La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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LPT Tour de Nederland 4 : At last I meet you, Lianne

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やっと会えたね、リアンヌさん - リアンヌ・ティオ・パルファム訪問記
 
ピュアディスタンス社長、J.E.フォス氏に見送られ、ロッテルダム行特急に乗り込んだ店主タヌ。オランダ鉄道の特急車両はwi-fiも完備、強力な"in de trein"の電波をキャッチし、次なる訪問先であるリアンヌ・ティオ・パルファム店主、リアンヌ・ティオさんに定刻発車した旨を連絡した。1940年、ドイツ軍のロッテルダム爆撃により壊滅的な被害を受けたロッテルダム市は、戦後まったき近代都市に生まれ変わり、ロッテルダム中央駅周辺は、巨大な近代建築の山並みであった。土地勘のない店主タヌは、ひげを切られた狸同然、駅からほど近いはずのブティックに歩いても歩いてもたどり着けずにいたー
 
用意していた地図を見ても、自分がどこにいるのかわからなくなったので、仕方なくGoogleマップで道案内を見ながら、ようやくブティックのあるウェーナ・ザイト通りにたどり着くと、道路の真ん中にど派手なおばさんが、両腕を振って仁王立ちしていました。「こっちこっち、こっちよ!」それが、リアンヌさんと初対面の瞬間でした。
 

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いつまでたっても来ないので、店主タヌをお店の外で待つことにしたリアンヌさん(店員さん撮影)

 

路上でぎゅうぎゅうハグされた後「いったいどこから来たの?!11:30に来るっていうから、今か今かと待っていたのよ。さあ、中へどうぞ。とにかくコートを脱いで、バックヤードに荷物を置いてちょうだい。お水をあげるから」と、店内で一休みさせてくださいました。 

オンラインショップなどでお馴染みの、白を基調としたバロック調の明るい店内は、間口が広いだけでなく奥行きもあり、基本的に商品は壁面に備えた棚に並べ、フロアの中心はディスプレィカウンターとして使用、ゆったりとしたソファもあり、空間を贅沢に使用しています。
リアンヌ・ティオ・パルファムの取扱いラインナップは非常に厳選されており、店舗の広さと比べ、意外にも少なく感じられました。海外の香水サイトを賑わしている泡沫ニッチ系ブランドや、素性の良く分からない復刻もの(笑)には手を出さない、という自負が見受けられます。
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店内正面はMDCI、ロジャダヴ、グロスミス、クライヴ・クリスチャン(ガラス戸付ショーウインドー入り)と取扱いブランドでもそうそうたるメンツが並ぶ。右側はプロフーミ・デル・フォルテ、オーモンド・ジェインやモンタル、SMNなど、正面の四天王と比べ値頃(と言っていいのか)なラインナップ、リアンヌさんの顔がばっちり入った中州のディスプレィ(写真右)は同郷ピュアディスタンスのブースとなっている。勿論左側はアニック製品がずらり。ぼんやり休んでいる間にも、写真のようにお客がひっきりなしに来る、しかも買う
 

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御開帳!!ブラザーにクライヴ・クリスチャンを勧めるリアンヌさん ブラザーお買い上げ

 

<主要取扱いブランド>2016.10月現在
・アニック・グタール(仏)
・ピュアディタンス(オランダ)
・クライヴ・クリスチャン(英)
・ロジャ・ダヴ(英)
・オーモンド・ジェイン(英)
・グロスミス(英)
・パルファムMDCI(仏)
・モンタール(仏)
・アル・アラビア(UAE)
・プロフーミ・デル・フォルテ(伊)
・ロレンツォ・ヴィロレーシ(伊)
・サンタマリアノヴェッラ(伊)
・ベロ・プロフーモ(スイス)
BAKEL(化粧品)
CHRISTPHE ROBIN(化粧品)
 
偶然にも訪問した9月15日は、リアンヌ・ティオ・パルファム開店17周年との事で、当のリアンヌさんも、私に見せてくれた新聞の紹介記事を見て「まあ、今日は開店記念日じゃないの!忙しくて、すっかり忘れていたわ」と、ただでさえテンション高めのリアンヌさんは、どんどん話が止まらなくなっていきました。その間、平日の午前中にもかかわらず、結構入れ替り立ち代りお客さんが来て、しかも見ているとちゃんと買っていくのが、日本のデパートの香水売り場を見慣れている私としては驚きで、ロッテルダムの名物店とは聞いていましたが、お店の隣には世界初の歩行者天国、ラインバーン商店街があり、商店街には老舗デパートも香水チェーン店もあり、またロッテルダム駅周辺も、多数ショップはあるのに、いかに人気の店かを目の当たりにしました。
 
