立ち上がり：THE おっさんまいるのう！という香り、最近久しくこういうブツを試してくれと言われなかったので新鮮。まあ10年前ならこりゃジジくさ過ぎと敬遠してただろうが、幸か不幸か年齢的にそれなりに馴染んだ香りのような気も
昼：こういうタイプは経時していくうちにより枯れた感じになって加齢臭か香りか判らなくなってくる事が多いがこれはそういう感じでも無い。段々フレッシュな香りになっているような気も
15時位：昼と印象変わらず。香りの角が取れて最初の印象より大分良い
夕方：少し落ち着いてきてかなり良い香りです。つけ始めより一日の終わりの方が良いですね。欲を言えば最初からこういう香りで最後まで行けば良いかなと
ポラロイドに映ったのは：生まれた時からランバ・ラル（半田屋風に）
Tanu's Tip :
このところ大物記事や取材ものが続き、中々気軽な単発記事を更新する余裕がないLPT。一番割を食っているのは、皆様お待ちかねなはずの、LPTレビューにおける一服の清涼剤・ジェントルマンコーナーでしょう。ただし「最近久しくこういうブツを試してくれと言われなかった」とは語弊があります。日々企画は練っており、その為の香水も選んで渡してあるのですが、特に〆切を設けずポラロイドを依頼した香りについては頼んだ香水が家庭内紛失を含め何一つ結果が上がってこず、私もTipを書かず、昨年はレルボラリオ45周年とディヴィーヌのサマーフレグランス以外ご紹介できなかったのが実情です。何事も〆切は大事だと猛省、かつてのように3選テーマものは難しいにしても、ポラロイドが上がってきたものから五月雨式に更新していこうと思います。
今回ご紹介するのは、復興系ブランドの金字塔で、本年リバイバル15周年のグロスミス・ロンドンが、2023年5月6日に行われたチャールズ3世の戴冠式を記念して発売した初のメンズ香水、キングズ・サルート。リバイバル後のグロスミス・ロンドンとしては10作目、ビトラウザル(2011)、ダイヤモンドジュビリー(2012)に続く、王室ゆかりのシリーズであるロイヤル・コレクションの3作目になります。ディレクションはサイモン＆アマンダ・ブルック夫妻、調香はロベルテUK所属のジュニア・パフューマー、マチュー・マヌーヴァーで、英国調香師協会60周年記念コンペのファイナリストに選ばれるなど、これからの活躍が楽しみな若手です。
新国王誕生の前年、英国君主史上最長の70年という長きにわたり国を治め、2022年9月8日に96才で崩御したエリザベス2世からバトンタッチしたチャールズ国王は既に現在75才。この方は、長き皇太子時代に英国の至宝だったダイアナ妃のまずい扱いや離婚、再婚と「英国民に愛されポイント」を食い潰してきた方なので、正直なところエリザベス女王程の人気を獲得しているとは思えず、日本国民の私にとってはグロスミス11年ぶりの新作のほうが、ご本人の即位よりも遥かにビッグニュースでした。
グロスミスは、ロイヤルワラントという印籠を賜っていたブランドだけに、王室の慶事は外せません。ただし香水って1日2日で作れるものではないので、グロスミス側も「すわ、崩御！！」ではなく、予めXデーを想定して準備は進めていたとは思いますが、キングズ・サルートの発売前は「3月頃から、発売準備以外ほとんど何もできなかった。新作を出すというのがどれだけ大変か、すっかり忘れていたのよ(アマンダ・ブルックさん談)」と上を下への大騒ぎだったそうで、晴れてバッチリ戴冠式に合わせフォートナム＆メイソンで先行発売、発売日の5月6日にはブルック一家もフォートナムズの店頭に立ち、戴冠式を一目見たいと世界中から集まった方々がグロスミスのカウンターにも大勢見えて、それは忙しく楽しい一日だったそうです。かってのグロスミスと同じく王室御用達食料品店であるフォートナムズも、名物のハンパー（バスケットにお茶やお菓子、食器や日用品をおさめた詰合せ）にキングズ・サルートも収め献上、またグロスミスも「キングズ・サルートは、ハンパーとは別にブランドとしてチャールズ国王の公邸であるクラレンス・ハウスに直接お届けするつもりよ。ビトラウザルをセントジェームズ宮殿に、ダイアモンドジュビリーをバッキンガム宮殿にお届けしたようにね(同談)」と仰っていたので、今頃チャールズ国王からいい香りがしているのは間違いありません。
