La Parfumerie Tanu

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Touche Finale (2019) and what I got in London last Autumn

先日ご紹介したリリス・ド・ファットは勿論手も足も出ない価格で、一生分のお試しを店頭でさせていただき十二分に満足いたしましたが、せっかく香水ファンにとって宝島の如きジョヴォワに行って、手ぶらで帰れるはずがありません。そしてジョヴォワの前にはフォートナムズ&メイソン、帰国した週末はブラック・フライデー。壊れた蛇口のように力の限りお買い物をして、懐寒くなったのはジェントルマンだけではありませんでした。
それでは、店主タヌのハッピーショッピングを一挙公開!
 
Touche Finale (2019) EDP by Jovoy Parfums Rares
 
2006年、フランスの青年実業家、フランソワ・エナン氏が1920年代の香水ブランドを、過去のアーカイヴ復刻と同名の香水店をパリにオープンする事で始まったジョヴォワ。おしも押されぬニッチブランドがひしめくジョヴォワ店内で、一番人気はやっぱりオリジナルシリーズ。毎年きちんと定期的に新作が登場していますが、2019年夏に出たトゥシェ・フィナーレは、2007年に発売されたジョヴォワの復興処女シリーズ、Les 7 Parfums Capitaux(レッセ・パルファム・キャピトゥ「7つの香調シリーズ」:ボワゼ(ウッディ系)、シプレ、フジェール、エスペリデ(シトラス系)、マリーヌ(マリン系)、オリエンタル、プードル(パウダリー系)。生産終了)の一つで、バイレードやアトリエコロンなどで調香を担当したジェローム・エピネットが手掛けたプードルを、12年後の2019年、オーナーのエナン氏お気に入りの女性調香師で、ジェロボームの専属調香師、ヴァニーナ・ムラッチョーレがリメイクした作品です。オリジナルのプードレは、レッセ・パルファム・キャピトゥの中でも人気作だったので、すでにデッドストックの見る影もなく、試した事がないので比較はできませんが、トゥシェ・フィナーレ単体での感想は「暑い時期に本領発揮するフルーティ・パウダリスト」。なぜ暑い時期に…と言うと、発売が7月だったんですが、幸い発売直後に試香する機会があって、7月の東京と言えば、熱中症で死者も出る程の酷暑。その阿鼻叫喚の季節につけた時、立ち上がりは石膏のように真っ白不透明な甘々の粉物で、練白粉を指3本ですくい取って塗りつけたような粉物感なんですが、これが徐々に肌に馴染んでくると、これがまた練白粉から微粒子の粉白粉にサラッと、そしてジューシィなサーモンピンクのフルーティシプレに変化!ベースのサンダルウッドがミルキーに下支えして、これが、まあ、えええ〜香りやああ、で昇天、買う、絶対買う、絶対フルボトル買う!!と指折り渡英、ジョヴォワ来訪の日を数えたものでした。そして晴れてお迎えし帰国、しばらく忙しくて年末になり、すっかり寒くなってからウヒウヒご開帳し、実装するも、あ、あれ?いつまでも真っ白石膏感が、続く…フルーティにはならずに、ミルキーな材木に着地。あの酷暑に昇天したシプレが、出てこないんですよ!こんなに季節で印象が変わるものか、と驚きました。先行き不透明120%の粉物感を演出しているキモはヘリオトロープ&ミモザ。このミモザの匙加減が軋みを呼んでおり、ヘリオトロープ寄せ&ムスクがちなら赤ん坊の尻拭き系になるところを、ぎしっ!と大人の香りに寸止め。ラストのサンダルウッドは良い感じなんですが、季節は巡り、これから向こう数ヶ月は、暑くなる事はあっても寒くなる事はないので、いよいよ木彫りの龍から本物の龍が飛び出します。なんといっても英語で言ったら「ファイナルタッチ」、香りの王手、それは粉物ですから!
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トゥシェ・フィナーレ EDP 100ml 少し温めるとさらに美味しくなります、的ブレンド
Detchema (reformulated) EDP by Revillon, revived by Jovoy
 
