La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

No.19 poudre (2011)

シャネル19番の発売より40年ぶりの別バージョン、No.19プードレです。今春ヨーロッパ先行で発売されましたが、日本ではココ・シャネルの誕生日である8月19日より限定店舗にて先行発売後、全国のシャネルカウンターにて一般発売されました。

店頭のテスターをお手に取られた方も多いかと思いますが、何故かこの19プードレのスプレィは、押切ってミストが止まる普通のヘッドではなく、押し続ければ指を離すまでミストが出続ける構造になっており、知らずに指を離さないと吹き付けた場所がびしょ濡れになってしまいます。昭和の時代、ディオールやジャン・パトウなどでもこういうボトルが多かったのですが、現代では見かけなくなったので、つけすぎ防止で廃れたと思うのですが、ここであえて復活させたところを見ると、19プードレはEDP濃度ですが全身たっぷりと浴びるようにつけるのが流儀のようです。調香はジャック・ポルジュとクリストファー・シェルドレイクの共作で、シャネルのウェブサイトでも大々的に紹介しているように、立ち上がりはこれでもかと墨をすったような清浄なアイリスが炸裂します。オリジナルのスタートを切るグリーンなガルバナムはほとんど感じず、オリジナルのように働け働け!という戦闘モードにはなりません。ただ、アイリスの清浄感は15分と持たず、徐々にパウダリームスクの甘さが前へ出てきます。

ミドル以降もオリジナルの19番とは別物の、パウダリーというほどパウダリーでもない、甘口のムスクフローラルがうっすらと香り、ラスト近くになってようやく、19番の面影が顔を出します。近年主流の薄くて、軽くて、きつい香調が、何とか出だしのアイリスで中和され、ベースのパウダリームスクで重力に反しない程度の拡散抑制を保っている感があり、19番が原点というよりは、チャンスやココマドモワゼルの骨格に19番のオマージュを着せ、大量にアイリスを投入した全くの別物だと思いますし、実際店頭のBAさんも「19番の事は一度忘れて楽しんで下さい」と言葉を添える程でしたので、19番ファンへ向けたものではなく、あくまで今売れ筋のチャンス、ココマド、アリュールのユーザーへ、19番を現代的に意訳・拡大解釈した新作、クラシック香水好きにはちょっと違うなと思う部分もありますが、何度か使ううちに言わんとしたいことが伝わってきます。40年ぶりの新解釈をかって出るには及第点だと思います。

なお19プードレは控えめにつけるとミドル以降の甘さばかりが薄く残り、凡庸に感じます。上述のどんどん出るミストに任せてたっぷりつけると、アイリスの美しさが控えめにつけた時よりも不思議に長く持ち、良さが引き出されるので、出だしが気に入った方はつけすぎを気にしてひるんではいけません。

Sep.2011

 

追記 Jun.2016

ふと気づいたのですが、シャネルのフレグランスは、ゲランや主要クチュリエ系ブランドと違い、ヒット作のFlankers(ドジョウもの)をさほどバカスカ出しません。濃度違いを出すか、まあチャンスは若い子向けなので結構2匹3匹とドジョウが続いていますが、この19番も濃度違いはあるだけで、ドジョウはこのプードレ1匹だけ。しかもほかのブランドみたいに、売り上げに貢献しないとなればさっさと廃番、とはせずに、割と長々売り続けます。オリジナルのココにしたって、ココマドモワゼルの大ヒットの陰に隠れて、今では昔のファンと共に年を重ねているだけでも、ヌワールが出ても、廃番にはなっていません。それだけ、シャネルの香りが定番の人は幸せだという事ですね。