先行発売から遅れる事2か月、ようやく入手できた日本の7月は暑すぎてジェントルマンは実装不可。そこで涼しくなるまで待っていたら年が明けてしまいました。香りとしては、とにかく衝撃的にジオッサン香で、一言で言うと「丹頂チック系ラベンダー・フジェール爆弾」。国王だけに王道にもほどがあるアロマティックフジェールですが、ラベンダー激盛りにベルガモットとタイムがシャープに重なり、甘くて分厚いアンバーモッシーなベースと混然一体と香る姿は、まさに「王の敬礼」。かといって普段使い度外視にならないのは、シトラスがしっかり長持ちしてラベンダーを支えるさじ加減。ミドル以降重さが徐々に抜け、クールウォーター系の爽やかな男の香りに落ち着くので、荘厳な香り立ちのわりに体感は楽。後半からどんどん爽やかになるというのはフジェール系としては新機軸、今時のメイクで言うと「抜け感がある」という感じでしょうか。確かにお若い方が使うとお父さんの借り物になりそうですが、相応のご年齢の殿方がまとうと、役職二段階昇格を疑似体験できるかもしれません。
ジェンダーレスにシフトした方が世論的に安全だから、近年、特にニッチ系ブランドはユニセックスな香り作りをしていますが、キングズ・サルートは完全女人禁制。やはり男の香りといえばフゼア系、ウビガンのフジェール・ロワイヤルもびっくりのオッサン炸裂で、バカラボトルが破裂しそうな胸板に腹から話す太い声、圧倒的な包容力、それでいて笑顔は温かく、さわやか…あれえ？
それのどこがチャールズ国王なの？それって、ランバ・ラルだよね？ジェントルマンのポラロイドにもバッチリ映りました。しかも「生まれた時から」。どんぶりめしを無心に頬張る勢いで、ランバ・ラル。言いたいことはわかりますが、生粋のジオッサン、生まれた時からオッサンが誉め言葉かどうかはわかりません。それでも人間、生きていればいつかはオッサンになる時が来る。その時キングズ・サルートが似合えば、それは立派な御仁の証です。
最後に大事な話をひとつ。ブルック夫妻によると、キングズ・サルートのキーノートであるラベンダーとタイムなどのハーブは、チャールズ国王が皇太子時代、1980年にほぼ荒野だった土地を購入し、手ずから剪定や栽培を行いながら美しい庭園へと再生させた植物園、ハイグローブ・ガーデンで国王自ら育てており、本人著の書籍もある程(下記参照)。さらには遡る事19世紀半ば、グロスミス創業者ジョン・グロスミス自身もロンドン郊外のバンステッドに香料用のハーブ農園を所有し、ラベンダーやタイムを栽培していたという「ハーブつながり」で、どちらかというとレディス向けの作品が多かったグロスミスとしてはメンズ向けの香りを作り、客層を広げたかったとの事です。
【Where to buy Grossmith NOW ?】
日本からグロスミスを手に入れる販路は非常に限られていて、更にはブレグジットやコロナの影響か、コロナ前の記憶から取扱店が結構入替わり、米Luckyscentや独First in Fragranceなどは公式サイトの販売店リストからなくなっていました。2024年3月現在、グロスミス全10作が揃い、日本へ発送してくれるお勧めの2店をご紹介します。
日本もだいぶ色々なブランドが上陸してくるようになりましたが、グロスミスのような決定打が入ってきて、しっかり評価されて欲しいと鬼籍の女王様に願うばかりです。
・Fragrance & Art（スウェーデン）3000SEK(≒43,000円)以上で送料無料
※嬉しい免税対応、表示価格の約20%OFF相当。グロスミスのサイズバリエーションが豊富で、クラシックコレクションの10mlパルファムもある。
・Perfume Lounge（オランダ）400€(≒66,000円)以上で送料無料
※EDPの100mlはないが、クラシックコレクションのパルファム50mlや、EDP3本セットなど公式サイトに準ずる品ぞろえ。
⚠️上記の送料無料ラインまで買うと、個人輸入としてインボイス金額の10%相当が輸入消費税としてかかります。
