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Interview / Roja Dove Haute Parfumerie, Harrods

Roja Dove Haute Parfumerie(イギリス)/オーナー ロジャ・ダヴ氏インタビュー

  そして、真の香水好きなら一生に一度は足を運んでから目をつぶりたい、ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーのご紹介です。

今回の取材にあたり、当初はオート・パフューマリーのエキスパートさんにインタビューを依頼したところ、何とオーナーであるロジャ・ダヴ氏がお答えくださる運びとなりました。1957年英国サセックス生まれのダヴ氏は香水への情熱から1981年よりロベール・ゲランの直接採用によりゲランに勤務、30歳にして世界唯一の「香水学教授」の肩書きを得、のちにゲラン一族以外では初のゲラン・グローバル大使に命ぜられました。独立後豊富な経験と知識を活かし、富裕層向けの広報・教育・調香を一手に行うRDPRを設立、2004年にはハロッズ内にロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーを開店、そして自身のブランド、ロジャ・パルファムを立ち上げました。調香師、香水史研究家、経営コンサルタント、そしてクラシック香水ファン必携、名著「香水の歴史(原題:The Essence of Perfume, 原書房刊)」の著者・・・と数多くの顔をお持ちのロジャ氏ですが、今回は主にオート・パフューマリーという香水店の店主としてインタビューにお答えいただきました。 

名著「香水の歴史(原題:The Essence of Perfume)」の著者でもあるダヴ氏

LPT この度はお話を伺える機会を設けてくださり、光栄です。昨年ハロッズ内のロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーを訪問した際、取扱商品にも圧倒されましたが、何より2人のエキスパート(店員)さんが非常に親切に対応してくれて、2人とも香りの表現が豊かで、かつ外国人の私でもわかりやすく、帰りたくなくなるような居心地の良さに驚きました。コンサルティングと違い、接客時間には限りがあると思いますが、初めてのお客さんにベストな1本を選んで貰い、満足していただく秘訣は何ですか。

ロジャ ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーに所属する私のチームは皆、私が直接指導した香水のエキスパート達です。世界に拠点を持つロジャ・パルファムのエキスパート達も同様に私が個別指導しています。私はフローラル、ウッディ、シプレ、センシュアル・オリエンタル、マスキュリン・フジェールといった香りのファミリーから、香水を愛する方々が理想の香水と出会うための「オーダー・プロファイリング(香りのプロファイル法)」を開発しました。芸術的ともいえる「オーダー・プロファイリング」はチームメンバーひとりひとりにトレーニングの一環として徹底的に指導しています。過去の香水体験を振り返り、香りの記憶、さらには自分自身を掘り起こす1時間に及ぶコンサルテーションも実に面白いひとときですが、オート・パフューマリーに来ればコンサルテーションを受けなくても理想の香りが見つかりますよ。

LPT 確かに、店内で過ごしたのはせいぜい数十分で、他にも沢山お客さんがいて、私一人に付きっ切りというわけでもないのに、最終的には自分でこれだ、と思える香り(注:ロジャ・パルファンのレックレスを購入)が見つかり、帰宅後もよくあれだけの種類の中でこんなに好みの香りが見つかったな、と思うほどでした。

ロジャ 高度な訓練を受けた私のエキスパート達なら、昔の香りが好きなお客様に対しても、新しい香りの中から将来手放せなくなる1本を見つけて差し上げられるでしょう。私のチームでは、誰もが最高の1本を見つけられるまで、とにかく香り比べることをお奨めしています。「あなたの好きな香水と香り比べて下さいね。どうして?と思うかもしれませんが、好きな香りを思い出して比べることによって、新しい香りをよりよく、深く理解できますよ」我々の主任コンサルタントであるベンジャミン・ポール・マベットはこうお伝えしています。だから、コンサルテーションを受けなくても、オート・パフューマリーに来ればおのずと香りについて理解が深まり、お客様にとって最高の1本に出会えるのです。私のブランド、ロジャ・パルファンを含む400余りの香りからお選びいただけますので、可能性は無限大といっていいでしょう。

