La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Tour de Antwerpen 2018 | La Maison du Parfum |

本邦初取材!アントワープの駅近香水店、ラ・メゾン・ド・パルファム訪問


その日はオランダ最大の祝日で国王の誕生日を国をあげて祝うキングスデーで、国中がオレンジ一色になりあらゆる街ではパレードや屋外ステージが繰り広げられるが「そんなお祭り騒ぎなんか付き合ってられないわよ、コケッ!キングスデーはベルギーに脱出、コケーッ!!」トサカを真っ赤にしたハン1鶏の一声で、祝日混雑の為ダイヤ変更や遅延が頻発するオランダ鉄道を避け、運賃約4倍をかけてロッテルダムからたった30分、国際特急タリスに乗ってあっという間にアントワープへ到着した。ロッテルダム駅8:58発-アントワープ中央駅9:30着、やる気満々で到着したアントワープ中央駅は「鉄道の大聖堂」とも呼ばれる非常に美しいゴシック様式の駅舎で、うっとり駅を見ていたらあっという間にアポイントの11:30に…

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通りに面した店構え(左)、ショッピングセンター内通路ディスプレィ(中央、右)

アントワープ中央駅から徒歩5分、駅前通りからちょっと左に入ったアッペルマンス通りにあるショッピングセンター、エンパイア・センター・ショップの1F路面に構えるお店では、オーナーのオスナットさんとスタッフのジャネットさんがお待ちかねでした。こぢんまりとした店内はパープルを主体とした不思議な色彩の空間で、所狭しとボトルが並んでいました。ベルギーでは唯一のピュアディスタンス取扱店でもあり、ガラス越しに100mlボトルがずらり。そして背後の高い棚にはロジャ・ダヴの中でも1本€1,650以上する最高額ラインがボカンボカン並んでいました。もちろん盗難防止でしょう。

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ロジャダヴ。中には100ml€1,650もするア・グッドナイト・キスも ボカンボカンボカン!!「大変興味深いですが、手が届きません」と言ったら「そうよねえ」と満場一致

-はじめまして、東京から来ました。
オスナット、ジャネット「ここのところ商売が悪いのよ~!」
-なんと、ぼやきが初めての挨拶代わりですか。でもそれはまた何故?
オスナット「タリスよ!アントワープに香水なんてわざわざ買いに来ないわよ」
-??
ジャネット「買い物は、みんなパリに行っちゃうのよ!!」
そう、実はアントワープは今ストロー現象に苦戦中。1996年に開通した国際特急タリスが2007年にアントワープ中央駅を経由するようになり、フランス・ベルギー・オランダ・ドイツが陸路でつながり便利にはなりましたが、みんなアントワープを素通りして買い物はパリに行っちゃう。ちょうど湘南新宿ラインが開通したり、東横線と西武線や東上線が副都心線経由で乗入開始した途端、それまで池袋どまりだった埼玉県民が一挙に渋谷や横浜に進出し、ただでさえ二級都市だった池袋がますますスルーされるようになったのと似ています。
ロッテルダム-パリ北駅が直通でたったの2時間半で行けて、アントワープからだと2時間弱。しかも鉄道だから市内まで1時間半はかかるシャルルドゴール空港と違い、市内直結で駅に着いたらそこはすぐパリ市内。これは猛烈不利!いくら聖母大聖堂のあるダイヤモンドの街と言っても、パリの輝きには勝てないって事か…

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オスナットさん(写真左の右)とジャネットさん(同左)。タヌバッヂがアントワープにも!右はジャネットさん撮影、絶妙な手ブレでシミも小ジワも吹っ飛んだ。超メルシー

