La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Special №127(1890)

A Gentleman Takes Polaroids chapter Thirty Seven : Gentleman The Patriot
 
立ち上がり:大人な香り!というか子供の頃床屋へ行くと散髪終わった大人たちから香ってきた匂いだ。懐かしい感じがします。
 
昼:なつかしさは薄れて平成位まで来たか。ラベンダーの香りが出てきました
 
15時位:昼とあまり変わらず。香りが薄くなってきましたがそれに比例してレトロさも薄くなります
 
夕方:ムスク系の残香を残し終了。
 
ポラロイドに映ったのは:床屋の店頭のグルグル廻る赤青白の看板とチックの香りを漂わせた昭和のオジサン達。私の親の世代ですね。第一印象が強すぎて後半どんな今風に変化しても昭和感が拭えず。
 
Tanu's Tip :
 
2016年7月からスタートしたジェントルマンコーナーことA Gentleman Takes Polaroidsも、今年で何と5周年を迎えます。テーマに相応しいものが登場しているか否かは別として、毎回ジェントルマンに3本、お題を出してポラロイドを写してもらう。既に100本以上、香水ファンでもブロガーでもない一般中年男性が、何の前情報もなく、ただ体感のみで見えざる香りを可視化するー彼の武器は、香水評論において何も失うものはない事。たとえ世界がすべて彼のポラロイドに背を向けようと、ジェントルマンは私に言われて書かされているだけなので、痛くもかゆくもないのです。それゆえ、毎回好き勝手なものが香りの比喩として登場します。ただ、お読みになってお気づきの方も多いと思いますが、ジェントルマンの鼻は鍛えられています。そして世の中の評価は、彼にとって何の指針にもならない。ある意味、誰にも忖度していない、己から湧出で己に帰結する、大変真面目なレビューがジェントルマンコーナーです。5年間、メンズ香水のレビューが上手くできない私に代わり、ある時は沈黙し、ある時は悶絶しながら誠実にポラロイドを撮ってくれました。これからもジェントルマンの任務は続きます。
 
ジェントルマンと言えば英国紳士。イギリス貴族のスポーツと言えばクリケットですが、昔はプロのクリケット選手を「プレイヤー」、アマチュアの選手を「ジェントルマン」と呼び分けたほど、アマチュアリズムを称讃したそうです。一方で貴族社会は腐敗の温床でもありました。ヴィクトリア朝から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした連載漫画「憂国のモリアーティ」という作品は、シャーロック・ホームズのストーリーを大胆に換骨奪胎した人気作で、原作漫画から派生したマルチメディア作品が多数あり、今週末に最終回のアニメもその一つです。現在LPT配送部ことハン1さんがどハマリしている作品で、先日配送部に行ったら、メインキャラクターのクリアファイルがあったので、雑誌のオマケか?と尋ねたところ、アニメグッズショップで買ったと聞き、そこまでハマったかと衝撃を受けました。キャラクター別のフレグランスも売っているそうですが、どうせだったら、お話の登場人物が生きた時代からある英国の香りを連れてきて「憂国のジェントルマン」をキメてもらおうじゃないかーというのは全くの後付けですが、ジェントルマンコーナーでもおなじみの、あの英国王室御用達ブランドから選んでまいりました。19世紀からふたつ、20世紀初頭から一つご紹介します。
 
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左)フローリスが19世紀に賜ったワラント。中央)ジャーミン通り89番地のフローリス本店。ワラントいるいる 右)現在フローリスが賜っているワラント、エリザベス女王は香水商として、チャールズ皇太子はトイレタリー用品店として御用達
創業1730年の家族経営ブランド、フローリスが初のロイヤル・ワラントを取得したのは、今から200年以上前の1820年。ジョージ4世が即位したおめでたい年に、当時としてはフローリスが寡占状態だったポインテッドコーム(今で言うセットコーム:末端が髪をとかし分け目をつける先細りの棒になった櫛)で御用達を賜りました。ワラントを授けたジョージ4世は、かたやトレンドセッター的な芸術の庇護者だったと評される一方で、放蕩と愚政で悪評も高く、極端に盛ったイケメン肖像画と醜い風刺画が数多く残る「間はないのか」的王様でしたが、当時ワラント取ったら商人は天下取ったも同じ、ジャーメイン通り89番地のフローリス本店正面玄関には、現在もジョージ4世のワラントが鎮座しています。

