2006年にエチエンヌ・ド・スワールが一流の調香師に腕を振るわせ、
既成概念に縛られない自由なコンセプトの香りを生みだすべく設立した
フランスのニッチ・ブランド、エタリーブルドランジュ(オレンジ自由州の意)が
2008年に発売した、トムオブフィンランドです。
最近ではセックスピストルズのコンセプト香水や女優ティルダ・スウィントン、
ロジー・デ・パルマらのイメージ香水などを発売し、話題に事欠かないブランドです。
ブランドの中核調香師、アントワーヌ・リーの調香によるトムオブフィンランドは、
ゲイ/エロティックアートの保護財団・
トムオブフィンランドとのコラボレートによるもので、パッケージにもゲイ画家・
トムオブフィンランド(1920-1991)の、ゲイの権化みたいな絵が使われています。
一般的な香調は、メンズのアルデヒド・パウダリーレザーとなっていますが、
その一言ではすまされない、最近の香りにしてはかなりストーリー性のある
展開をします。
ほわっとしたアルデヒドのリフトで始まり、パウダリー・フローラル系かと
思いきや、リフトがひと段落するとじわじわとパインニードルやヒノキなどの
ドライな消毒系ウッディノートとレザーノートが顔を出し、ハードゲイな革ジャンを
顔にかぶって昼寝したら窒息、みたいな妄想が沸き立つ革ジャンノートと
なって呼吸器系にのしかかってきます。かなり残香性が高く、全身につけたあと
着たセーターが、何度他の香水をつけた後に着てもレザーノートになってしまう位の
破壊力を持っています。
香りの流れとしては、ヒノキやヒバのサウナでじっとり汗をかいたあと、
パイン系消毒薬でピカピカにしたシャワールームでキレイに石けんで洗って、
その後ミニマムなアンダーウェアを身につけ、体にしっくり馴染んだずっしりと
重い革ジャンを着て出かける、というビジュアルが浮かびます。しかし、レザーは
あってもアニマル系ではないので、「体臭」と結びつくイメージが出ずに終始清潔感が
漂うのは、モダンな作りのゆえんでしょうか。
ボトルを手にする勇気があるか否かは別として、コンセプト香水としては、上出来だと
思います。ちなみに、トムオブフィンランドをつけてから、ビレッジ・ピープルの
マッチョマンが聴きたくなり、ベスト盤まで買ってしまいました。
集約して、あの世界から体臭を差し引いて清潔感を増強した香り、とお考え下さって結構です。
なお、トムオブフィンランドはフランスを含む欧米各国の成人年齢である21歳未満の方は購入できません。
追記:取扱いショップによっては、水夫・兄貴(屋外)・兄貴(屋内)など、パッケージのイラストを選べます。クリスマス仕様のも限定であったようです。
写真:エタリーブルドランジュのウェブサイトより。エチエンヌ・ド・スワール氏使用許諾済