ジョヴォワのパリ本店限定販売、メイフェア店にはお取り寄せで入手した復刻版デッチマ。毛皮商レヴィヨンが輩出した香水の中では、満場一致の代表作であるデッチマが発売されたのは1953年、ル・ド(1957)やノレル(1967)を手掛けた寡作の巨匠、エルネスト・シフタンが戦後のフローラル・アルデヒド系の傑作として世に送り出しましたが、日本では鐘紡がレヴィヨンの輸入代理店だった事もあり、日本でも流通量が多く、現在も状態の良い未使用品やバカラボトル入りのパルファムが散発的に中古市場に出回っています。1990年代頃処方変更が行われ、香りが痩せたとファンから落胆の声が上がる中、いつの間にか廃番になったのですが、何故かジョヴォワ限定で復刻版が出ている事を渡英前に知り、デッチマ中毒の私は(注:デッチマは、中古市場で状態の良い未使用品が出ると、脊髄反射的に買ってしまう香水の一つ。ちなみにアバニタ(モリナール)、ウール・エクスキース(A・グタール)も同様)期待に胸を膨らませてお取り寄せ。途中ジョヴォワからの連絡が途絶えるも、無事店頭で入手でき、やはりこれも年末の激忙が一息ついた時、ウヒウヒ箱から取り出すと…あれえ?トゥシェ・フィナーレとボトルが一緒?キャップが昔のデッチマっぽいだけで、瓶はジョヴォワのオリジナルシリーズと金型が一緒です。つまりこのデッチマ、クラシック香水復刻からスタートしたジョヴォワが復刻し、ボトルを流用したわけです。なるほど、ジョヴォワでしか売ってないわけだ…レヴィヨン自体は、香水ブランドとしては2000年代初頭に終わっているので、レヴィヨンの権利が今どこにあるのかわかりませんが、ジョヴォワ版デッチマの出来栄えはと言うと「とても状態の良いヴィンテージの解像度5割アップ、ジャスミン多め(当社比)」。死んだ婆さんに会いたい、若い頃の、死んだ婆さんに会いたいんじゃ、今!!くらいの勢いで、レトロでシネフィルなデッチマが現在の4K解像度で忠実に蘇っています。オリジナルのデッチマを、両手の指で足りない位持っている私が言うのだから間違い無いです。マーケットトレンド度外視、婆さんフルカラーで蘇りました!オリジナルよりジャスミンの生花感が増しているのは出来立てフレッシュだから。EDPですが香りのもち、押し、序破急はむしろオリジナルのパルファンドトワレよりパルファムに近い気がします。デッチマが好きで、中々良いヴィンテージに出会えない方で、ジョヴォワにアクセス可能なデッチママニアがここ日本にどれだけいるのかわかりませんが、往時デッチマをご愛用で、鐘紡時代を懐かしがっている親御さんへのフランス土産なら、断然ジョヴォワ版をお勧めします。早く、パリに行ける日が来ると良いですね!ジョヴォワは現在フランス、ロンドン店共に両政府の指示により店舗営業並びにオンラインストアも営業停止しているため、経済を回したくても回せないもどかしさがありますが、是非このコロナ不況に負けず、戻ってきて欲しいです。
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ジョヴォワ限定、復刻版デッチマEDP 100㎖。よく見て!ボトルがトゥシェ・フィナーレと一緒
Jardin d'Ange (2017) bespoke parfum collection by Ormonde Jayne, Fortnum and Mason exclusive
 
