オランダはロッテルダムの正規代理店、リアンヌ・ティオ・パルファムのロジャ・パルファムカウンター。パルファム推しのロジャだが、少しでも気負わず試して欲しいからか、リアンヌ店ではEDPを中心にラインナップ
2007年に「この3つさえあれば、どれかは気に入ってもらえるはず」とフローラル・シプレ・オリエンタル系各1種ずつのレディスフレグランスから真摯にスタートしたはずのロジャ・パルファムですが、近年の目に余る右肩上がりの価格高騰と新作の乱発に合わせ、'Great Britain''United Arab Emirates Spirit Of The Union'など右傾化・中東向け輸出産業化する作品の題材や、名声の次に欲するのは何かと問いたくなるような国家要人とのツーショット写真頻出なSNSなどを見ていると「この人、どこまで行くのかな…」と少々残念にも思えてならない最近のロジャ・ダヴ氏。まあ、基本方針がラグジュアリーなので、そもそもアフォーダブル系だのインスパイア系だの喜んで紹介しているLPTには釣り合わない題材ですが、個人的に彼の著作’The Essence of Perfume'(邦題:フォトグラフィー 香水の歴史、原書房刊)を非常に気に入ったところからのお付合いで、未だにあの本は名著だと思いますので、もうしばらく動向を追っていきたいと思います。
初出3作から5年後の2012年、パルファムのラインナップにお手頃なシングルノートのエキストレシリーズ(現7種)が加わりましたが*、ガーデニアはその一つで、調香師憧れの花、ガーデニアをこの世で最も美しく再現したとご自慢の逸品です。ただし、この香りがガーデニアかというとガーデニアにあらず、ダヴ氏お得意のクラシックテイスト満載ないつものホワイトフローラルで、キーノートはやっぱり王道のジャスミンとオレンジブロッサム。そこにヘリオトロープやバイオレットの粉質の甘さとローズの酸味が加わり、シダーやサンダルウッドのウッディノートが骨格を作り、ムスクやスティラックスが胸板を…あれえ?これって全くもって昔ながらのよくあるどフランス香水じゃないですか。そもそも精油が取れない上、どんな名匠をもってしても再現不可能といっていい程難しいくちなしの香り、香水博士の腕も力及ばず、くちなし感ゼロのこのガーデニアを「奥様、くちなしのお香りがお好きならこちらがおすすめよ」と、よもやハロッズの店頭で勧めてはいないか心配です。祖母の遺品整理をしていたら手つかずの古い香水が出てきて、封を切ったら全然痛んでなくてなんとも言えない良い香りだけど、これってそれ?それともあれ?という印象の、それ自体には際立った個性のない、時代の代弁者のようなタイムマシン系なので、戦前の美しく奥行きの深いホワイトフローラルが好きだけど、一発でそれとわかる強烈な印象の香りでなく、あくまでクラシックな雰囲気が欲しいという方にはおすすめです。パルファムならではの染み出る香り立ちとスタミナのある持続はさすがパルファム推しのロジャ作、損した気分にはなりません。ただしくちなし香ではありませんが。
ちなみに、綺麗な女性の顔をまじまじ見ようと顔を近づけすぎて目の焦点が合わないような気分にも似た、つけていてちょっと息の詰まることもあるガーデニアですが、不思議とムエットで嗅ぐと甘味と酸味、青みと丸みのバランスが俄然良くなり風通しの良い透明感が増すので、直接肌につけず下着やハンカチに含ませてお持ちになる方が、この香りの良さをより楽しめると思います。とはいえ、かえすがえすもガーデニアの香りではありませんので、くれぐれもくちなしのシングルフローラルだと思ってお手に取りませんように。しみじみ、くちなし香の再現って難しいですね。価格はロジャのパルファムでは一番お手頃な50mlで£ 275(≒52,000円)。高っ!
*2015.11追記
ロジャ・パルファムの公式オンラインショップからエキストレシリーズのラインナップがなくなりました。ロジャ作としてはもはやお手頃すぎるため、廃番にされた可能性あり。ロジャ氏の大本山、サロン・ド・パルファム(ハロッズ内)や独ファーストインフレグランス等の通販サイトではまだ取扱がありますが、古い規格のEDP100ml(現在はEDPも50mlに縮小、但し価格は100mlと同じ)も混在していることから、売り切り御免で掲載している物と思われます。ガーデニアは発売後3年で廃番となると、ファッションフレグランス並の新陳代謝ですね。
Special thanks to : Lianne Tio (Lianne Tio Parfums)