本年は一昨年、惜しくも86歳の大往生でこの世を去った巨匠、ギィ・ロベール(1926-2012)の3回忌にあたるという事で、ロベール師ゆかりの香りを紹介して行きたいと思います。
The Pink Room Parfum No.1
ロンドン時代のザ・ピンク・ルーム。夢見がちな女の子の頭の中がそのままお店になったような。現在は閉店、かわりにお店のイメージそのままのオンラインショップを展開中
ロンドン出身で現在はニューヨーク在住のデザイナー、セーラ・バートン=キングがかつてロンドンで開いていた完全予約制ブティック、ザ・ピンク・ルーム初の香りとして、フランス産香料にこだわり、調香を御大・ロベール師に「マルセル・プルーストが彼のおばさんと共に庭でお茶をしている午後4時」というイメージで依頼したのが、パルファム・ナンバーワンです。
公式調香作品としてはロベール師最後の作品となるパルファム・ナンバーワンは、ご自身のオンラインショップ、そしてラッキーセント(米)、ファースト・イン・フレグランス(独)等、ハイエンド・ショップでのみ展開しており、ザ・ピンク・ルームのシグニチャー・フレグランスとして、ノスタルジックなロココ・ピンクとゴールドをモチーフにオードパルファム、ダスティングパウダー、ボディクリーム、キャンドルと、ロマンティック・アイテム満載のラインナップとなっています。
香りとしては、あえて「小物感」を前面に出したのか、天然香料のみで作成された直球どフランス・フローラルブーケで、香料同士の複雑な絡み合いがなく、全体的にざっくりしたハンドメイド香水風の仕上がりとなっていて、これは御大73歳の大団円としては驚くほどシンプルです。ベルガモットやライムなど果皮のシャープさが効いたトップに、すぐさまバイオレット、スズラン、ジャスミンの王道フローラルが「今ここで混ぜました」風に香り、その後じんわり、でも微妙にまろやかではないフローラルなバニラムスクに着地して、あっさり消えずに結構長々と香るところは師匠お上手、といった所です。
絵画で行ったら水彩画、それも黒や茶色を使わない、これから日が暮れる、沈み始めの陽光がもたらす逆光の中に香る庭園の寛ぎ、というイメージだとしたら完全に一致しています。
ロベール先生と店主、バートン=キングさん
これはもしメインストリームの市場に出たら、ボロっかすに言われちゃうかな…「おじいちゃんに、作って貰っちゃった〜」的なご愛嬌を、巨匠辞世の句と受け容れる懐がつける側にあるかどうかが、この香りを評価する最大のポイントになると思いますが、シンプルでレトロ(クラシックというよりは)な「フランス香水」を、名もなき一個人のブティックとそのオーナー婦人の為に作った、名声を脇に置いた「こころの作品」を残して調香師人生を締め括られたのは、潔しと染み入ります。
website : http://www.thepinkroom.co/index.html
写真提供、補足:セーラ・バートン=キングさん(ザ・ピンク・ルーム)