20年前、手作りキャンドルから始まり、自社ラボ製造による適正価格帯の高品質なフレグランスを輩出してきたオーモンド・ジェインも今年創業20周年、今では松竹梅鶴亀狸のランク別価格帯を揃え、イギリスではハロッズ・セルフリッジ・フォートナム&メイソンという、英国三大フレグランス強化デパート限定アイテムもだいぶ増えました。本来、そういうブランドではなくて「手の届く良品」だったはずですが、功名心のない創業者はいないわけで、成功すれば更なる成功、そしてステイタスへと舵取りを変えるのは仕方のない事です。その罪滅ぼしか、毎年ブラックフライデー時期には、目を疑うハッピープライスでサーバーがダウンするほどのアクセスを呼ぶセールが毎年楽しみで、たとえ出荷後税関で一斉差戻になった後荷物をなくされようと、その後の壮絶な異議申し立てでやっと届いたボトルがボロボロの段ボールに裸で投げ込んであろうと、もう二度とあのブランドには近寄るもんかと誓っても、やっぱりオーモンド・ジェインは好きだしセールは気になります。昨秋のセールでは、2種類あるフォートナムズ限定品のうちジャルダン・ダンジュが登場、実店舗では見逃したものの、きっちり英国土産延長戦として入手しました。
香りとしては、ざっくりとした印象は「トロピカルフルーツ盛りのパウダリーフローラル、砂糖・クリームなし」。オーモンド・ジェインのフローラル系をお試しの方にはお馴染みのフルーティフローラルなOJトーンがしっかり感じられ、そのうえで公式香調のミドルノートであるローズ・バイオレット・アイリスというよりは、グアバ・パッションフルーツ&ジャスミン、言われてみれば酸っぱいローズ、のち少し粉っぽいブーケ。という感じです。ベースノートも重さのないバニラムスクで、最後までトロピカルな香気が主張します。ローズ+バイオレット+アイリスで、なんでこんなにトロピカルフルーティ?ベースにマダガスカル産バニラだのムスクだのがあるというなら、もっと化粧台のエレベーター路線に行きそうなところですが、そこがOJトーン、なんでもフルーティに仕上がるのは、中華麺におけるかんすいみたいな存在なのかもしれません。パルファム濃度ですが体感はいたってクリスタルなライトフレグランス級、ただし持続はしっかり長持ち。英国香水にはよくある、肌から香り立つというよりはルームフレグランスに近い、空間演出系の香り立ちでもあります。思うに、有名デパート限定品って、もちろんブランドのコアなファンも買うと思いますが、香水とか別に詳しくない、ただの観光客もお土産に買うかもしれないから、あまり難しい香りって逆に出したら儲からない、って計算がどこかにあるんじゃないのかな?ジャルダン・ダンジュは勿論親しみやすくて良い香りだし、オーモンド・ジェインらしさもたっぷり。これが「フォートナムズ&メイソンのお土産だよん」とか貰った人が、ワンプッシュして壁まで吹っ飛ぶようなモーレツな個性派を突っ込んだら、デパート土産で売りたい店員さんも勧めるに勧められないのでは、だからにぎにぎしくエクスクルーシブ扱いで出してきたところで、レギュラー品と何が違うんけ?という体感の優しいものが多い気がします(同じフォートナムズ限定、ウビガンのジャルダン・アングレーズも、店頭で試香させてもらいましたが「はあそうですか」というのが関の山で、全く記憶に残っていない。同じくグロスミスのF&M限定シルヴァン・ソングも、いい香りだけどレギュラーラインのほうがずっと個性的で印象深い)。そんな穿った眼で見てしまうような客には、買ってもらわなくてもいいんだべ、と言わんばかりにパッケージは外箱、中箱、内箱に入り、やっとボトルが出てくるという、いかにも土産物然とした面立ち。オーモンド・ジェインならこれ!とは言いませんが、少なくともセルフリッジ限定のOneシリーズ(どちらも最初はOJトーン、のち真綿で首を絞められるようにくどくなるフローラル)よりは好感度なので、OJファンならウィッシュリストに入れておいても良いかもしれません。
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ジャルダン・ダンジュ パルファム120㎖ この黄緑の箱は外箱・中箱・内箱と3重構造
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