Opardu (2012)
昨秋、4番目の香りとして発売されたレディスの香り、オパルドゥです。これが、粉物ファンには抗う事の出来ない秀逸なパウダリー・フローラルで、レディス3点のうち突出してクラシックです。対象年齢は3点のうちぐっと高め、賦香率も堂々32%、通常15%以上あればパルファムと分類されることを考えると濃度は2倍以上、半分薄めてもまだパルファム(笑)贅沢ですね。
オパルドゥとは「どこからともなく浮かんで離れない、でも不思議と懐かしい」創業者フォス氏の造語だそうで、調香は前出2作に引き続きアメリカ人調香師アニー・ブザンティアンです。フォス氏がブ女史に見せたオランダ人野獣派画家で、エコールドパリ繚乱のフランスに帰化したキース・ファン・ドンゲンが挿画した、戦争末期の画集が香りのモチーフになっており、香水の黄金時代でもある1920年から30年代のいにしえ、石畳、眩い光と強い影のノスタルジーに誘う、オパルドゥという架空の過去に吸い込まれます。アイのようなアメリカンな光量は全くなく、完全なヨオロッパの香りに仕上がっており、前出2作が現代を起点として未来へ向けてのタイムレスだとしたら、オパルドゥはスタート地点が確実に戦前、というよりいつの時代の香りかわかりません。ニッチ系が全速力でウードの竹の子もとい雨後の竹の子の如くウードに走っている昨今、いい意味でここまで時代錯誤的な粉物を出してくるとは、オランダ人中々やりますね。
香りの主軸はライラックですが、むしろ体感は冷涼なバイオレットとヘリオトロープが、クリーミーなガーデニアやチュベローズで温められ、ソフトフォーカスなパウダリーノートに乗って、体温と共にほわ、ほわといつまでも立ち上って来るものの、拡散せず自分だけの愉悦に浸れるのはパルファムの真骨頂だと思います。今香っているというよりは、いつまでも脱いだばかりの残り香に埋もれているような温もりと、その温もりが時折すぅっと体から抜けていくような冷涼感のバランス、尖った所がどこにもないまろやかさは、正装にも負けない品格と寛ぎ着にも合う体感の柔らかさで守備範囲が広いので、もし粉物系で現行品の中から、予算度外視で一つ選ぶなら、迷う事無くオパルドゥをお奨めします。また大きな声では言えませんが、ニベアの香りでフレーメン反応を起こしがちな、潜在的ニベア・オロナインファンにも外せない逸品です。
こういった、クラシック香水ファンが願う真にタイムレスな完成度の高い香りを、たとえどれほどコンディションが良くても経年という避けられない劣化のおかげで、常に幾許かは妥協点との折合いが必要な現在、劣化していない、香水としては最高の状態で味わえるのは、至福の幸せです。こういう香りに出会えると、もう目を凝らして実用に耐えうる状態の良いヴィンテージボトルを探さなくても良いと、心底肩の荷がおりた気持ちになります。近年発売されたアルデヒド抜きパウダリー・フローラルとしては、オンブルローズ(リニューアル版)、タンドネージュを抜き、易々と金字塔の座を得ています。ニッチ・フレグランスも、ここまで価格に見合った香りを出してくれば、ネタで終わらず後世にも残れるのではないかと思います。
えええ〜香りや〜…
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ピュアディスタンス(ピュアディスタンス製品)
ヨッチの小道具係(ベーターカプセル)