ゲランの広報・リウなどの復刻監修を経てロンドン・ハロッズの5階に高級香水店、ロジャ・ダヴ・オートパフューマリーを開店後、グロスミスやウビガンなど名だたるクラシック香水の復刻を監修しつつ、更には自身の調香によるロジャ・パルファムを立ち上げ、本年はショップがロンドンに続きスイスやドバイにも進出、破竹のごとき勢いで活躍中の香水博士、ロジャ・ダヴ氏が2007年、トリロジー・シリーズと称して発表した3部作のうち、オリエンタル調にあたる、エンスレイヴドのパルファムです。ちなみに三部作はエンスレイヴドの他にフローラル系としてフラカ似のスキャンダル、シプレ系として3部作中最もアンニュイなアンスポークンとなります。
「世界最高級の香料を使用した、世界最高級の香水」と自身が言ってはばからないロジャ・ダヴの香りはゲラン出身者だけあって、おしなべて歴史的名香に敬意を表したオマージュであり、しかも全身全霊を捧げているのが、彼の香りの一つ一つ、好みの違いこそあれ、どれも一切手を抜いていないのが良く判ります。ただ、逆を返せば、クラシック香水の王道を丁寧に踏襲している分、何となく何かに似ていると思わせるのも確かで、このエンスレイヴドも、初めて嗅いだ時、
「…アバニタ?」
と思わずにはいられませんでした。余りにそっくりで、ぼんやりつけ比べたらどちらがアバニタかわからない程似ています。ここまで似ていると、かつてモリナールがテュエリー・ミュグレーに訴訟を起こされ、敗訴してしまい、処方変更を余儀なくされたニルマラとエンジェルの関係を思いださずにはいられませんが、エンスレイヴドがアバニタに酷似しているというのはあちこちで囁かれている周知の事実なだけに、モリナール自体はどう思っているのか興味深い所ですが、ただそれではエンスレイヴドにもアバニタにも失礼なので、違いが判るまで毎日毎日、エンスレイヴドとアバニタをつけてみました。
アバニタは、色でいったらこげ茶色ですが、エンスレイヴドは、アバニタの持ち味である渋苦いベチバーやタバコノートが含まれないため、一見焦げ茶に見えるが実は深い深い紫色で、しかもブリリアントカットの施された表面にはオパール加工が施され、光が射すたびに閃光を放ちます。その煌めきが、例えばジョイのグラース産ジャスミンであったり、ルールブルーのオレンジであったり、アバニタだけでなく多くの名香のオマージュが重なり合います。これが、単なる模倣とは言い切れない、得も言われぬ美しさで言葉を失わせ、纏う者をエンスレイヴ(虜にする)します。最初は、なんだアバニタの完コピか、とさじを投げていた私も、何度も何度もつける度にすっかりエンスレイヴドの虜になりました。パルファムは濃厚で、朝つけたら夜の夜中までしっかりと溢れる残り香を楽しめます。
ただ、一般人が手にするには法外な価格(EDPは100mlで195ポンド(約25,000円)、パルファムは50ml295ポンド(約38,000円)。参考までにゲラン・ルールブルーのパルファム30mlは英国での販売価格178.2ポンドなので、ロジャ・パルファムの場合パルファムが50mlか100mlと大容量のため高額になりますが、実の所価格帯としてはほぼ同等です)なため、アバニタとエンスレイヴドの違いがあまり良く判らない、或いは(当然ですが)リーズナブルな方が良い場合は、エンスレイヴドはあくまで話のタネ、個人的にはアバニタで充分なので、アバニタの新バージョンEDPをお奨めします。価格の話ばかりで殺伐としていますが、新アバニタEDPの場合、モリナールの公式サイトでも75mlレギュラーボトルが定価91ユーロ、更にアメリカでは既にディスカウンターに出回っており、安い所では同サイズが50USドルを下回った価格で流通し始めています。それでもロジャ作を日本にいながらボトルで欲しい!という方には、今秋漸く公式オンラインショップで日本への配送が可能となりました。一方でハロッズにも出店しているコスメショップ、アーバン・リトリートのオンラインショップでは、全アイテムではありませんが主だったロジャの香りは取扱いがあるうえ、公式サイトより送料が安い上価格によっては送料無料になるので、欲しい香りの取扱いがあればアーバン・リトリートをお奨めします※。
発売当時パルファムはEDPと同じ100mlサイズ(筆者所有)でしたが、店頭では一昨年あたり、アーバンリトリートでも昨夏100mlが売切れた後50mlサイズになった後、現在はこの50mlダイヤモンドボカンに統一です。ボカンボカン!
2016.1月 追記
※2013年初頭より香水は空輸品における危険物扱いとなったため、英国主要フレグランス通販は、ヨーロッパ圏以外への香水の配送を中止しました。こちらの記事は2012年当時の投稿のため、現在とは事情が違います。ご了承ください。
画像提供:RDPR広報担当