オスナット「でもあなたはうちの店に来てくれた初めての日本人よ」
-そうでしたか。それは光栄です。ところでいつからこちらで営業されているんですか?
オスナット「2005年よ。私はイスラエル出身で、もともとテルアビブでも香水店をやっていたんだけど、そこがすごく繁盛したの!それでよそに売却してアントワープ1本に絞ったの。ここのショッピングセンター(エンパイア・センター・ショップ)に、ロレンツォ・ヴィロレーシの販売権を持つ店があったんだけど、そこが閉店するので譲り受けたのがアントワープで店を開くきっかけよ」
-お店はオスナットさんとジャネットさんのお二人で運営?
オスナット「今は私とジャネット、そしてもう一人セールス担当の3人よ。ジャネットは長年ベルギーの香水業界で活躍していたんだけど、ちょうど退職するというのでヘッドハントしたの」
-ジャネットさん、第二の人生も香水一筋ですね。
ジャネット「私、日本にも仕事で行った事があるわ。伊勢丹の香水売場も回ったし。日本人はフローラルで軽い香りが好きよね!」
-香水よりも柔軟剤の方が高評価ですけどね。
オスナット「日本ではどういうブランドが人気なの?うちの取扱ブランドでもあるかしら?」
-相対的にメジャーなブランド信仰が強いのはどこの国でも一緒だと思いますが、シャネル、ディオール、エルメスは鉄板で人気ですね。ゲランも勿論人気があります。またメゾン系ではクリード、ペンハリガン、メゾン・フランシス・クルジャンあたりは全国のデパートで買えるので人気ですね。
ジャネット「ほら、クリードだって他のだって、みんなフラワリーな軽くて無難な香りばかりじゃない。そういうのが売れ筋なのよ」
-まあ、当たらずも遠からじですね。日本では、①マリー・アントワネット②ローズ③貴族、この3要素が出てくると脊髄反射的に食いつきがいいので、メディアではこの3つのどれかがネタの香水が話題になっています。
オスナット「それじゃ、せっかく日本から来てくれたから、最近取り扱いを始めたイチオシのライトな香りを紹介するわね!」
-あはは…お願いします。

そういいながら紹介してくれたのが、昨年登場したイタリアのブランド、ヴィア・ディ・ミッレでした。
オスナット「オーナーのおじいさんが、1950年代シチリア島で香料会社を自営していたの。特にシチリア特産のジャスミン、アーモンド、ネロリは、自宅の畑から積んだ花を蒸留して、グラースまで輸出していたそうよ。それが、10数年たったある日、突然廃業してしまったの。お孫さんの一人だったブランドオーナーのステファノさんは、小さい頃廃墟と化した香料工場でよく遊んだんですって。でも大人になった時『おじいちゃんは、本当はこの香料を、どうしたかったんだろう?自分でシチリアの香りを作りたかったのでは』って思うようになって、それでパリでデザインの仕事をしていたお兄さんと一緒にブランドを立ち上げて、50年後におじいちゃんの夢を形にしたのがVia dei Milleなの。ブランド名は香料工場のあったミッレ通りからとったのよ」

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ヴィアデルミッレのロゴ。中央の天使が坊ちゃん石鹸っぽい

Zagara、Gelsomino、Mandorlo (各2017) by Via Dei Mille Sicilia

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強い日差しと乾いた風に乗って鼻をくすぐる、ホワイトフローラルの香り。シチリア特産のジャスミン、アーモンド、ネロリをキーノートにした、ナチュラルで明るく、フレッシュで端正なライトフローラルですが、1,2mlのサンプルで試す程度の量では本領を発揮しないのか、つけたそばからスキンノートに落ち着いてしまい、三者一様に「とってもいい香りが風にのって脇の下から抜けていく、以上」に。こういう香りは後生大事にけち臭くサンプルアトマイザーからちょいづけするのではなく、フルボトルからパッシャパッシャ、ブッシュブッシュ浴びるようにつけないと楽しくないのでは?そして案外、高温多湿の日本ではこの手の香りはあっさり汗に流れてしまうので、コストパフォーマンスを考えると今一つ訴求力に欠けるのが残念(€165/100ml)。シチリア島みたいな南欧の雰囲気が好きで、原料を一部地産地消している点に魅力を感じる、香水臭いのが苦手な天然志向のイタリア好きにおすすめ。公式サイトが送料無料でメーカーサンプルを販売しているので、そこから入門するといいと思います。

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左からジェルソミーノ、マンドルロ、ザガーラ 各EDP,100ml

海外の香水店に行くといつも話が盛り上がり、あっという間に時間切れになっていまいます。気付いたら昼の1時を軽く回っていました。今回お店でボトルやサンプルを購入したものから3点ご紹介します。

