La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Eau de Fleurs de Cedrat (1920)

A Gentleman takes Polaroids chapter twelve : Gentleman in rainy season
 
立ち上がり: レモン系の爽やかな香り。複雑さはないですな。単純明快でいい香り。
昼: 朝香水つけ忘れてたっけ?
15時位: 上に同じ
夕方: 上に同じ つけて10分もすれば消え去ります。思い切りが良いねー
ポラロイドに映ったのは: こじゃれた茶店なんかで出てくる レモン少し絞ったお冷。
 
Tanu's tip :
 
香水の出来不出来を測るうえで、日本ではさほど重要視されませんが、欧米では香りの良し悪しと同じくらい、いやそれ以上に重要視されるのが「香りの持ち」。香水の消費量が日本人のそれとは比較にならない欧米では、いい香りでも長持ちしなければつけ直すことになるし、つけ直す分減りも早い、よって不経済だ、不経済な香水はよくない…あれ?さっきまでいい香りだから気に入ってたんじゃないの?という視点の違う論法で評価されてしまいます。ただし、そもそも外出用に使うものではなく、衛生状態が今よりずっと悪く良い薬もなかった中世には殺菌剤や気付け薬として発明されたオーデコロンはまったく別。シャワーを浴びて、バッシャバシャ浴びて、ああさっぱりした風呂入った、で出かけるころにはもう香りが消えていてもかまわない、むしろ消えてくれて上等、だって出かける時はそれこそお気に入りのオードトワレやオードパルファムをつけるんだから。
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「セドラの花」オードフルールドセドラ オードトワレ100ml
 
でも、このジャック・ゲランが1920年、ミツコを発売した翌年に発表した、つけた後の香りがゲラン史上最速で消失するオードフルールドセドラは「オードトワレ」なんですよね。欧米の香水コミュニティでも「いい香りなんだけど、こんなに持たなくてこの値段はないよね」「瞬間消えるね」とその二点ばかりフォーカスされているオードフルールドセドラ。つけた瞬間、針やデジタルが豪速で回るストップウォッチの文字盤が目に浮かぶ程、瞬殺で香りが飛んでしまう驚くべきその速さは、体感したものでなければわかりません。肌の上よりも保香性の高いムエットにたっぷり含ませても、10分後には何も香りません。ゲランの他の「オー」と名の付く一連のオーデコロン、オーインペリアル(1853)やオーデュコック(1894)、近作のコローニュデュパフュマー(2010)と比較してもなぜこれでオードトワレと呼ぶのか、猛烈に逃げ足が速い上、ゲラン公式サイトでも「服の上からスプレーしてさっぱり」「ほかの香りと重ね付けしてもグッド」と、シャツクールかよ!!ともはやこれ1本で楽しめるフレグランスとは別物として扱われていることから、これ1本でひと夏過ごそう、など思っている方には「オードフルールドセドラは用途が違う」と耳打ちしてあげたくなります。ちなみに国内販売価格は100mlで12,312円です。
 

 

熱中対策シャツクール 冷感ストロング 100ml
ジェントルマン 梅雨から夏場の必需品、シャツクール 類似品は妙に香料が残るので、できればこれか無香料のものをお勧めします。ちなみにオードフルールドセドラには「汗をかく度にひんやり持続」の効果はありません

なぜこんなに持続しないのか?それは、原料が「天然レモン、ベルガモット、セドラ、以上」だから。たちあがりのレモン感は、今から40年くらい前に日本でも大ブレイクした「ラブズフレッシュレモン」というレモン一発のオーデコロンを思い出しますが、さすがに桁1個違うので、同じレモンだったら前者はOPP・TBZ・イマザリルといった農薬バリバリで転がしておいても絶対腐らないレモン、後者は千疋屋で売ってる契約農家から取り寄せた高級柑橘類のバスケット、みたいな格があります。レモンのほかにビターなベルガモットとセドラが出てくると、もうストーリーは後半戦。ジェントルマンのポラロイドにも、シャレオツなベーカリーカフェかなんかで出てくる、レモンスライスと氷をたっぷり入れたでっかいカラフェから、素敵なエプロンをしたかわいいお姉さんが注いでくれるお水を一飲みしたあの瞬間が映っています。そういう店、経費節減なのかずいぶん減りましたね。
 
 
 
 
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