リアンヌさんとアニック・グタールは一心同体
 
リアンヌ「うちは2009年までアニック・グタールだけを扱っていたの。そこからひとつひとつ取扱いブランドを増やしていったのよ。ここに店を出す前は、10数年パリに住んでいたのよ。その頃は、普通に流行りものの香りをとっかえひっかえ使っていたわ。その頃まだアニック・グタールは小さなブティックでね、アニック自身がイザベル・ドワイヤンと一緒に、丁寧に香りを作っていたの。私はもう、そのナチュラルで美しい香りに衝撃を受けて、オランダに戻ることになった時に、ロッテルダムにアニックのお店を出そうって決めたのよ。それがいよいよ開店という、その1か月前に、アニックが亡くなってしまって…」
 
今でも、アニック・グタールについては格別の思いで販売していて、左側の壁にはすべてアニック製品が並んでおり、生前発売されたオーダドリアンのバカラボトルや、オーダドリアンを作るきっかけとなったハドリアヌス帝の伝記「ハドリアヌス帝の回想(マルグリット・ユルスナール著)」を飾った「アニックの小さなミュージアム」と名付けた棚を殊の外お気に入りのリアンヌさんにとって、昨今の韓国企業買収は、実のところ相当の痛手だったようです。

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「アニックの小さなミュージアム」を一つ一つ丁寧に説明してくれるリアンヌさん 手元下がバカラボトル

 

リアンヌ「そもそも、アニック・グタールは家族経営の小さなお店だったのよ。それが、アニックが亡くなって、娘のカミーユさんがブランドを継いだけれど、彼女は調香はおろか、お母さんの事を何もわかっていない。だってすべてアニックか、イザベル(ドワイヤン)がアニックのアシスタントとして調香していたんですからね。そりゃブランドイメージはいいわ。美しき亡き母の遺志を継いだ娘のブランド、そういう美談は世間は大好きだからね。彼女は、どんどんブランドの規模を大きくする道を選んだわ。その代わり、ソウル(魂)を売ってしまったのよ」
 
ー日本では、アニック自身が調香した香りはもう5種類しか手に入りません。アニックの製品は、今でもイザベル・ドワイヤンが調香しているんですか?
 
リアンヌ「もう、誰だかわからない人がやってるわね(※2016年以降の新作より)。フォラヴリル…あんなに美しいフローラルはなかったのに、廃番よ。ベチバーも、原料のベチバーが高くて、オーデコロンだけになってしまった。原料の高い香りはどんどん廃番になっていくわ。納得いかなくて、私はアモーレパシフィックに物申したくらいよ。一時期は、もうアニックの取扱いを本気でやめてしまおうかと思ったの。でもね、やっぱり…気を取り直して、続けることにしたわ」
 
ー確かに、一時期オンラインショップではロングセラーの欠品が相次ぎ、何かが起こっているとは感じていましたが、現在では現行商品が勢揃いし、日本では取扱い終了してしまった往年の名香が再び手に入るのは、日本のファンも喜んでいると思います。
ーお客様の中には長年のアニックファンも多いと思いますが、お店での新作の売れ行きはどうですか?
 
リアンヌ「ローズポンポンはよく売れたわ。これ、今年の秋の新作で、これから入荷するトニュ・ド・ソワレ*なんだけど、どう思う?このところ軽い香り続きだったけれど、これはいいと思うわ。まあ、どこにでもある最近のシプレ系だけどね」
 
ー確かに、ヴァンドフォリやリルオテ、ローズポンポンと続いた後の作品としては、ぐっとコクが感じられますね。
 
リアンヌ「私は、アニックの香りはどれも好き。たった一つを除いてね」
 
ーたった一つ?
 
リアンヌ「たった一つ、モン・パルファム・シェリ・パー・カミーユを除いてね。あれは、クズよ、クズ(大声)!!」
 
今そこに並んでいる看板ブランドの商品を、お客の前でクズ呼ばわり…それも、大声で…惚れぬいたブランドへの愛情と買収による切ない気持ちがにじみ出る、積年の思いが噴出した一幕に、この人、ただの商売でやってきたんじゃないんだな…と、並々ならぬ情熱を感じました。
 

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アニック バタフライボトルコーナー

 

あっという間の17年

 
次から次へと勢いよく、ポンポンと話題を変えながら話してくれるリアンヌさんは、オンラインショップではアマゾンもびっくりの迅速発送と、問合せにはどこまでも親身に対応してくれるだけでなく、どうしてもメーカーの協賛が得られない際は、長年の付き合いで画像提供を甘えさせていただく事があります。
 
ー今年の初め、LPTのロジャ・ダヴ特集の際は、画像提供をありがとうございます。3年前インタビューさせてもらった際は結構協力的だったロジャ・パルファムですが、今年の特集では何度メールをしてもなしのつぶてだったので、ちょうど取扱いを開始したリアンヌさんが助け舟を出してくださり、本当に感謝しています。
 