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スペシャル№127 オードトワレ100ml 日本未発売、£80.00(公式サイト)
1890年に登場したスペシャル№127は、現在は代表作№89(1951)やホワイトローズ(1800/2004)等と共にシグニチャー・コレクションに属し、伝統的なオーデコロンを「ちょっとおいしく長持ち」に仕立てた、しゃきっとしたシトラスアロマティックで、これからの季節、男女問わずサマーフレグランスとして活躍してくれる、爽快感と懐かしさが共存した香りです。立ち上がりこそゼラニウムとプチグレンがビシッ!バキッ!と来ますが、メインがネロリとラベンダーなだけあって、展開するにつれかなりのおくつろぎ系コロンになっていきます。食べられそうなおいしさに感じるのは、シトラス部分のオレンジ比率が結構高めだからですが、オレンジと言えば、イギリスでは「インペリアル・ジャム」と呼ばれるマーマレードの材料で、オレンジを育てる温室はオランジェリーと呼ばれ、イギリスでは自生しないオレンジを邸内で育て、マーマレードを作るのは英国貴族の富の象徴だったことから、イギリス流としてベルガモットではなくオレンジ多めなのでは?と憶測します。

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インペリアル・ジャムの香り漂う、長持ちオーデコロン、て感じかな…
一方ジェントルマンにはラベンダーがずいぶん主張したのか、ポラロイドには床屋でバキバキに仕上がった昭和のジオッサンが映りこみましたが、ジェントルマンが言う通り、スペシャル№127に、伝統的な王妃の水(SMN)やジャンマリファリナ(ロジェガレ)、オーアンペリアル(ゲラン)の、タイムレスでどこか崇高な儚さと一線を画す「昭和感」が漂うのは、何となくこのオレンジが、王道のオーデコロンには入ってこないイランイランのさじ加減でラストノートまで尾を引き、子供の頃に嗅いだチックの、ラベンダー香料だけではない何かを思い出すからではないか?と思うのですが、確かに肌に残るスキントーンから、ムスクやパチュリというしゃれたものではなく、昭和の化粧品メーカーが出していた男性用グルーミング製品から香る、あのジオッサンの気配がするものの、相対的に私がつけるとラベンダーよりもシトラスの主張が強く、むしろ昔エッセンシャルオイルと塩で自作したリラックス系バスソルトを思い出します。
 
今から15年くらい前にせっせと作って、ジェントルマンにも大好評だったあの入浴剤、レシピを教えますね!
 (全身浴3回分)
-エプソムソルトまたはヒマラヤ岩塩 大さじ6
-スイートオレンジ 10滴
-ラベンダー 5滴
-ゼラニウム 4滴
-イランイラン 1滴
◎チャック袋に塩を入れ、エッセンシャルオイルを滴下した後、チャックを閉めてよく振って混ぜ合わせます。
 プラスチックや木のスプーンですくって、お風呂に入れてください。
注1)追い炊きや残り湯での洗濯はお勧めしません。(アロマサイトの受け売りです)
注2)作ったバスソルトは、10日位をめどに使い切ってください。経験上、1か月以上経ってから使うとなぜか風呂の水に湯垢のようなものが浮き上がり、せっかくのお風呂タイムが残念タイムになってしまいます。
久しぶりにまた作ろうかな。アロマオイルは、サイトの解説が面白いAir of Fragranceさんで買っています。…って、何の話だったっけ?

 

ちなみに№127は国内未発売ですが、アメリカのディスカウンターや国内ECモールの並行輸入品で容易に入手可能で、実売価格は10,000円前後です。英国での定価が£80.00(約12,000円強)なので、まずまず値崩れもせずに流通していると思います。
 
 
 
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