La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Aoud (2010)

もとは中東の人しか好まなかったウードの香りをトム・フォードがウード・ウッド(2007、EDP50ml US$220、100ml US$300)で湾岸諸国へ逆輸入、実は欧米ブランドが大好きなアラブ人にバカウケ、それを見ていた中東のメーカーがこぞってインスパイア系香油でアンサーバック。中でもトム・ウード(スラッティ製、香油30ml US$18、100ml US$52)は本家を凌ぐ大ブレイクぶりで、本物と1桁価格が違って香りはそこそこだったら、普段使いはインスパイア系で充分。それを見たそこら中のファッションブランドが中東専売、時々世界対応でウードのタケノコと言わんばかりになんちゃってウード香水をばらまき、一方欧米では俺ってわかってる系香水マニアから火が点き、そいつらにウード売りたいメゾンフレグランスブランドが一斉にウードな新作をラインナップ、追いつけ追い越せと新興ブランドもボコボコ勃興、またそのインスパイア系香油が時をおかず登場…とフレグランス界のウードを取り巻く環境は、春秋時代を通り越し戦国時代へと突入しています。その中で「ウード、イケる。もっと高いの、イケる」と贅沢ビジネスの血が湧いたロジャ氏、案外後発ながらもウード・ウッドに遅れること3年、初出3部作の第2弾として、ハロッズ・オートパフューマリーに来店するセレブアラブに照準を合わせ、ここでもヨーロッパの格調高いブランド物大好きなセレブアラブの財布の紐を、ぱあぁぁぁ〜っと全開させることに成功、その後の中東快進撃は、2013年のインタビューにも詳しく語られています。

 
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ロジャ作・オリジナル版ウード。

 

制作2年、アラブの人に「これは私たちの匂いだね」と喜ばれ、感無量だったというロジャ作ウード。現在は基本ウード(ウード、アンバーウード、ムスクウード)に拠点限定版6種からなる9種類のウード・バリエーションにアブソリュ・プレシュー(プレミアム版)3種、クリスタル(ウード香料はもともと色が濃く衣類のシミになりやすいので、正装として白装束のトーブを着るアラブ男性のために特別な工程を経て、香りはそのままに色素だけ無色透明化した精製香料を使用した)3種、トラベルサイズにキャンドルにルームフレグランス…と、ウード系だけで別ブランドが立ち上げられそうな充実のラインナップですが、この処女作は現在もロジャ作ウードのグリニッジ標準時として君臨しています。ただの「ウード」とシンプルなネーミングですが、中東メーカーの香油によくあるカンボジア産など産地限定の単一香料ではなく、伝統のアラビアン・フォーメーションに基づいたれっきとしたムハラット(ブレンド)で、アラブ5大香料であるウード・ムスク・アンバー・サフラン・ローズは全員集合、中でもこれは「ローズ・ウード」とも言うべき非常にロージーなフローラル感の強い、透明感のあるフェミニンな香りに仕上がっています。残り香はスキンムスクのような肌香となり、消え入り方が上品です。裏を返せばパルファム濃度の割には奥行と持続が弱いということになりますが、2014年、本邦初のアラビアン・フレグランス大特集を行うべく、力の限り中東香を松竹梅鶴亀狸嗅ぎまくった店主タヌが、つやつやとアラブ焼けした黒い鼻で嗅いだ第一印象は「よ、弱い…」だったのが、弱いのではなく、つけたそばから肌の一部に溶け込むような絶妙なさじ加減のブレンドが、良い意味で主張せず「香る肌」を作るからであると実際何度かつけてみて気づきました。香水というよりは「アラブの街に流れる、ウードの香り漂う風」を再現しているかのようで、時に相手を押し倒すかのようなど迫力の香りを出してくるロジャ氏にしては控え目なので、費用対効果を香りの強さではかる向きには物足りないかもしれませんんが、ある意味ウードが初めての方でもローズ勝ちであたりが柔らかいのでつけやすく、中東香にありがちな甘さが苦手な方にもお奨めです。この柔らかさが中東人も納得ながら、西欧文化圏のユーザーにもアクセスの余地をちゃんと残してある「お上手」な手練の仕事と言えましょう。まあ、ボトルもお約束のダイヤモンドボカンですし、「人って、どこまで贅沢できるんだろう…」との自らに問いながら、ひと吹きひと吹き、ラグジュアリーなアラブの風をお楽しみ下さい。30ml £345、100ml £495、基本ウード3種セット各30mlx1が£850とあります。 ここで日本円に直してしまうと、それをおかずにまたひと山書かずにはいられなくなるので、円換算はご自分でどうぞ。個人的には、お財布が「ちょっと違うけど、LPTのアラブ特集に載ってた、アジマルのムハラット EDPにしとけばー」と私の耳元で囁いています。
 
ウー度 ★★★☆☆

ちなみに、2015年11月よりロジャ・パルファムの公式オンラインサイトは日本発送を再開しており、送料が一律£65と送料だけで香水1本買えそうですが、フルボトルを1本買うと7.5mlの選べるディスカバー・サイズが1本おまけ、とちょっとサービスよくなって(その分価格も上がっているが)購入可能となりました。
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