Iris Fauve (2017) by Atelier des Ors

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昨年あたりの見本市で結構な話題だったアトリエ・デゾール。レトロクラシックなボトルの中で金粉が舞う、でも使っているうちに詰まらないのかちょっと心配な美しいボトルが印象的です。中でもこの「野性的なアイリス」イリス・フォーヴは発売当時一番の話題作だったので、粉物好きとしては見逃せない作品として、メゾンドパルファム訪問の楽しみの一つでもありました。調香はマリー・サラマーニュで、YSLではブラック・オピウムとそのドジョウシリーズにエクスクルーシヴライン、ジョー・マローン各作品、ゲランのアクア・アレゴリアシリーズなど、日本ではあまり話題にのぼらない方ですが、結構な実力派がイリス・フォーヴをはじめ一連のアトリエ・デゾール作品を手掛けています。オスナットさんがお土産代わりに用意してくれたサンプルを試しましたが、付けた瞬間はアイリスと共にごついアニマリックノートががつんと立ち上がり、確かに結構野性味があるのですが、野獣の粉物感は徐々に薄れ、割と根性なく甘口の滑らかなパウダリームスクになります。現代の香水はトップノートが勝負で、いかに印象的なトップノートを作るかで勝敗が決まる、と聞いたことがありますが、確かにトップは野性的なアイリスで看板に偽りなしとはいえ、香水とは一日を通して楽しむもので、音楽だってイントロさえカッコ良ければいい、というものでもないし、トップが消えたら全部消えるわけでもないので、もうちょっと野性的な魅力を全般に引っ張れれば「個性的な粉物」として1ページ別枠で紹介するところでした。一方であまり拡散せずじっくり長持ちしますので、逆を言えば抑制の利いた甘さのあるスムーズな粉物として、使いやすい一本ではないかとは思います。

Private Label (2011) by Jovoy

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オーナーであるフランソワ・エナン氏が過去のアーカイヴの復刻と香水店の開業を同時進行する形で1920年代のパフューマリー、ジョヴォワを2006年に復興させて12年、今では人気オート・パフューマリーに成長しパリ本店はもちろんロンドンや中東へも進出する一方で、オリジナルブランドの新作香水を精力的に輩出しています。ジョヴォワの取扱ブランドが、他店より復興系が多く見られるのも、自らも復興ブランドであるという襟持の現れでごく自然な流れだと思います。日本ではキャンドルだけ輸入代理店がありますが、フレグランスは未発売なのが残念至極です。昨年わざわざメイフェア店に行っておきながらついつい目移りしてしまい、完全スルーで帰ってきてしまったジョヴォワのオリジナルからボトルを2本入手しました。ジョヴォワのオリジナルフレグランスはEDPは100mlで€130、パルファムでも50mlで€145からと良心的な価格も嬉しいシリーズです。昨秋メイフェア店訪問時、お店の売れ筋として名前の挙がっていたプライベート・レーベルですが、調香はLPTではおなじみのセシル・ザロキアンで、日本上陸したラボラトリオ・オルファティヴォのパチュリフルやネロティークの作風でもわかる通り、こちらのプライベート・レーベルも彼女のご贔屓香料であるパチュリとベチバーを過積載した十八番のウッディオリエンタルです。花香料は一切フィーチャーせず、トップのシトラスもなく、ひたすらベチバー、パチュリ、サンダルウッド、ラブダナム、レザー、以上!無糖ブラック濃いめ、焦げ臭いがなんか燃えてたのか!みたいな妥協のない香調ですが、立ち上がりこそ燻香と縄がほどけて崩れ落ちる角材の下敷きになりそうな、スモーキーなウッディバーストにちょっと動揺するものの、この香りはとにかくミドル以降がいい!まるで自分が長年極品線香の煙に燻されてきた尊い木彫仏かと錯覚する、ラブダナムの燻香が一歩、二歩と下がるとともに、肌から少しだけクリーミィなサンダルウッドが一歩、二歩と前に出てきて、辛口の乾いたベチバーやレザーパチュリと相まって鎮静効果の高い香りに落ち着きます。確かにこれをつけて友人と外で立ち話をしていた時、背後から一筋の風が拭いた瞬間、目の前の友人が「お釈迦様の香りだ!!」と対面成仏していました。ミドル以降がしっかり長く香るので、トップのスモーク香が苦手な方でも、ちょっと待てば大丈夫。時間の経過でこれだけ甘くならないオリエンタル系は中々ありません。通りすがりの方には「白檀のいい香り」がするそうで益々合格、夏場も暑苦しくないので、オリエンタル系のオーレジェールよりはこの位シヴイ材木系オリエンタルが好感度かもしれません。ベチバー好きにも相性がいいでしょう。

