La Parfumerie Tanu

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The Undead : Lubin 2

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リュバン ムエット④⑤、⑥⑦、⑧
 
4)  Nuit de Longchamp (1937, Pierre Prot) / Lubin
5)  Nuit de Longchamp (2008, Thomas Fontaine) / Lubin)
6)  Gin Fizz (1955, Henri Giboulet) / Lubin
7)  Gin Fizz (2009, Thomas Fontaine) / Lubin
8)  Black Jade (2011, Jean Louis Fargeon, Thomas Fontaine) / Lubin
 
それではお待たせしました、実際の香りについてですが、今回は特別ゲストをお迎えします。といっても写真だけですが、去年の11月、フォートナム&メイソンに行ったんですよ。目的は、グロスミスのブルックご一家にお会いする事と、今回のキャバレー用に、日本からだと海外通販で入手困難なウビガンのエッセンス・レア復刻版を購入する為だったんですが、ブルックさんと別れた後、香水売り場に行ったら、フォートナム&メイソン限定品のコーナーがあって、そこにウビガンのコレクシオン・プリヴェもあったんで、エッセンスレア、エッセンスレア…と探していたら、店員さんに声をかけられたんですよ。この人。
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(左)ミコワイ君。2019年11月、F&Mにてタヌ撮影。(右)リュバンのインスタグラムで拾った同年9月のミコワイ君 2か月で髪型イメチェン。どちらもお似合いですよ、フ フ フ
名札、見えます?ミコワイって書いてますね、英語圏ならニコラスとかマイケルみたいな、ポーランド系のよくある名前です。で、このミコちゃんとしばらく会話することになりまして。細面で、なかなかぬめっこい感じの青年でね。これ(スライド画像左)は、その去年の9月、インスタに載ってたミコちゃんで、これは(同右)私が撮ったミコちゃんです。髪型変わってますね。
 
「奥様、フランスのクラシック香水はお好きですか?」
-はい、好きですけど?
 
「本日奥様に、特別にご紹介したいブランドがございます。こちらへどうぞ」
-はあどうも。何でしょう?
 
フォートナム&メイソンの香水売り場ってすごく広くて、幾つか半個室空間みたいになってるんですね、奥の奥まで香水売り場で。で、一番奥まで案内されて、くるっとこっちを向いたと思ったら
「こちらでございます」リュバンなんですよ。一通りリュバンのカウンターがあって、壁面はメートル・パフュムール・エ・ガンティエでしたけど、店舗限定の高いシリーズの他に、イドルとかモダンなシリーズがいくつか、でも一番フィーチャーしてたのはやっぱり復刻系のクラシックシリーズでした。ここでミコちゃんが、ありったけのリュバンの歴史を語りはじめまして、どこどこ王室ご用達、だれだれご贔屓…と、まあその辺は公式サイトにみんなあるんで、右から左に聞き流してたんですけど、そこでミコちゃんが一歩前に出まして
「奥様に、おすすめの作品を3つご紹介いたします。まず最初が、このブラックジェイドです」
順番が逆走しますが、ムエット8番ですね。

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ブラックジェイド(2011) EDP 100ml
「この香りは、かつて創業者ジャン=ルイ・ファジョンがマリー・アントワネットお抱え調香師だった時、マリー様のために調香し、ファジョンの弟子だった創業者リュバンが、宮廷へお届けしていた香りのレプリカでございます」
-え、そんな香りが残ってるの?
 
「マリー様は、この香りをギロチンにかけられるまで獄中でもご愛用でした」
ーホントなの?
 
「はい…よもや21世紀の今、ご愛用の香りがレプリカとして蘇り、ここフォートナムズで売っているとは、マリー様もさぞ驚いていることでしょう、フ フ フ…
-ゾゾー!何なのよ、そのフフフって!
 
