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Coco (1984) parfum

Coco (1984) parfum

ココ・シャネル(1883-1971)亡き後のシャネルから発売されたレディス香水のうち、現在の専属調香師であるジャック・ポルジュが最初に手掛けたのが、現在のシャネルの一般流通ラインナップの中で最も異彩を放つ、ココです。時代は80年代絶頂期、肩パッドがどんどん分厚く横にせり出ていき、日本ではバブル経済に拍車がかかり始めた昭和59年に発売されたココは、当時の大柄・香害系の四天王、プワゾン・ティファニー・ジョルジオと並び、日本でも大変人気を博し、派手な香り立ちに強い残香も手伝い「バブルの香り」として印象が残ってしまいました。現在では、シャネルカウンターでも最も売れない定番品の一つとして、カウンターによってはテスターすら出ていない店もあるほどで、いかに時代の寵児として販売戦略から外れてしまったかがわかります(ちなみに、シャネルカウンターでの売れ筋はココマドモアゼル・アリュール・チャンスの3点に集約しているそうで、実の所5番も売れていないのだそうです)。

それでは、それ程までに「流行遅れ」な香りなのかというと、そうではなくて、当時の購買者のつけ方が悪かったのと、あまりに超然としているその姿が、現代の何につけライトでシアーでルミナスな風潮に、ヘビーでディープでブラックな香りが真っ向立ち向かっているからで、遅れているのではなく動かないからです。動かないとはどういう事かというと、香り自体に引力があるので、時代に乗る気もなければ変わる気もない、私が好きなら私の所へ来なさいよ、という低い声が 聞こえてきそうです。シャネル一般品のラインナップ中、唯一のディープ・オリエンタルなココは、一言で言えば「たくらみのある香り」で、眼光が鋭く口元の微笑みは笑顔ではなく何かの企みを感じる、美しく暖かい中にも緊張感のある強烈な個性に溢れています。もし本当にこれがココ・シャネルをモデルにしているとしたら、ジャック・ポルジュの描写力は天才的としか言いようがなく、個人的にはココが彼の作品の最高傑作だと信じています。

一瞬渋いオレンジやピーチのようなフルーツの爽やかさを振りまいた後、じわじわと 真綿で首を絞めるようにアンバー、バニラ、スパイスがわいてきます。下半身にほんの少しつけただけで、全身が一日中ココに包まれ、時折自分の体温で温められた香気が胸にぐっとくるほどの昂りに、負けそうになることもありますが、この征服されそうな圧倒的存在感の中に、若干の母性が見え隠れするところが抗いがたい魅力と言えましょう。今の時代つけるなら、拡散性の一番低いパルファムを、臍下丹田だけ、またはせいぜい内腿の計3点につけ、くれぐれも上半身の肌が露出する部分にはつけない事をお奨めします。

たとえ売れなくても、オーフレーシュもシマリングタッチも作りようのないほど完結した展開性に欠ける香りだとしても(ココマドモアゼルにココとの接点はないと思います)、ココはココに魅了されたバブル期の女性達と共に歳を重ね、いずれ伝説として永久欠番となっていくのかもしれませんが、いてくれる間は彼女の下へ時折通いたい、と思います。

ココ パルファム0.5オンス

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