Rouge Assassin (2012) by Jovoy

「赤い暗殺者」のおっかない名を持つ、こちらもジョヴォワのオリジナルラインナップ中人気の作品。調香OEM会社フレアの看板調香師で、若手ながら既に相当数の作品を手掛けている実力派のアメリ・ブルジョワが調香を担当しています。

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シンプルなローズとアイリスを表舞台に、植物性ムスク、アンブレットシードとホワイトムスクでベースを整えた中にうっすらバニラ、うっすらトンカビーンが支える、肌に貼りつかない「お肌の表面はいつもサラサラ」な、さっぱり系パウダリーです。クラシックな香圧がなく、TPOを選ばないモダンなウッディ・パウダリーで、しかも素敵な女性の第一印象で言うと「笑顔が可愛い人」というよりは「真顔の美しさに見惚れる人」と言ったほうが妥当な、甘えのないアイリスローズがキリッと香ります。アンブレットシードをガツンと効かせたフローラルというと、メナードのオーセントを彷彿しますが、オーセントはフローラルの主役がローズなのに対し、ルージュ・アササンはアイリス勝ちなので、より一層無駄口をきかない、無益な微笑みはくれてやらない印象です。同じ粉物でも、タンドネージュや150パルファムのようなタルコ系が乳脂肪分18%+卵黄入の濃厚なアイスクリームだとしたら、ルージュ・アササンはラクトアイスか赤城しぐれ*。甘さも控えめで、真夏につけても酔わないさっぱり感がこれからの時期にも使いやすいと思います。それでいて身体の動きに合わせて雲がちぎれるようにふわっ、ふわっと香るのと、朝つけても夕方まできちんと持続するので、モダン・パウダリーのジャンルとしてはかなりおすすめです。

他にも、粉物系が好きだと話したら「パウダリーな香りだったら、これに決まっているわ!」と激推しされたのが、イタリアのキャンドルメーカー出身で、ヨーロッパではイタリア以外でもデパートの香水売場でいい場所を抑えているブランド、ティツィアナ・テレンツィのEclix(2017)したで。訪問した前年の新作という事もあり、ロレンツォ・ヴィロレーシのタンドネージュ(2000)を押しのけての激推しで、ムエットをもらってきましたがパルファム濃度でガツンと香るイタリアの正統派タルコ系で、やっぱりイタリアのブランドってタルコ系はコンパルソリーなんだなあ、プロフーミ・デル・フォルテがイタリア統一150周年記念に出した150parfum(2011)も激しいタルコ系だったし、同じヨーロッパの粉物とは、うまく表現できないけど確実に一線を画す「ドス」が聞いているのがイタリアン・タルコ。マンマの大きなお尻の重みを感じます。こちらはボトルを入手したらしっかり実装してレビューしたいと思います。

ウェブストアでは日本対応してくれる貴重なお店のひとつでもあるメゾン・ド・パルファム。オンラインでのVAT値引は非対応ですが(店頭購入品はきちんとデタックス書類を作ってくれました)送料もフラットレートで€20と良心的なのと、サンプル販売もしてくれます。おまけになんと時々オンラインでもセールをしているので、ぜひメーリングリストに登録して、お得な情報をゲットしてくださいね!

Maison du Parfum Antwerpen
Appelmanstraat 25 - Shop 6 - 2018
Antwerp
Tel : +32 3 475 24 94
営業時間 
月―金:10:00-18:30
土 13:00-18:30
日祝休

*赤城しぐれ:真ん中に練乳またはアイスクリーム(もちろんラクトアイス)が埋まったカップかき氷。

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