La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Grand Amour (1996), love is everything

1999年8月にガンでこの世を去った女性調香師、アニック・グタールが生前残した香りの多くは廃番となったり、継続品でもここ日本では販売終了した作品が多く、アニック・グタールの事をセレブ御用達香水だと紹介する事の多い女性誌やブログなどの影響で、現在全国のデパートでも容易に手に入るようになったアニック・グタールを「天然香料だけで作られた、香水嫌いもつけられるナチュラルな香り」(注:これは私が実際にアニック・グタールの商品説明として都内百貨店の店頭で受けたものです)のブランドと思っているユーザーも多いかもしれませんが、本当はそんなアロマの延長みたいなブランドでは決してなく、年齢は問わないが精神的には大人の女性にしかつけて欲しくないフルボディのオーセンティックな香りをいくつも残していて、そういうものから店頭では手に入らなくなっていく所が、LPTでは度々語られる現在の日本及び隣国の嗜好的幼児成形(ネオテニー)を露見していて残念でなりません。


「愛こそすべて」。シングルマザーだった彼女にのちの夫となるチェリスト、アラン・ムニエ氏(1942-)が想いを込めて毎週届けてくれた花束へのオマージュとして「大いなる愛」の名で答えたアンサーバックが、彼女が亡くなる3年前に発売されたこのグランダムールです。発売当時はマドンナなど著名人ご愛用という点でも話題になりました。生前の作品としては日本でもまだ購入できる数少ない香りのひとつですが、海外ではEDT・EDP・EDPリフィルそして真っ赤なバタフライボトルのフルラインナップと根強い人気な一方で、ここ日本では通常ボトルは販売終了し、伊勢丹限定・バタフライボトル100ml(EDP:税込44,172円)のみとなっています。
 
香りとしては、それはもう百花繚乱なフルボディのグリーンフローラルブーケで、パッション(1983)、ウール・エクスキース(1984)の発展系ともいうべき青々としたガルバナムのバーストに始まり、ヒヤシンス、ユリ、ハニーサックルといった、ジューシーで生々しい芳香を放つ、腕抱えの豊潤な花束を彷彿するブーケを、豊かなバニラ、アンバーが束ね、そこにはやる心を整えるかのように鎮静をもたらすミルラが花々の背筋を優しく撫でています。濃厚というよりは豊潤、しつこい甘さはありません。結果、主張する美しさとしては抜きん出ており、80年代の作品では見られなかったストレートな感情が「もう遠慮はしない」と言わんばかりに華やいではいますが、自ら前に出なくても、相手がおのずと引き寄せられる美しさといった方が近く、自分からは決して自己紹介しない(できない)ような恥じらいも寸止めで残している所がお人柄だと思います。ただし、決して控えめな香りではなく、フローラル系としては持続も良いので、つけすぎると入院中枕元に胸いっぱいの花束を抱えてお見舞いに来てくれたのは良いが、動けない中生々しい花の香りにいつまでもむせかえるような気分にも陥るのでご用心。特に食事時にはぶつかりやすいので、グランダムールは下半身を中心に少しずつ試して、ご自分のちょうど良い加減を見つけてください。 

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バタフライボトル EDP 100ml

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