LPT 過去をもとに現在の香りから未来への新たな出会いと発見の橋渡しをしてくれるのが、パフューマリーのエキスパートというわけですね。クラシック香水好きには悩みの種である、好きな香水が廃番になってしまったり処方変更で香りが変わってしまった時など、そんなエキスパートがいてくれたら悩まずにすみそうです。それでは、ロジャダヴ・オートパフューマリー・ハロッズ店のオープンは2004年ですが、オープン以来のベストセラーを教えて下さい。また、これまで取り扱ってきた商品で、こんなに売れるとは思わなかったものは何ですか。また、これはとても良い商品なのに、もっと人気が出ても良いと思われる商品はありますか。 

時を忘れる香水の宝箱、オート・パフューマリー

ロジャ 扱っている香水はどれも素晴らしく良く売れますよ。いらっしゃるお客様は、贅沢なほんものの香りをお探しになっている洗練された香水ファンの方ばかりですから。皆さん、オードトワレやオードパルファムではなく、香水(パルファム)がお好きな方ばかりですね。香水は最も香り立ちが柔らかい濃度ですからね。

LPT …何でもよく売れますか。愚問を失礼しました。日本では未だに「香水は一番きついので少しだけ、夜や特別な機会につけること」とか「オードトワレは軽くて柔らかい香り立ちなのでオフィスにお奨め」と未だに書籍や店頭で説明しています。また本国では発売されていても日本ではパルファムの取扱がない香りも多く、残念な限りです。

ロジャ 「オート・パフューマリー」は、世界中で最も影響力があり、革新的でしっかりした方向性を持ち、そして何より贅沢な香水店を開く際、私が創った言葉なんですよ。各タイプの金字塔といえる香りだけを集めた香水店を開きたくて、世界中から最高級の香水をリストアップしたので、この世に存在する最高のセレクションを誇る私の香水店のような店は、世界中どこを探してもありません。香水店のネーミングについてですが「世間の香水店はたいがい出来合い、すなわちプレタポルテを売っているわけだろう?それなら私はオートクチュールでいきたいね−それじゃ、オートクチュールにちなんで『オート・パフューマリー』ってのはどうだい?」って事になってね。そこで生まれたのが「ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリー」という店名なんです。調香を学ぶため世界中に足を運んだおかげで、私は香水やブランド、そして香りの歴史に関する様々な助言や意見を得る機会に恵まれました。この経験を通し、期せずして香水業界では「香水大使」と称されるまでにならせていただいた上、グローバルな知識も身につけさせていただきました。ジャーナリストの皆さんは、記事を仕上げる際には願わくば私の専門知識を拝借しようと頼ってくるようになりました。自分の知識と経験を共有できるのは嬉しい事ですし、出し惜しみをするつもりもありません。そうして私のオート・パフューマリーは瞬く間に世界で最も重要かつ影響力のある香水店として、その名が世間に知れ渡るところとなって、今や世界中のお客様が足を運んで下さるようになりました。

LPT 「オート・パフューマリー」については、まさに仰るとおりだと思います。真の香水ファンなら、冥土の土産に一度は行くべきだとしみじみ思いました。

ロジャ 私が店の奥で机に座り、好みに応じて材料を混ぜ合わせて香水を作っているものだと誤解していた人々は、私がはるかに創造的な香水を調香していることに衝撃を受けていました。香水を創るには論理的で的を得たアプローチが必要だということに気付いた私は、美と科学の複雑な結晶が香水の処方となるという事を、香水産業と顧客の双方に知らしめることにしたのです。ジャーナリストもお客様も「オート・パフューマリーは創造の聖地」「他の追随を許さない、妥協なき贅沢」と口々に評してくれます。一度足を踏み入れた人なら、並んでいる何もかもが最高級の品質を誇り、各ジャンルを代表する鑑である事に、それが正真正銘の本物でなくしてなんであるか、すぐにわかると思います。私は、ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーは、世界の香水産業の潮流をあきらかに変えたといえる高級香水の方向性を決定づけた香水店であると、自信を持って言いたいですね。

LPT パフューマリーの海外出店一号店は2011.10月、スイスのローザンヌでしたが、西欧ではなく、モスクワのデパートで販売したり、その後2012年に中東のアブダビとドバイへオープンしたブティックとロジャ・パルファムについて教えて下さい。

