La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Period A * Pre War (1920-1930)

 

 

Period A : Pre War (1920-1930)

 

No.22 (1922)

エルネスト・ボーがシャネルの為に作った5つの香り(5番、22番、ガーデニア、キュイールドルシー、ボアデジル)の中で、更にはシャネルの歴史においても圧倒的なアルデヒドの積載量を誇るフローラル・アルデヒドの裏番長、22番。現在はパルファムとオードトワレの2濃度で、日本ではシャネル限定店舗での展開となります。

ボーの作品の中では一番時代を感じる22番は、同じフローラル・アルデヒド系といえど5番とは全くベクトルが違い、ジャスミン、チュベローズ、イランイラン、ローズといった王道フローラルに加え、こめかみにきーんと来る、きしむようなアルデヒドが心地よいリフトとなって強烈な粉物感を醸し出しています。ここから80年、数々の追随者を振り払う中、同等の存在感を誇るのはディヴィーヌのラムスール位だと思います。パルファムはもう少しベースのバニラやローズの深みが加わりますので、一番アルデヒドを楽しめるのはEDTだと思います。

Arpege(1927)

シャネルNo.5と並び、世界屈指の名香のひとつで、ランバンの創始者ジャンヌ・ランバンが1927年、彼女が60歳の時、一人娘の30歳の誕生日へと、若干27歳の調香師、アンドレ・フレースに作らせた香りです。
ヴィンテージのパルファム、オードアルページュ(アルページュのオードトワレ版)、1987年より加わったリニューアル版のオードパルファムの比較ですが、最高級のローズ、ジャスミンをふんだんに使用し、アルデヒドを効果的に利かせている点では、使用している原料はNo.5と同じといわれますが、面立ちは全く違い、5番が前を向く端正な美しさなら、アルページュは覗き込むような慈しみ深い優しさを感じます。コンセプトからも伝わるように、母性を髣髴とさせる、優しくふくよかな香りです。
ヴィンテージのパルファムは「これぞ名香」といった、ひと言でいえば「華」のある香りで、肌に乗せるとパウダリックなオリスが表面に強く現れ、比較的持続が短いですが、コットンに含ませて香気を味わう方が、長く、よりクラシックな香り立ちをバランスよく楽しめるのでお奨めです。オードアルページュはパルファムやEDPと比べ、清涼感が強く甘さが控えめです。現行のEDPは、どこかとろけるようなクリーミー感があり、持続が長く天候や体温で割合表情を豊かに変えるタイプです。リニューアル前後でつけ比べも楽しいですね。
日本ではエクラ・ド・アルページュとの交代で廃番になってしまったようですが、海外では今もなお第一線の現行商品で、アメリカなどの香水サイトでは、アルデヒドの名香ベスト10にも必ず入っています。

アルページュ パルファム(1960年代)

 

Zibeline (1928)

毛皮ブランドのヴェイユが1909年に創立したパルファム・ヴェイユの看板香水、ズィブリーヌ。1997年まで長らく販売後廃番、2010年初頭に他の代表的な香りと共に再発売されましたが、再発品は原料の都合もあり、オリジナルをイメージした現代的な香りに変わっています。また、もともとzibelineは同社のパフュームオイル、Secret de Venusのアルコールベース版として発売されたもので、Secret de VenusとZibelineは基本的に同じ香りです。
当初ヴェイユの香水は自社の瀟洒な毛皮の匂いをカバーするために作られたものでしたが、中でもズィブリーヌは歴史が香る濃厚なムスクやシベット、レザーがアルデヒドによって昇華し、パウダリックなオリスで柔らかく帰結する、オリエンタル系アローラルアルデヒドの逸品です。調香はヴェイユの他の香りも多数手がけたクロード・フレッスで、フレッスはアルページュの作者、アンドレ・フレッスの父、現キャロン専属調香師、リシャール・フレッスの祖父でもあります。

ズィブリーヌ

 

L’Aimant (1927)