いやもうほんと、ゾゾゾーでしたよ。でもそういう話ってだけで、処方か書付かなんか出てきたのかもしれないけど、実際に作ったのはトマス・フォンテーヌですからね!トマスさんらしい、出過ぎない上品なウッディムスキーなフローラルで、2011年の作品です。ストーリーの後付け感が半端ないですが、一応公式サイトでも調香ジャン=ルイ・ファジョン、トマス・フォンテーヌ復刻、となっています。
 
「次におすすめなのが、このジン・フィズです」
-あ、これアンリ・ジボレが作って、戦後大ヒットしたやつでしょ?
 
「奥様、お詳しい…ジン・フィズは、シトラス系といわれて居りますが、ジン・フィズの真髄は、そのフローラルノートでございます。軽やかでいて、奥が深い…」
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ジンフィズ。(左)2009年版、トマス・フォンテーヌ版 (右)1955年版、アンリ・ジボレ版
ムエット6番と7番のジン・フィズですね、6番がヴィンテージ、7番が現行品ですが、これは、戦後の大ヒット作なだけに、発売当時品と当時の愛用者が残っていたのと、度重なる大手の買収で最も処方がやせたのが、このジンフィズだってテヴェナンさんも言っていて、復刻に当たっては、1955年のジボレ処方から、現在使用できない香料を抜いて、あとはフォンテーヌさんのさじ加減でオリジナルを誠実に再現した自信作だそうで、確かに立ち上がりはフレッシュですが、確かにミコちゃんの言うとおり、じわじわ香るのはフェミニンなフローラル、なんてったってグレースケリーがモデルですからね!
 
「最後にご紹介するのは、私が個人的に一番好きな、ニュイドロンシャンです。戦前の大ヒット作で、フローラルシプレの香調になります」
-ああ、これ私ボトルで持ってる。ニュイドロンシャン、私も大好きです。
 
「奥様、さすがお目が高い」
-持ってるけど、日本で嗅いだ時より、骨格がしっかりと香りますね。やっぱり、おすすめだけのことはありますね。
「恐れ入ります…」
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ニュイドロンシャン。(左)2008年EDP、トマス・フォンテーヌ版 (右)1934年EDT、ピエール・プロ版
もうこの辺りになるとミコちゃんとの話題もなくなっちゃって、それで、この記念写真となりました。どっとはらい。

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ムエット4番と5番、ニュイドロンシャンは、フランスでは1934年、世界発売が3年後の1937年だったんですが、これがアメリカで大ヒット。20世紀戦前リュバンの代表作となりました。オリジナルが4代目ピエール・プロ調香、再処方トマス・フォンテーヌで、ニュイドロンシャンは過去数回処方変更しているので、どの時代のものかわかりませんが、ムエットだと若干カビジュースですが、これ肌に乗せると、ちょっと経つと香りが戻ってきて、現行品よりフルーティなシプレに感じます。一方現行品は、ミドルからのとろみのある深いベースがとてもたおやかで、歴史的ネタの多いリュバンですが、個人的に何か1本リュバンから、と言われたら、これですね。リュバンのクラシックは他にも1921年のキズミット、1968年、大手買収前に出た最後の作品、ローヌーヴ、21世紀の新作、グリセット等も展示していますので、ぜひムエットや実装でお試しください。
 
最後にリュバンの経営状態ですが、直近の決算を開示していないのでちょっと古いですが、2014年の資本金- € 193,800(約▲2,400万円)。資本金がマイナス!そして2020年度には201万ユーロ、2億5千万円まで増資しているので、なにかの大ナタが振るわれたんだと思いますが、この辺はちょっと運営が心配です。増資した年の売上が、€ 714,000 (約8600万円)、年商1億に届きません。LTピヴェの1/5です。うち7割が輸出で、フランス国内での売上は3割。2018年の純利益マイナス- € 258,300 (約▲3,100万円)、社員数名と、これだけ熱い心でいい仕事をしているのに、字面の経営状態が心配です。ぜひリュバンの一足後に復興し、10年で消えたドルセー(2007-2014最後の作品、アルキミヤシリーズ発売)のように、公式サイトごと閉鎖、なんて話にならない様願います。
 
それでは、ここで10分間の休憩に入ります。よく新鮮な空気でリフレッシュしてお戻りください。
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