La Parfumerie Tanu

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Splendiris (2019) and latest creasions by Parfums Dusita

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いまからちょうど2年前の2017年6月、LPTにて全点踏破したパルファム・ドゥシタですが、2年の時を経て3作品が仲間入りしました。 

たった2年という短い期間で、パリに旗艦店を持ち、欧米はもちろん中東やロシアにまで販路拡大、さらにはインディペンデント系香水大賞の最高峰、The Art and Olfaction Awards 2017 Artisan Category 受賞に続き、2002年の発足後、2010年よりアメリカのThe Fragrance Foundationと提携して開催されているFIFIロシアン・フレグランス・アワード2018にてエラワンが新人賞(Breakthrough Fragrance of the Year)を受賞するなど、急ピッチで快進撃を展開しているドゥシタですが、そんな対外評価とは関係なくじわじわと人気を獲得している背景としては、オーナー調香師であるピサラ・ウマヴィジャニが、インスタグラムのライブ配信等を通じ、ブランドの世界観を発信し続け、またライブ配信では常に視聴者からの質問を受け付け、丁寧に答えるなど、実際に会うことは叶わなくても世界のファンと心を通わせる地道な努力を欠かさず行っている姿に惹かれ、彼女の作品は勿論の事、気づいたらピサラさん自身のファンになっている人も多いからではないでしょうか。タイ訛りのシンプルな英語で一生懸命語りかけるピサラさん、今春LPT弾丸特派員2名がパリのドゥシタ旗艦店を訪問した際も、期せずして彼女自身が接客してくれて「今日は撮影用の格好をしていないから、ウフフ」と言いながらも記念撮影に快く応じてくれるというファンサービスに感激して帰国した話も実際に届いています。それでは、最新作スプレンディリスと、昨年発売された2作を合わせて紹介したいと思います。

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Splendiris (2019)
 
-私は言葉を織る
蝋燭の灯が照らす一夜
幾重にもかさなる夢に包まれながら-
 
  モントリー・ウマヴィジャニ
 
 
スプレンディリスは、発売前に名前のない状態でサンプル配布が行われ、世界最大の香水情報サイト、Fragranticaで名前を一般募集した結果、SplendidとIrisをかけ合わせた造語、Splendirisに決まりました。英語ネイティヴでなくても、その語呂の良さ、掛け合わせの妙には関心し、とてもいい名前を付けてもらったと思います。
 
本年5月に発売された本作は、多くのレビューを見る限り、名前通りアイリスを主軸にしたストライクなパウダリー系なのかと思いきや、肌にのせてみると不思議に立ち上がってくるのが、肉感的なローズとジャスミンムスク。特にジャスミンサンバックのインドール香が鼻腔に届くほど生々しく、その上でうっすらと冷涼なアイリスを感じる程度で、公表されている香調から思い浮かぶ香りとかなり異なっていました。なぜ自分の肌ではこうも違って香るのかはわかりませんが、冷涼で凛としたアイリスが主張せず、むしろ吸いつくような美しい女性のしっとりした肌、肌から立ち上る体熱のゆらぎに、少しだけ情緒不安定な、一枚布の下は一糸まとわぬ生身の女性を感じます。粉物は苦手だけれどアイリスの風味が楽しめるフローラルをお探しの方にはお勧めですし、甘さは控えめなので、男性の方にも気負いなくお使いいただけると思います。
 
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ただ、EDP濃度のスプレンディリスは、私の肌ではあまり持続せず、7.5mlトラベルサイズを使い切る勢いで毎日使ってみたものの、つけて半日と持たず、この香りの本質に辿り着けていないもどかしさが残ります。むしろ相手に自分の本質を易々と掴み取られるほど、生半可なものは作っていない、という意味ではないでしょうか。付け心地の軽さは、ドゥシタの他作品中随一で、一昨年ご紹介した3点のパルファム、EDP2作よりも軽やかな仕上がりなので、ドゥシタ未踏で何か試してみたいけれど、ヴィンテージ香水ファンでもあるピサラさんが手掛ける、クラシック香水にも通じる圧倒されるほどの甘露な美しさというよりは、現代的な軽やかさから世界観に触れてみたい方にお試しいただきたい1本です。
 
それでは、順序が逆になりますが、昨年発売された二つの香りも合わせて紹介します。ふたつともスプレンディリスと同じEDP濃度で、持続、体感としてはこれも軽めの仕上がりになっています。
 

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Fleur de Lalita (2018)

-一度の接吻と腕(かいな)の愛で
全き美はできているのか
ならば なにも見えずとも良い
千々に離れしものを束ねられるのなら!-

        モントリー・ウマヴィジャニ

 

 