ロジャ ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーと正式に呼べるのは、今後もハロッズ店だけです。ローザンヌ・パレス&スパではロジャ・ダヴ・オート・パフューマリー名義で出店していますが、実はロジャ・パルファムの店舗です。ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリーはオンリーワンであるべきだと皆で決めたのです。ロジャ・パルファムの製品が直接入手できるのは現在オート・パフューマリー(ハロッズ内)、ローザンヌ(ローザンヌ・パレス内)、モスクワ(ツーム内)、アブダビ、ドバイ(各パリス・ギャラリー内)と世界に5箇所だけで、うちロジャ・パルファム名義のブティックはまだ世界に2店舗、アブダビとドバイにしかありません。どちらのロジャ・パルファムブティックも華美な装飾を排除し、整然としたモダン極まりない店内は、私が自宅で使用している愛用品に囲まれているような空間を再現しています。熟練の職人が製作した有名なカクタス・テーブルをはじめ、オリエント急行のためにデザインされたクリスタルの装飾パネルといった気品溢れるラリックのクリスタル工芸品、国際的ファッションデザイナー、ルイーズ・ケネディがティペラリー・クリスタルのためにデザインしたシャンデリア、なんとも座り心地の良いル・コルビジェの椅子など、双方のブティックにしつらえた調度品は、いずれも最高品質の当世を代表する傑作揃いです。世界最高級のフレグランスが見つかる洗練された空間-ブティックに漂う抑制の効いた真のラグジュアリーこそが、ロジャ・パルファムそのものなのです。勿論、他拠点の瀟洒な取扱カウンターでもこのロジャ・パルファム・ブティックの装飾テーマが活かされています。

ロジャ作ウードの数々。ダイヤモンド、ボカーン!!

LPT オート・パフューマリーは「聖地」、アラブのロジャ・パルファム・ブティックはよりロジャさんの内的世界に触れることのできる「別院」という事ですね。ハロッズ店でも極上のベールをしたアラブ系のご婦人を幾人も見かけました。21世紀に入り、最近のメゾンフレグランスから、ウードを主軸にした香水がどんどん出てきて、ロジャ作も3種類ウード系(ウード、アンバー・ウード、ムスク・ウード)、うち2種類に透明バージョンのクリスタル版(ウード・クリスタル、ムスク・ウード・クリスタル)がありますが、ウードは世界的な流行ですか、一部の香水マニアうけですか、それともアラブ富裕層マーケットのニーズに応えての結果ですか?パフューマリーのお客様はアラブの方が多いのですか?

ロジャ アラブのお客様は沢山いらっしゃいます。最も洗練されたフレグランスユーザーのひとりですからね。アラブの方々にとってフレグランスをまとう事は文化的にも宗教的にも人として呼吸するのと同じ位自然な行為だということを忘れてはいけません。中東地域と中東系のお客様向けに、私はウードとウード・クリスタル(共にパルファムのみ)を創りました。中東で働いた3年間で、私はウードの素晴らしさと品質によって香りに雲泥の差がある事を学びましたが、もっと重要なのは、人々がどのようにウードをまとい、それによってどれだけよい香りになるかわかった事でした。ウードパルファムを創るのに2年の歳月を費やしましたが、中東のお客様に「こういう匂いが好きなんだ、外を歩くとどこからか風が運んでくる匂いが何より好きなんだ-これは私たちの匂いだね」と仰っていただけた時は嬉しかったですね。これほどの褒め言葉はありません。一方ウード・クリスタル・パルファムのようにユニークな香水は世界中どこを探しても見つからないでしょう。香りとしては私のウードパルファムと同じですが、高度に洗練された専門技術を用いた無色の香料を使用して処方しました。通常ウードを用いた香りは水色が濃く、布地のシミになりやすいのですが、アラブ男性が白いカンデュラ(注:トーブとも言う。西欧でいえばスーツに当たる中東男性の正装)を着用する際につけてもシミにならないような全く新しいフレグランスを創ることが必要不可欠だったのです。ちなみにアンバー・ウードはこれまで数量を物凄く絞った上ハロッズのオート・パフューマリーでしか販売していませんでしたが、この度アブダビとドバイの両UAE拠点でも販売開始となります。

