La Parfumerie Tanu

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Antonia (2010)

Antonia (2010)

エム(2010)と同時発売されたレディスの香り、アントニアです。エムの回で17.5mlはベーターカプセル様だと申しましたが、アントニアの場合本体のガラスがアイと同じく透明で中身が見えるので、より試験管風なのですが、このボトルに共通しているのは、スプレィヘッドの秀逸な性能で、ミストが細かく、しかもパルファムをポイントにつける量としてのワンプッシュが最適化されています。非常に細かく、かつ広がり過ぎないミストをつけたい所につけられるので、香りも特定の箇所から立ち上るというよりは、全身から香気が涌くように香ります。100mlサイズのスプレィヘッドは、もう少しきめが粗く、押し方によっては若干液状に出てくる事もあるので、タッチアップとミストの中間みたいに感じる時もあります(とはいえ、液だれする程ではありませんが。この価格でそれはないですね)。みた所この試験管/ベーターカプセルは外側のケースは色々あるものの本体自体は使いきりで、これだけ性能が良いのにちょっと勿体ない気がします。詰替え可能(リフィラブルってタイプですね)になって、スプレィとかついていない、簡素なリフィルボトルが出れば非常に良心的だと思うのですが…。

前置きが長くなりましたが、調香はアイ、オパルドゥと同じくアニー・ブザンティアンで、アントニアはアイと同じくブ氏ご本人が構想を温めていた秘蔵っ子処方でした。レディスの第2弾としてフォス社長より調香の依頼があった際、ある女性像ー強く、前向きで、しかも優しい女性のイメージを思い描いて作った香りを提案してきたブ氏より「この香りにはもう名前が付けてあるの、アントニアよ」と聞いた瞬間社長は採用決定。というのも、その名は社長の母君の名であり、しかも香りがまさにお母様のイメージそのものだったから、なんてできすぎ120%ストーリーですが、後付けにしてもいい話ですね(笑)この香りが褒められると自分のお母様が褒められているみたいで嬉しいのだそうです。お母様もさぞお喜びでしょう。

てなわけで、依頼した途端ビンゴな香りが出て来て大喜びの社長が採用したアントニアは、アイやオパルドゥとは全くベクトルの違うグリーン・フローラルで、つけた瞬間はザ・春!といった、シャマード(1969)や19番(1970)を髣髴とする、キラキラな陽光や芽吹きの緑が脳裏一杯に拡がる清々しいグリーンで、ガルバナムとヘディオンがアイヴィーグリーンと共にバーストしますが、程なくして透明感が収まると一変してじわじわとマットで密度の高い脂性のパウダリー・フローラルに変わります。ローズ・ジャスミン・イランイランという鉄板どフランスなフローラルに加え、オリスがもたらすマットなパウダリー感がバイオレット&ヘリオトローブ系の粉物であるオパルドゥとは違った粉質で、例えは抽象的ですが、数十年箪笥の中で眠っていた1970年代の香水石鹸を、経年で変化したセロファンを剥き、固形のまま嗅いでいるような感覚に陥ります。昔の香水石鹸な香りに変わると、そこからながーいお付き合いになり、ラストにバニラムスクの甘さが増して着地となります。

またアントニアは日やつけた部位によって印象が変わり、初めてサンプルを手首につけた時は90年代を鼻祖とする、非常に明るく透明なちょっぴり黄色い花粉も混じったミモザ系の香りに感じましたが、数か月経って改めてじっくり全身につけてくり返し試してみると、かくも印象が違うものかと思いました。そういう意味では飽きのこない作りで、脂性の粉質が前面に出る日はシャマードとケルク・フルールの間を彷徨しているような気分になります(シャマード自体、爽やかだけでなく、払ってもぬぐえない花粉のようなべったり感を持ち合わせています)。オパルドゥは年齢不詳、時代不明の香りですが、アントニアは1970年代と戦前を、細かいスパンで往来する独特のクラシック感があり、個人的には不思議とアントニアが一番「時代」を感じさせます。

  

アントニアのイメージ。モデルさんの手指に全然気取りがなくていい

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