La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Soir de Paris (1928 / 1991) reformated version & vintage parfum

シャネルNo.5の作者・エルネスト・ボー調香の世界的名香・ブルジョワのソワールドパリです。現在はオードパルファムのみの発売となっています。
 
日本ではオリジナル版が廃番になってから1991年に再発後、一時取り扱いがありましたが、現在は日本未発売です。こちらは現在海外で販売されているリニューアル版です。
 
リニューアル版は同じくNo.5のEDPを約15年前にリニューアルした、現シャネル専属調香師、ジャック・ポルジュと、フランソワ・ドゥマシーの共同調香です。タイプは全然違いますが、何かとNo.5と縁のあるのは、ブルジョワとシャネルの親会社は今も昔もユダヤ人経営者・ヴェルタイマーだからです。
 
1863年にアレクサンドル・ナポレオン・ブルジョワが創業したブルジョワですが、1870年には、後にシャネルの運営一切を参加に置くことになるユダヤ人経営者、ピエール・ヴェルタイマーによって買収されます。
1920年代のブルジョワとシャネルの香水にはいずれもエルネスト・ボーがかかわっています。
1924年、ココ・シャネルがシャネルの香粧品専売部門、パルファム・シャネルを立ち上げるに当たり、ヴェルタイマー氏に出資を求めたところ、シャネル10%、ブルジョワ(ヴェルタイマー)90%という利益配分契約を結ばされたのですが、その後のNo.5の爆発的なヒットにより、シャネルは再三不当な利益配分に対し見直しを求めますがいずれも却下、独自の販路で1940年代には「マドモワゼル・シャネル」シリーズというフレグランスラインも発表しますが、結局は戦中という時勢も手伝い、マドモワゼル・シャネルシリーズは自然消滅してしまいました。

f:id:Tanu_LPT:20160611224450j:plain
リニューアル版ボトル。写真をしばしAmazonより借用。近日中に差し替えます

カネの匂いはさておき、リニューアルのソワルド・パリの香りは、EDPというよりはEDT程度の軽くやわらかい香り立ちで、ほんのり長く香りが続きます。クリーミーなフルーティフローラル調のやさしい香りで、ソワール(宵)というもののフェミニンな装いにも昼間のオフィスでも高感度な、気分の揚がる上品な香りです。
対象年代は若めに感じますが、昨今のリニアに香る人工的なフルーティフローラルではありません。
世界的に大ヒットしたオリジナル版と比較して散々こき下ろされているリニューアル版ですが、価格も値ごろですので、別物として楽しんだほうがよさそうです。
Dec.2010
 
追記 2016.6.5
 
ソワルドパリは、コンディションの良し悪しを勘定しなければ、物凄い数のヴィンテージが国内外で出回っています。未使用品でヴィンテージ度が高ければ当然価格も上がるので、手の届く範囲で探したところ、数年前、パリを訪れた観光客向けに作られたチープなお土産品のひとつとして流通したと思われる、ソワルドパリとエッフェル塔のピアスがセットになった「エッフェル塔創業100周年記念ボックス(未開封)」を入手できました。オリジナル版としてはまさに最終段階のパルファムで、1989年、エッフェル塔が創業100周年の際、なんだりかんだり記念イベントをやったんだと思いますが、いかにも財布に優しいお土産然としたパッケージでした。箱には夜のライトアップしたエッフェル塔がどーんと描かれており、とにかくダサくてやたらかさばるのでソワルドパリのボトル以外は捨ててしまいましたが、写真位撮っておけばよかったです。
 

f:id:Tanu_LPT:20160612153345j:plain
ソワルドパリ(オリジナル版、1989年発売分)

香りとしては、早い話が上記リニューアル版とは似ても似つかない完全なる別物で、戦前に流行したパウダリーなフローラルアルデヒド系の香調ですが、確かにその名のとおり光量を落とし気味の味わいがある、ローズやジャスミンでバンバン前へ出る華やかな王道フローラルではなく、バイオレット、ヘリオトローブ、アイリスといった若干ダウナー系フローラルを多めにして、しっとりとした暮れ時の雰囲気を増し増し。そのうえで流行の最大公約数の範囲内でまとめたらこれが空前の大ヒット。ヨーロッパではフランス語で「Soir de Paris」、アメリカでは「Evening of Paris」とわざわざ英名にして販売した位ですので、きっと入手性もすごく良くて、かつ安くて素敵な良い香りという、大衆香水の模範みたいな存在でしたので、世界中の人が身近なお店でソワルドパリを購入し「ああ、これがパリの夕暮れだべ…」と行った事もないパリの、過ごしたこともない夕暮れ時を共有したんだろうな、と思われます。
 
きっとこの1989年最終版ソワルドパリお土産パックは、①パリへホントに行ってきた証拠で②パリの名前がついていて③向こう三世代(当時)誰でも知ってるソワルドパリのパリ限定版で④安い、という以外存在価値がなかったようなチープさで、香り自体も現世での役目を終えた感があり、その2年後に名前だけ残してガラッと売れ筋にリニューアルしてしまうのも、メーカーも大衆向けならターゲットも大衆なら致し方なし、といったところでしょう。ちなみにリニューアル版もとうに廃番のようで、ディスカウンター系香水オンライン通販でもすでにごくたまにしか見かけなくなりました。
contact to LPT