなすりあいをするのは火を見るよりも明らかです。ほんと、バランスが悪い…This is not the end、終わりのない世界、これが今日から始まる新しい日常です。

1904 年創業から幾度の買収を経て 2018 年「自分が好きなブランドだから」とロスチャイルド家の末裔が買い取り、首の皮がつながったキャロン。国内でも幾つかの(あれではなくて何故それが?的)作品が細々とオンライン販売されているだけで、徐々に人々の記憶から薄れていく斜陽の大物です。そのキャロンが、新生第一弾として世に送り出したのが、発売から80余年、キャロンの屋台骨として玉座を譲らぬプールアンノム(1934)の5匹目のドジョウ、プールアンノム・ド・キャロン・ローでした。

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プールアンノム・ド・キャロン ロー EDT125㎖ 日本未発売


ラベンダー、粉バニラ、ムスク、以上。「ああいい風呂入った」系の金字塔、プールアンノムは、これまで4匹ドジョウが誕生しましたが、なぜかオリジナルを濃くする方向に動く、メンズにしては珍種のドジョウが多発、その合間にスポーツフレグランス版が出て、そのあくどい爽やかさに昨夏ジェントルマンが玉砕したのはご記憶に新しいところだと思いますが、このロー版は「これこそがプールアンノムのスポーツフレグランスと呼ぶにふさわしい逸品」と、買収後第一発目は肩に力が入りリブランディングし過ぎて、今昔双方のファンを失いかねない危険をはらむところ、市場には概ね好意的に受け入れられたようで、プールアンノム好きな私は安心してブラインド買いし、ジェントルマンにお願いしてポラロイドを撮ってもらったら、これがまさかのカタコンベ。

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カタコンベの地下墓地、パリ

しゃれしゃれこうべが全員こっち向いています。香りとしてはさながら「プールアンノム・ラベンダーゼラニウム」、よくエルメスが、往年の作品のドジョウを作る際、オリジナルの骨格の一つを拡大解釈するような(例:アマゾン→ローズ・アマゾン、ベラミ→べラミ・ベチバー、エキパージュ→エキパージュ・ゼラニウムなど)プールアンノムのラベンダーな部分にスポットライトを当て、そこにライムとベチバーをトッピングしてハーバルな岩清水感を、ゼラニウムの苦味をスパイスに、ベースにムスクではなくアンバーを加えて甘さを増し、瑞々しく…と、え、これジェントルマンの好きなエレメント満載なんじゃないの?と思うんですが、横で悶絶しているところを見ると、本当につらいようで、思うにこの新たに加わったベースノートがちょっとケミカルな感じはしますが、許容範囲内で、オリジナル版プールアンノムの風呂上り感が後ろに引いて(要はパウダリー感が減って)、さらっとシトラスフローラルのカクテルみたいに仕上げた感じなので、これからの季節に丁度良いのではないかと思います。それなのにジェントルマンは、素材の悪い不織布のマスクをして、顔の形は半透けだが通気性が悪くて胸が苦しい、息が詰まる、そんな苦しみ方をしています。それじゃ私も実装してみるよ!とシューシューかけたものの、どこがそんなに苦しいのか?つけて小一時間経った私の腕をジェントルマンに試香してもらったところ「あっ、好きな香りじゃないけど悪くない。俺の肌に乗せるとこんなにも悪化するのか」と更に落胆していました。 

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薄くてくどい…というと、飲み物で言ったらカロリーオフ炭酸飲料の後味に通じるものがある。私は人工甘味料の甘さがとても苦手で、だったら無糖か、耳かき程度の本物の砂糖を使って欲しい、と常々思う

先ほど'Death is not the end'の歌詞で、大事なのはDeathではない、と言いましたが、ポラロイドを映す過程でファインダーに映ったのが、どいつもこいつもデスメタル。しかもそれぞれ出身地やノリやスピード感が違いますが、共通項は「猛烈な轟音の浴びせ倒し」。デスメタルというのは、バンドとファンは爽快な高揚感に溢れながらプレイを楽しんでいても、門外漢にはただの拷問、というジャンルの音楽です。爽やかなのに、死ぬほど苦しいのは、ジェントルマンにとってのプールアンノム・ローに似ています。せめて最後に、ジェントルマン心のふるさと、キングクリムゾンのエピタフで介錯できたのは、武士の情けといえましょう。早速アメリカのディスカウンターでは125㎖サイズが実売5,000円もせずに流れてきていますので、私の実装レビューで良さそうかな、と思ってくださったら、この夏の普段着用に惜しみなく使い倒してください。

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①フロリダデスメタル(モービッド・エンジェル) ②北欧デスメタル(バーズム) ③バーミンガムのデスメタル(ナパーム・デス)上記はいずれもタヌ(①、③)もしくはハン1(②)が1990年代、トイズファクトリーレコードから国内盤発売当時、対訳を担当したデスメタルバンド
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