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全宇宙の聖母であり、三界(仏教で、衆生の輪廻を欲界・色界・無色界の3つに分割した世界)で最も美しい女性と称されるラリター女神(左)を賛じる花々を名に冠したフルール・ド・ラリター。ラリターは、その名を讃えるスートラ、ラリター・サハスラナーマムでヨガなどスピリチュアル系のお好きな方にはなじみ深い女神様だと思いますが、話が湾曲しそうなのでここでは割愛し、神様の名前なんだな程度に覚えておいてください。 
立ち上がりに青々としたガルバナムのバーストが拡がり、グリーンフローラル系の幕開けにも感じますが、このガルバナムは程なく消え、ユリを主軸にしたホワイトフローラルを基調とした、いかにも温かい国で咲く花々をブーケにしたような心地よさをしっかり体感できます。 ジャスミン、マグノリア、ユリ、イランイランなど、いずれも濃厚かつ強香で蠱惑する力の強い白い花、黄色い花ばかりを束ねていますが、そこまでの勾引性はなく「むわん…といい気持ち」でつけられるのでご安心を。
ドゥシタのフローラル系に共通するフローラルなベースは、熱帯に属するタイに生まれ育ったオーナー調香師、ピサラ・ウマヴィジャニのDNAが呼ぶもので、高温多湿でなければ叶わない一種独特のなまめかしさがあります。亜熱帯に住む日本人にとっても親和性が高いものですが、亜寒帯に位置するヨーロッパの人々からしたら、相当エキゾチックに感じるかもしれません。
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後半からは酸味が抜け、甘口のバニラムスクが肌にしっとりと残りますが、これもスプレンディリス同様軽めの仕上がりで、あまり長持ちはしませんが、消え入り方がとてもナチュラルで、好感が持てます。
一方で、勤務先に着けていった際、自分ではすっかり香りが飛んだと思っていた昼下がりに「いい香りですね」と同僚に声をかけられたため、つけた本人の体感よりも周りにいる方が芳香に気づく拡散力があるようなので、軽めといってもつけすぎにはご用心。ここ日本で「いい香りですね」と声を掛けられることは、時折香害への牽制を含む場合があるので、手放しには喜べないのが気の抜けない所ですが、ほめてくれた方はご自分も長年香りを愛用している女性なので、素直に嬉しかったです。

  

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Erawan (2018)

 

-どうして辿り着いたのか
秋の森を歩き続けた
黄昏時の田舎道
光に導かれ旅路をゆく
なんと素晴らしき時-

   モントリー・ウマヴィジャニ

 

 

冒頭で紹介した通り、ロシアでFIFI賞を受賞した本作が冠する名、エラワンとはヒンズー教の神様が乗る3つの頭を持つ巨象(下)のことで、バンコクの県境にはこの巨象がそびえたつ高層建築物が目印の美術館、エラワン・ミュージアムを含む歴史村的テーマパークもあり、タイの人にとってはなじみ深い存在です。

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ちなみにエラワンはヒンズー神の乗り物ですが、タイは上座部仏教国であり、250トンもある巨象の中は空洞で、中には大仏が祀られており、象が乗る建物の上階を極楽、下界を地獄に擬え、仏教の宇宙観を表現しているそうで、エラワン・ミュージアムは神仏融合のいいとこどりですね。

 
つけた瞬間、干し草の雲に顔から落ちたようなドライなハーバル感が炸裂するエラワンは、冷えたタバコとなめした革のような香りとともに、草木をちぎったような生のグリーンではなく、田舎育ちでなくてもどこな懐かしい、乾いた草の香りからじんわりと、雨上がりの桜葉のようなクマリン香が立ち上り、まろやかな甘さへと変わっていきます。この「タバコ&革&干し草、のちクマリン」という想定外な展開がグリーンフローラル系のジャンルとしてはかなり個性的で、古いたとえで申し訳ありませんが「アルプスの少女ハイジ」(日本アニメーション、1974)でハイジが寝ている屋根裏部屋のベッドが、干し草にシーツをかけたもので、放映当時あの干し草のベッドに猛烈にあこがれた思い出がありますが、その日を浴びてふんわり膨らんだ干し草の心地よさというか安心感が、このエラワンにもある気がします。
 
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グリーン系というと、ナチュラルでリラックス系というイメージ先行でいて、シャネル19番など完全に神経が立ち上がる戦闘服系ものが少なくないのですが、このエラワンは、ハーバルなグリーン風味はあくまで導入部分であって、主役は一幕開けてから登場する、オークモスでふっくらとした甘いクマリンやバニラ、お日様の香りにも似た優しさで、その展開の意外性も、最初から最後までリニアに香る香水が多い中、序破急の愉しみを知っているクラシック香水育ちのLPT読者としては「お楽しみの多い」作品といえましょう。
 
パルファム・ドゥシタ製品は、世界発送対応してくれる公式サイトで日本からも購入可能です。サンプルサイズの販売もありますが、送料が結構かかる(€21)ので、まず香りを試してからボトル購入したい、という方には、日本で唯一のドゥシタ公認サンプル提供ストア、ラルモワール・パルフュメェなら1mlからドゥシタのフルラインナップを試すことができるのでお勧めです。
 
おすすめ購入サイト(2019年6月現在)
 
Parfums Dusita official website : https://www.parfumsdusita.com/
 
資料・製品画像提供:Parfums Dusita PR, L'armoire Parfumée
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