La Parfumerie Tanu

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KIKI extrait de parfum (2007)

立ち上がり:シトラス系だけど重い・・・これ女性用ですよね。この重さだとオッサン用でもありではないかと。
昼:ラベンダーが強くなってきました。
15時位:昼と印象変わらず。持ちがかなりいいですね。少しつけすぎたような気もした為、まだ強くて私にはTOO MUCHな感じも
夕方:ムスク系に収束していくか。この時間でもそこそこ強い。荷が重いな。
ポラロイドに映ったのは:名前から思い出すのは当然フランスのKIKI(Alice Ernestine Prin)なのですが、こんな重い感じの人だったのか?まあ人生は波乱万丈みたいだし。
警官への暴力沙汰、占領下のフランスで反ナチ運動のビラ配って田舎へ逃走。戦後は麻薬密売で逮捕・・・と。そういう感じよりはもっと気怠い感じの香りですが。
 
Tanu’s Tip : 

2018年末に亡くなり、早くも本年3回期を迎えるチューリッヒのインディ・ブランド、ヴェロ・プロフーモのオーナー調香師だった故ヴェロ・カーン。ご逝去時、サンプルを嗅いだだけでボトルの一つも手にする機会がなく、憧れだけで作品に追いつけなかった事が悔やまれてなりませんでした。その後、昨春リアンヌ・ティオさんがかつて販売していたヴェロ品の整理で放出してくれた1本が、私にとって初めてのヴェロ・プロフーモのフルボトルであり、デビュー作でもあるキキでした。

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ヴェロ・カーン(1940-2018)享年78歳
ヴェロが亡くなり、キキを手にした私は、今一度彼女の魅力がいっぱい詰まった公式サイトを見ようとネットで検索したら、アカウントごと消失していました。ヴェロ・プロフーモの取扱店も軒並み完売しており、後追いもできません。一度ビジネスとなったなら、たとえオーナー調香師が亡くなろうとブランドとして存続させる会社も多い中、自分は充分生きたから、この世に未練はないのだ、とでも言わんばかりの消え方に、ババアらしいな…と、改めて生前中に追いつけなかった己の未熟さを恥じました。そうして今、ここに初めて「ババアの香水」のレビューを、しかもジェントルマンの力を借りて行うわけですが、この香りのモデルは、言わずと知れた、1920年代パリはモンパルナスの徒花であり、当時の芸術家のミューズだった、キキ・ド・モンパルナス。

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キキ・ド・モンパルナス。左上よりキース・ヴァン・ドンゲン画、残りはマン・レイ撮影
私生児に生まれ、極貧の中パリに出て、まだ女性が真に経済的自立をするのが難しい時代、絶世の美貌というよりは、危うい妖気で男を吸い込み糧とするブラックホールのような「まずい女」だったようで、キキといえば写真家マン・レイのモデルとして最も名を上げましたが、フランス国内外の画家がこぞって彼女のポートレイトを描き残しており、いつでもどこでも脱ぎっぷりの良い、絵で見るキキは無垢な少女にも、汚いあばずれにも、母の如き聖女にも見え、見る者によって如何様にも映る、万華鏡のような魅力があったのは確かでしょう。キキが一番輝いていたのは、パリのナイトクラブ、ル・ジョッケーで歌手デビューした頃で、30を過ぎる前には落ちぶれ、かろうじて戦禍を免れるも、麻薬の密売で逮捕され、裁判所に出頭する頃には、かつての美貌は失われ、全身が醜く浮腫み、明らかに心身を冒されているのが見てわかる哀れな末期だった…と、自伝の補足に綴られているのを読んだ事があります。

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キキ エクストレ・ド・パルファム 15ml
それではこのヴェロ作のキキは、キキのどの部分が描かれているのか?力強く健気に生きる女性、というよりは、どこか男の香りが混じっている、女の肌の匂い…香りとしては、濃厚なラベンダーに、これまた濃厚なオポポナックスとアンバー。結果、物凄くおっさん、参るの〜的な男の香りになっており、凶暴なジッキーみたいな力強さを感じます。パルファム濃度なので、ミドル以降が戦前のクラシック香水のような、どこかカンファー香の残るアンバームスクで、ようやく女の表情が出てくるけど、この女、きっとさっきまでおっさんと仲良くしてたんだろうな、という終わり方です。調香師になる前はアロマテラビーの世界で活躍していただけに、天然ラベンダーの暴力性を武器にして、あえてちんまり綺麗にまとめていない、ババアの目論見が見え隠れしますが、一方でヴィンテージ香水のボトルコレクションに紛れていてもおかしくない古風な香りだちは、戦前クラシックのお好きな方に是非お試しいただきたいと思います。
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