Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Tsarina (2012), one of Four Corners of the Earth

フォー・コーナーズ・オブ・ジ・アースの面々

ニッチ・フレグランスは年々市場を拡大し、シンプルな汎用ボトルで価格も一律でやっていたブランドが、一馬身なり購買層に認知されたとリサーチの結果が出ると(仮定)、そもそも自分のところの製品は最高級の原料を惜しみ無く使っていると謳って憚らなかったはずが、更なる高級ラインや入手困難な限定品を出してきて、それまでの商品を一気にあたかもランクダウンか廉価版のように見せかけ、超高級、超絶高級、悶絶高級・・・へとスタンダードを進化発展させていく悪癖が出てきました。

中庸価格、高品質、個性的かつ親しみやすい香調が売りだったイギリスのハンドメイド系ブランド、オーモンド・ジェインもご多分に漏れず2012年、世界の珍重な香料と地域のイメージをシンクロさせた別格プレステージライン、フォー・コーナー・オブ・ジ・アースを発表します。発売後しばらくはロンドンのオーモンド・ジェイン店舗でのみ購入可能だったこのシリーズは、オーナーのリンダ・ピルキントンが旅をした中国のオスマンサスからチー、南米のタバコからモンタバコ、アラブのウードからナワブ・オブ・オード、そして今回ご紹介するロシアのレザーからザーリーナの4拠点からなり、調香はいずれも過去の製品と同じくオーナーのリンダ・ピルキントンのイメージングをベースに、リンダさんと調香師ギザ・ショーンとの共作で、EDP一濃度(2014年にオーモンド・ジェインはパルファムを廃版にして一律EDPとしたが、賦香率を最低30%以上としているため、実質はすべてパルファム濃度となった)。フルボトルは120mlの1サイズで価格は中間のザーリーナでスタンダードラインの倍となる£280(約52,000円/2014年12月現在)ですが、10mlx4本セットのトラベルアトマイザーが£100で用意されています。

経済のことばかり口角泡飛ばす世知辛いことはいい加減にして、肝心の香りとしては、振り上げた拳の降ろし処がないくらいよい香りで、その名の如く「帝政ロシア時代の女帝を彷彿させる、濃厚で猛烈なエネルギーを秘めたパワーハウス・フロリエンタル」との謳い文句を期待すると拍子抜けの、ふくよかできめの細かいアイリスの利いたシルキーなディープ・フローラルで、もちろんザーリーナにもベースにはお決まりのフルーティなグリーンフローラルベース、OJトーンがしっかりありますので、クラシックな風情を伴わせながらもしっかり現代的な軽さに基づいた奥行きとなっています。コリアンダーベルガモット、マンダリン、カシスなどピリッとジューシーのはじまるトップから、中核のアイリスに華を添えるフリージアに、ひんやりとすべすべした薄灰色のスウェードも控えめながら確かに主張していますが、一方で結構な量のヘディオンとジャスミンを感じますので、遠くのほうにNo.19パルファムやシャマード、ウール・エクスキースなどの接点もあり、リンダさんはロシアのどの辺を旅してきたのか、冬の女帝とどうつながるのかわからない、フルーティなジャスミンがヘディオンと共にきっちり盛られているのがOJ流帝政ロシア新解釈なのでしょうか。体温で温められたサンダルウッドやバニラビーン、ラブダナムやムスクといった甘さのあるベースがパウダリーなアイリスの隙間から徐々に顔を出し、ラストはえもいわれぬ温かいとろみに包まれます。既存品との価格差には首を傾げますが、本年購入したボトルの中では最も買ってよかったと思える1本で、LPTにおいても書き留めておかなければと思った次第です。

ところでザーリーナはよく出来た香りで、非常に気に入ったのは確かなのですが、これをパワーハウスと謳ってしまう所に、香水というものはまず第一にどんな人の気分や体調も害さないと思われる暗黙の基準線がしっかりと引かれ、そこをクリアして初めてイメージ戦略を持って組み立てられていくようになったと痛感するところで、暑っ苦しい大柄系:パワーハウスの全盛期がリアルタイムだった人間としては、言葉に表せない取り残され感を感じます。またひとつ気になるのが、スタンダードラインのオリス・ノアールと印象がかなりかぶることで、あちらもベルガモットコリアンダーで始まり、アイリスを表にフルーティジャスミンが香り立ちますので、持続と押しが増した豪華版オリスノワールとも言えなくもなく、ディオールだったら天然香料主体で再処方したアブソリュ版が出たおかげで、悪い香りなわけでもなく、まあ嗅いで違うとは思うが物凄い差があるわけでもないのに、まるで合成香料だらけの廉価版のように受け止められているオリジナルのジャドールの立ち位置を彷彿とします。このままオーモンド・ジェインの新作がスタンダードな価格帯からではなく、限定品やフォーコーナーのような高級ラインからしか出なくなって、いつのまにか手の届かないブランドになってしまわないことを祈るばかりです。

ザーリーナ 120ml

画像提供:ジェイソン・ウォーターウォース氏/アップ・パブリック・リレーションズ(オーモンド・ジェイン、メゾン・フランシス・クルジャン、フラパンなどのプロモーション担当会社ディレクター)