La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Rallet 1843, the first 4 fragrances

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47 Vyastkaya st.
再処方:デルフィーヌ・ルボー(代表作:フェンディの近作やグラム・ローズ、バレリーナNo.1などパルファム・ロジーヌの近作、ベノイスト・ラポーザとの共作多し)
トップノート:ベルガモット、マンダリン、バイオレットリーフ、ブラックカラント
ミドルノート;ジャスミン、リリー、ローズ、マグノリア
ベースノート:ウード、パチュリ、ベンゾイン、シダー、バーチ、ピーチ、ハニー、ディアムスク、バニラ

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かつてラレー社があった、モスクワ市内のストリート名を冠した、4作中唯一その名に歴史を背負った香り。ヨーロッパの老舗ブランドストーリーが大好きなアラブの富裕層が喜びそうな、ウードもちょっぴり入っていますが、他のベースに紛れてしまい言われなければわからない程度なので「またウー度か」といきり勃つ心配は無用です。デパート香水とメゾンフレグランスのざっくりとした差別化を絶妙なさじ加減で取っ払って角を丸めたような、ライトなムスキーフローラル。これを地図に見立てたら、目標となるランドマークが何もなくてあの時代のブヤストカヤ通り47番地には何度行っても辿り着けない、見た目重視でオシャレにしすぎたわかりづらいショップ地図みたいです。

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Spectre Noir
再処方:ベノイスト・ラポーザ(代表作:フェンディの近作やバレリーナ№2などパルファム・ロジーヌの近作、デルフィーヌ・ルボーとの共作多し)
トップノート:ピンクベリー、レモン、ベルガモット、マンダリン、グレープフルーツ
ミドルノート;タラゴン、エレミ、クローブ、セージ
ベースノート:シダー、パチュリ、オークモス、ベンゾイン、ベチバー、レザーアコード
 
ビターなシトラスが弾けたあとは特に印象的な展開もなく、すんなりメンズよりのハーバルレザーシプレ(ただし革は部分使い程度)に進み、甘さが出る前に香りが失せるため、どこかに引き込まれる様な黒いスペクトル感はゼロ。 持続もオードトワレ並みで、メンズ系にありがちなラストに引きずる甘さがなくドライな香りなので、つけていて香り酔いしないという点では香水慣れしていない男性や女性向けサマーフレグランスにおすすめ。しかし香水初心者にわざわざこの1本、と押す程の決め手がないのが残念。

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Aqua Mystique
再処方:コリーヌ・サシェン(代表作:モンブラン、オーディンなどの作品)
トップノート:ビターオレンジ、ベルガモット、レモン、マンダリン、ネロリ、カルダモン
ミドルノート;ペッパー、エレミ、ミントリーブ、クリアジャスミン、バジル
ベースノート;ムスク、パチュリ、ホワイトウッド
 
立ち上がりに結構がつんとゲラン・オーインペリアル様のクラシックなオーデコロンの風情を感じるものの、すぐに一昔前にデパートで溢れていたライトなフルーティフローラルに落ち着き、これまた長持ちしない汎用型モダンフレグランス。新生ラレーの香りはおしなべて印象が薄く名前負けしており、ネーミングにセンスを感じられません。この香りで神秘的な水的要素を表現しているとしたら、もっと静謐で深淵な世界感を香りで表現したい場合、持ってこれるビッグワードが見つからない。いっそ番号とか、マイナーな地名でも持ってきた方が粋な気がします。

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Flou Artistique
再処方:デルフィーヌ・ジェルク(代表作:オリジナル版ラ・プティット・ローブ・ノアール(2009)、ロム・イデアルEDPなどティエリー・ワッサーの共同調香師)
トップノート:ホワイトピーチ、ジャスミン・ペタル、フォンダン・アーモンド
ミドルノート:バイオレットリーフ、フィレンツェ産アイリス、イランイラン
ベースノート:スティラックス、サンダルウッド、パチュリ、ホワイトムスク
 
新生ラレー4種のうち、ありがちだがまずまずだったのがこれ。フィレンツェ産かどうかは別として高級そうなアイリス、やりたいんだな…という意気込みは受け止めました。メゾンフレグランスはフローラルならアイリスをやりたがる傾向があり、冷涼な粉物感が暑い時期のリフレッシュメントとしても有効ですが、すぐそこに「柔軟剤でもここまでできる」という波が迫っていますので、20世紀の終わりから境界線が危うくなって20年、ファインフレグランスとトイレタリーフレグランスの彼岸はもうない、とっくにないと言っても過言ではない模範解答のような出来栄えに「おぼろげな芸術性」という大風呂敷なネーミングは、少々荷が重いと思います。
 

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ラレーといえば貞奴香水。トリビュートものと言い切って、あえて新作でスタートしたラレーですが「それじゃ復刻した意味がない」と突っ込まれたのか、ついに2016年、サダヤッコを出してきました。しかし販売はあるようですが公式ウェブサイトに間に合ってない詰めの弱さに、この復刻ブランドそのものを見る気がします。色々な意味で、歴史的意味の大きいブランドなだけに、色々な部分が残念なラレー。しかし、ダメ出しするのは新生貞奴香水を嗅いでからにしたいものです。
 
画像提供:レティシア・ベナディ氏(エンパイア・オブ・センツ、パルファム・モンタナ担当)
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