LPT アラブの皆さん、お待ちかねですね。私もオート・パフューマリーで試香させていただきましたが、アンバーが入ることでウードがより甘露な芳香になっていたのを思い出しました。お話を伺っていると、ウードに関してはロジャさんの目線があまり欧米や他地域に向いていない感じですね。

ロジャ 世界にアラブ社会の香りが知れ渡ったのは、ひとえにトム・フォードのおかげだと思います。彼が自身の香りを初めて披露するやいなや香水業界が着目し、アラブ系香水ユーザーのカルト的人気を得るような香水を売り出しました。西欧社会でのウードは単なる「ファッション」かもしれませんが、アラブ文化においてウードやウードをベースにしたフレグランスを使うということは生活の一部であり文化なのです。

 それこそ、雨後のタケノコならぬウードのタケノコ状態で、あちこちでウードものの新作を見かけない日はなく、アラブの方々へも訴求しつつ、ファッションアイテムにもなりたい「アラブのフレンチな解釈」的ドジョウだらけになっていますが、ロジャ・パルファムの場合は最初から中東のお客様のために創られたんですね。ところで、LPTはクラシック香水を主に紹介していますが、お取り扱いの商品で香水の黄金時代を髣髴するような、お奨めのクラシックな香りを教えて下さい。

ゲランやキャロンのパルファン・フォンテーヌも常設

 

ロジャ ケルク・フルール、ダリ・ル・パルファム、一連のグロスミス復刻品をお奨めします。ケルク・フルールは、複雑に処方された初のフローラル・ブーケで、フローラル系香水は、それまで基本的にシングル・フローラルか数種類のアロマオイルをブレンドしたに過ぎなかったため、その後の調香に絶大な影響を与えました。ケルク・フルールなしでは現代のフローラル系という分類は成立しなかったでしょう。ケルク・フルールは香水という魔法です。高いオフィスで働くマーケティング担当のような人たちでさえ他の香水を買いに行かない魔法にかかるのは、グラース産ローズがふんだんに使われているからでしょう。今年発売30周年となるダリ・ル・パルファムは、ロジャ・ダヴ・オート・パフューマリー独占販売のために復刻していただいたものです。グロスミスはビクトリア朝に最盛期を極めたイギリス最古のパフューマリーで、創業者の曾々孫にあたる一介の公認建築士だったサイモン・ブルック氏が家業と家督の名香を復興させんと、残りの人生すべてと私財を投げ打って甦らせたのです。復刻にあたっては、私が全面的に指揮をとり香料会社ロベルタを率いて最高級の原料を用いました。 

 

実はダリ初出の香りはアルベルト・モリヤス調香の隠れたシプレの名香。ロジャ・ダヴ・オートパフューマリー専売、パルファムは310ml2,000ポンドだがEDTは30mlで28ポンドといきなりカネボウ時代を思い出す価格に

 

LPT グロスミスの復刻3点は、21世紀の今、ここまでクラシックで良いのかと思うほど、確かにどクラシックでした。こういった時代に迎合しない復刻は大歓迎です。最後に、ロジャさんご自身のお好きな香水は何ですか?

ロジャ 美しくて素晴らしい香りが沢山ありますからね。個人的にはシプレ系の香りが一番好きです。今年の後半に数量限定で私がここ数年つけている私家版の香りを発表する予定です。究極のオート・リュクス・パルファムですので、どうぞお楽しみに。(インタビュー終了後、ロジャ氏57歳の誕生日を祝して9月25日に発売されました。その名も「ロジャ」、100mlで2,500ポンド(約400,000円)也。究極のダイヤモンド・ビッグボカン、クライヴ・クリスチャンもびっくりですね)

LPT 本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

Roja Dove Haute Parfumerie (オンラインショップは2013年2月より日本への香水発送を中止しています)

the fifth floor, 87-135 Brompton Road, Knightsbridge, London, SW1X 7XL, United Kingdom

+44 (0)20 7893 8333

Roja Parfums (ロジャ・パルファム直販サイト。基本的に世界発送対応だが、日本への発送対応は要確認) 

 

画像提供:RDPR

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