La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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R.I.P. : Vero Kern (28.3.1940-18.12.2018)

https://www.instagram.com/p/BrlcpIpBOFA/

#veroprofumo #sayonara #domoarigato

独立系パフューマリーの巨頭であり、アンディ・タウアーと共に21世紀を代表するスイスの二傑調香師の片翼としてチューリッヒを拠点に活躍していたヴェロ・カーンが、2018年12月18日に亡くなりました。享年78歳。

54歳までスイスエアーなど一般企業で働いた後、退職金でアロマテラピーを学び、アロマセラピストとして独立。その後更なる展開として1998年には伝説の調香師、ジャン・カールの直弟子、モニーク・シュリンジャーが創設した調香学校Cinquième Sensで学び、ゲランやキャロンなどの古典に基づいた調香技術をマスターした後に自身のブランドであるヴェロ・プロフーモを2007年、67歳で立ち上げました。販売はイタリアの大手メゾン系代理店、カンポマルツィーオ70に委託、生前6つの香りを世に送り出しました。

ヴェロ・プロフーモ 全作品

Kiki (2007) 

Onda (2008)

Rubj (2008)

Mito (2012)

Rosy (2014)

※いずれもEDP, P, Voile d'Extrait (基材を変えて香り立ちを軽やかにしたもの)の3濃度

Naja(2017) 1濃度

ヴェロ・カーン及びヴェロ・プロフーモについては、これから多くの方が追悼文や詳細なレトロスペクティヴを発表するはずですので、LPTとしては簡解にとどめますが、ヴェロ・プロフーモの香りはいずれも古典に基づいたアヴァンギャルドな作風で、数年前、ルビーのサンプルを入手し、家で床に座って腕にワンプッシュした瞬間、数メートル先に立っていたジェントルマンが爆香で吹っ飛んだのを、昨日の事の様に覚えています。私自身、心地よさとか美しさという普遍性から線を引いたその作風に身構えていた事は確かで「いつかLPTで『ババアの香水』として全点踏破特集をしたい」と願いながらも、遂に生前ご紹介する事ができなかったのが悔やまれます。残念ながら辞世の作品となった最新作、ナジャはコブラをテーマにした個性的なタバコノートの香りで、最後まで「楽な香りはひとつも作らなかった」というのが総体的な印象です。

その作品もさることながら、ヴェロ・カーンご本人が何よりもクールで、ターバンにジャンプスーツ、ジャージ上下に総白髪、ご自身の孫子ほど年の離れたファン達に囲まれながら、取扱店や見本市で豪快に笑いながら気さくにポーズをとっている姿、なすべきことはなし、勤めあげた上で50代、60代で果敢に自分の進む道を切り開いていった生き様に、一般会社員として企業に勤めながら、一見社会人生活とは何の関係もない香水の世界に強く生きる私に、ヴェロ・カーンは「なすべきことはなせ」「何かを始めることに遅すぎる事はない」このふたつの訓戒を、常に豪快な笑顔で語り続け、励ましてくれていた気がします。

ヴェロさん、安らかにお休みください。冥途でお会いできるのを楽しみにしています。

 

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