アンバー・ウードは基本ウード第2弾としてウードに遅れること2年、2012年にオート・パフューマリー限定で発売後、現在では定番のラインナップとなりました。実はロジャ氏がウードに手を出したのはそれ程早くはなく、よく言えば満を持して、悪く言えば出遅れたところをお得意の贅沢ビジネスメソッドで巻き返したのですが、2010年といえばまだまだウード香=中東専売、として欧米ではまだ話題の辺境にも上らなかった時代です。ロジャ氏が初ウードを出す1年前、老舗香水店・キャロンが2009年3月、ひっそりと「ウード」「シークレット・ウード」という2種の新作を発売したものの、香水コミュニティでちらっと話題にのぼっただけで公式ウェブサイトですら紹介されないので、モンテーニュの本店に問い合わせた所「こちら2種はキャロン・ブティック専売で、購入されるのは中東のお客様に限られております。我々西洋人はこういう香りは好みませんので。サンプルは送らせていただきますが、お客様のお好みに合うかどうかはわかりません」という、なんかちょっと先般のパリ同時多発テロが頭によぎるような、自社品に対する問い合わせに対し愛着のかけらもない回答とサンプルがやってきて、わざわざモンテーニュ本店から気前よくサンプルをくれたのはいいけれど、自分たちがいいともなんとも思っていないのに、なんで売るんだよ…と首をひねった事がありました。そんな夜明け前の当時、そこはかねてより中東に縁があり、ハロッズ店にやってくるセレブアラブの買いっぷりに勝機を見たロジャ氏、やらない手はないと渾身の力でウードを世に送り出し、いよいよやって来た本格的ウードブームの真打として他のブランドでは出せない価格でハロッズやフォートナム&メイソンといった英国老舗高級百貨店限定ウードや(価格はちっともカジュアルじゃない)カジュアルなお菓子系ウード、しまいには「ユナイテッド・アラブ・エミレーツ(アラブ首長国連邦)」というど真ん中なネーミングの限定品(限定品ばっかり。でも公式ウェブサイトでは結局どこの限定品でも買えるのがユニクロ方式)まで出しました。
写真はウードのものですが、アンバーウードもクリスタル・パルファム版があります
さて香りといえば、これぞゴールドブレンド、と言いたくなる名前の通りアンバーの魅力が積増しされたウードブレンドで、ウードが黒ならアンバーは赤、このアンバーが色を添えベースとなるウードの格を底上げしています。初出のウードをもとにぐんと目力を増した華やかさと甘露な深みがあり、アラブ5大香料はウードと同じくアンバーウードでも全員集合していますが、ウードとは配合バランスが違いフローラルの中心へサフランが一歩前進、ウードの方には配合されていないベンゾインやバーチなど甘味・渋み成分により力強さが増しています。かといって相手を圧迫するような威圧感は全くなく、背後で複雑に絡み合うオリスやオークモスなど西洋香水の王道原料が西欧社会へのアクセシビリティを高めているのか、こちらもウードが初めての方やアンバー好きな方にもすんなりお楽しみいただけると思います。
肌の香りとして一体化する心地よさがあるのはウード、躍動感があり肉感的なのはこちらのアンバーウードです。女性がつければ非常にしなやかに、男性ならば堂々と香ります。自分と同じ身長の美しいアラブ女性が、言葉のわからない自分の目を見つめながら未知の世界へ導いてくれるかのような、胸騒ぎと安心感を同時に味わえるバランスは、あれこれ辛口を利きたくなっても、やはり一目おくべきだと思います。裏を返せば寸止めでなりきれていない所が吸引力となって、中東の人から見たら抜けきれないブリティッシュ・アクセントのペルシャ語が魅力的に響き、西欧側からすれば限りなく中東風な中に自分との接点を見出せる、よき塩梅なのでしょう。 真の中東香ではこう容易くはいきませんから。
ウー度 ★★☆☆☆
アンバーウードのラインナップは30ml £345、100ml £495(クリスタル版100mlも同価格)、アブソリュ・プレシュー(プレミアム版)30ml £750の他にトラベルサイズセット、キャンドルやルームフレグランスも揃っています。
さて、さすがに上ばかり見てもう価格のつり上げようがないと思ったのか、最近リニューアルした公式オンラインショップではディスカバリー・アトマイザーと称し、多少手に届きやすい価格の7.5mlサイズが登場しました。例えば今回ご紹介したアンバーウードなど30mlやエンスレイヴドなど定番の女性物50mlといった£345のパルファムなら、ディスカバリーサイズは£55(約10,000円)と、5番のパルファムが英国内価格£99.95、国内販売価格16,200円(税込)と考えると、価格を押し上げていたのは中身ではなくダイヤモンドボカンのボトルかよ‼︎と拳の振り上げどころがシフトしていくのを感じます。パルファムで7.5mlなら、しばらく楽しめますからね。きっと今後はディスカバリー・アトマイザーに注文が集中し、そっちに勝機を見出すかもしれません。