戦前、フランソワ・コティが直接調香に関わったコティの作品で、一応廃番になっていない香りのひとつ、レーマンです。典型的な戦前のフローラル・アルデヒドで、ローズがしっかりと香ります。路線的には時代的にNo.5の同軸線上にありますが、5番がもうちょっと軽やかだったらクラシックでも使いやすいのに、という方にお奨めです。
現在は、アメリカで流通しているコロンスプレーのほかに、数年前イギリスで再発となったパルファムドトワレがあります。イギリスではパウダーやデオドラントがセットになった手ごろなコフレがスーパーやブーツなどのケミスト(ドラッグストア)で販売されています。PDTといえども香り立ち・香りもちは軽めのEDT程度ですので、素敵な風呂上りの演出、といった風情です。コロンスプレーよりはPDTの方が香りも多少よく出来ています。
ロリガンやエメロードなどと同じく、廉価なドラッグストア香水に零落したとはいえ、なかなかチャーミングなクラシック感は保てていますので、ぜひバスラインも揃えてトータルで楽しんで頂きたいと思います。
現行のPDTやコフレセットはイギリスのドラッグストア系通販などで手に入ります。
ちなみに、レーマンはコティのヴィンテージの中でも世界的に販売量が多く、比較的値頃で手に入りやすい香りです。特にアメリカ・コティの戦後品は、アメリカのオークションサイトでは常時何かしら出回っています。同じコティの名香でもロリガンやシプレ、ミューズのように争奪戦になることもあまりなく、状態の良い新品未使用品(コティの包み紙までついているような)も見つかることが多いので、コティのヴィンテージを試してみたい方にはお奨めです。

レーマン パルファム(1960年代)

 

Je Revien (1932)

パリ・クチュリエの始祖、ウォルトが1932年に発売してから、一度も廃番になることなくロングセラーを続けているフレグランス、ジュ・ルヴィアンですが、長い年月の間に原料のダウングレードが進んだ為、本来の姿に戻るべく2004年に”クチュール”としてリニューアルされました。オリジナル版は現在も通常販売されていますが、ウォルトの公式HPにはこの”クチュール”のみが紹介されています。クチュールはオードパルファムのみの展開です。くぐもったようなスモーキーなフローラル・アルデヒドという香りの雰囲気は基本的にオリジナル版と変らないのですが、トップノートの爽やかなジャスミンとオレンジブロッサム、ジョンキル、スミレ、サンダルウッドのそれぞれがクリアで、全体の美しさが増しています。
ちなみに、日本では未発売となって久しいですが、美輪明宏さんが著書「美輪明宏のおしゃれ大図鑑」にてご愛用と語られて以来、じわじわと人気が復活しているようです。

Fleurs de Rocaille (1933)

フランスのグラン・パルファム、キャロンの代表作で、「岩間に咲く花」をイメージして作られた、1933年創始者エルネスト・ダルトロフ調香のクラシック版フルール・ド・ロカイユ(Fleurs de rocaille、旧ロカイユ)です。
1993年にリニューアル版(Fleur de rocaille、新ロカイユ)が発売になった後暫く廃番となっておりましたが、近年復刻。きりっとした背筋の伸びるようなフローラル・ブーケで、アルデヒドも効果的に加わり、クラシカルな身持ちの良さを感じます。パルファムはオーデトワレと比べ、ベースにしっかりと甘くパウダリーなキャロントーンを堪能できます。香り立ちも香りもちも控えめで、この控えめさ加減が長らく日本女性に愛されてきた所以かと思われます。
せっかくの復活ですが、既にこの旧ロカイユは日本では過去の香りになってしまったのか、銀座三越にキャロンが再上陸した際最初のラインナップに旧ロカイユが入り、新ロカイユは入らなかった所、ロカイユ再発と聞きつけて買いに来た当時のファンが、これではない、とがっかりして帰っていく、と販売員さんが言っており、そちらのほうが残念に思いました。
ちなみに、日本ではEDTのみの取扱ですが、旧ロカイユのEDTはほかのキャロンのEDTに比べ、殊更ロットで香調が変わり、買うたびに香りが違うので戸惑います。去年あたりの並行輸入品はやる気のない薄くて尖ったホワイトリネンのようで、パルファムとは似ても似つきませんでしたが、今三越で扱われている最新版の旧ロカイユは、何故か濃度もしっかり、キャロントーンど真ん中の懐かしいロカイユになっています。
改良方向に向かっているのは喜ばしいことですが、是非日本の方にも往年のキャロントーンの魅力を再確認して欲しいものです。

フルールドロカイユ パルファム(現行品)

 

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