リアンヌ「正直、ロジャ・ダヴの製品はやたら高いと思うわ。だってクライヴ・クリスチャンより高いもの。でも確かに香りは素晴らしいわ。特にウードね」
 
ー今日は開店17年目のおめでたい日ですが、ご商売の方はいかがですか。
 
リアンヌ「今年は前半、特に3~4月の商売が悪くてね、本当に苦労したわ。7月に入ってきてようやく復調してきたけれど…うちの店は、コーポレートギフトが売上の屋台骨なの。会社が年末、顧客を招いてクリスマスパーティをする時に、プレゼントを用意するんだけど、結構うちに任せてくれるのよ。駐蘭日本大使夫人がよく来てくれるわ。ひとつひとつ商品をラッピングして、すぐに渡せるようにしたものを一括購入してくれるのは、売上としては大きいわ。
この17年間、世の中のバカンスとは無縁でひたすら働いてきたけれど、未だにミリオネアじゃないわ…残念ながら。私にとってホリデイは、フィレンツェの見本市に2泊3日で行って、半分仕事、半分観光で戻ってくる事、それだけよ。フィレンツェと言えば、サンタマリアノヴェッラのショップに行ったけど、観光客でごった返していて、店内も商品一つ手に取れない販売システムに変わって、ベルトコンベアみたいだったわ。うちの店だったらゆっくり手に取って、心行くまで選べるのにね」
 
値引きはしない、そのかわりうちで買い物をした満足を差し上げる
 
ーヨーロッパでバカンスがない人生、というのは相当の事です。ラグジュアリーな製品を販売する陰には、お客側からは決して見えない、たゆまぬ努力があるんですね。
 
リアンヌ「いいこと?香水業界はせこい人間ばかりなのよ!新しく取引をするメーカーが、うちに独占販売権をくれると言っておきながら、陰でよそと取引をしているのよ。ふたを開けたらよそでも売っていて…今までどれだけ出し抜かれたかわからないわ。本当に油断ができない世界よ。お客だってそう。アラブの客は必ず値切ってくる。絶対定価では買おうとしないわ。でも私は値引きはしない。そのかわり、うちで買い物をした満足を差し上げる。古い商売かもしれない、私は素人だから」
 
ーご謙遜を。値引きをしないで17年もやってこれた店主が、素人なはずないですよ。バックヤードには、質素な作業デスクにコンピュータ、棚にはいつもオンラインで注文すると沢山入れてくれるサンプルアトマイザーが山のように仕分けされて並んでいました。値引きで得する店は増えましたが、定価で価格以上の満足が味わえるお店って、そうそうないですよ。店頭ではもちろん、世界中のお客様からの信頼も篤いわけを、バックヤードが教えてくれました。
 
リアンヌ「ウェブサイトも古くなってきている、チャットなどよりお客様とコミュニケートできるようリニューアルするつもりよ。SNSの反応は海外のお客様はよく反応してくれるけれど、宣伝ツールとしては結構手間がかかるし、トレンドのインスタグラムはきれいな写真がメインで情報量が少ないのが難点ね」
 

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リアンヌさんは声がでかい。アクションもオーバーだ。そして物凄い勢いで色々な事を話してくれるのと同じくらい、色々な事を聞いてくれる。そして、帰る時間が近づく頃、私の将来の事をあれこれ本気で心配してくれた。とてもラグジュアリーな空間に初対面の方といるはずなのに、最後は昔から知ってる、近所の居酒屋のおばちゃんと話している気分になった

 
そして次なる夢
 
ー店頭、オンライン受注、そしてSNSでの定期発信…本当に、休む暇がないですね。最後に、これからのリアンヌ・ティオ・パルファムについて教えてください。
 
リアンヌ「11月には香りのトークセッションを開催するのよ。キャバレーLPTもすごく興味あるわ。私、ドバイに2号店を出すのが夢なの。来週にはアル・アラビアの方がいらっしゃるのよ」
 
ーうちの香水キャバレーなんて、リアンヌさんのトークセッションの足元に蚊ほども及びませんよ。私もドバイにはいつか行ってみたいですが、その前にぜひ、ロッテルダム店のラインナップをひっさげて、東京に進出してください。ピュアディタンスの社長も喜びます。今日は寛ぎの時間と沢山のお話をありがとうございました。
 
こうしてあっという間に5時間が過ぎ、フライトの時間が近づいてきました。帰り際にお奨めの1本を選んでいただいた後「お水持っていきなさい、車内で飲んでね。駅はあっちよ。今度は迷わないわね」とミネラルウォーターのボトルをもらい、いたせりつくせりのお見送りをいただいて、ロッテルダム中央駅からスキポール空港へ、そしてウィットネル夫妻の待つマンチェスターへと向かったのでした。
 
Weena-Zuid 144
3012 NC Rotterdam (NL)
tel : +31 (0)10 4049602
 
Opening Hours
Tuesday - Friday : 10:00 - 18:00
Saturday : 10:00 - 17:00
Every 1st Sunday of the month : 12:00 - 17:00
(except July & August, no Sunday shopping)
 
*本国フランスやリアンヌ・ティオ・パルファムでは9月末発売開始のトニュ・ド・ソワレは、日本では2017年1月25日発売予定
 
 
 
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