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Dries Van Noten par Frederic Malle (2013)

Dries Van Noten par Frederic Malle (2013)

フレデリック・マルは2013年より、これまでの調香師一香入魂ものから、マル氏のお眼鏡に叶ったデザイナーやブランドを香りで解釈し、調香師に翻訳させた三位一体型のシリーズ、’XXX by Frederic Malle'シリーズをスタートさせました。その第一弾、ドリスヴァンノッテン・パー・フレデリック・マルです。

フレマル創業10年の節目に、マル氏が寝ずに考えた(笑)このシリーズ、既出のものと同じくこちらも制作期間18カ月と練り練りに練って登場。公式ウェブサイトでは長ーいうんちくと紹介ビデオまであります。調香はアバクロやカルバン・クラインなどのアパレル系や、ビヨンセなどのセレブ香水を担当した売れっ子調香師、ブルーノ・ジョヴァノヴィックで、「アントワープの6人」(て何ですか)の一人であるベルギー人デザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン(オランダ語の正しい発音は’ドリース・ファン・ノーテン’)が生み出すフォークロアと現代美術が融合したデザインを、希少なマイソール産サンダルウッドを主軸に、ベルギーワッフルなどフランドルのペストリー菓子を髣髴とする暖かく懐かしい香りを盛り込んで、素材感を活かした極力シンプルな処方で最大限ノッテンの魅力を表現した…と、今回も肩で息する「うんちくを嗅ぐ」こと猛々しいのですが、香りとしては、まあ「その通り」な、シンプルで上質なサンダルウッドの香りに、バニラや砂糖菓子の温かさにバルサム様の奥行きが加わった、至ってニュートラルでつけやすい、まろやかな「白檀香」となっています。

そもそもこの香り、「日中つけると、クリーミーでニュートラルなサンダルウッドの香りなのに、夜つけると物凄く益荒男ぶりな男臭い白檀香に豹変して、とてもつけられないので試して欲しい」と、まるで美女を連れ込んだら実は男で、自分が掘られたみたいな報告があったので、数日に分けて試香してみたのが出会いでした。相対的には男にも女にも振れない、ユニセックスというよりは無性的な印象ですが、時折、特に人いきれの中や汗をかいた時など、突如ぶわっとジャスミンとムスクが立ち上がり、汗腺がじっとり濡れるようなセクシー成仏系のムラムラ香を発するのには驚きました。そういうフィーバーポイント的瞬間は総じてあまり体感しない上、つけていてあまり自分では香ってこない程柔らかい(弱い)香りなのに、一番驚いたのは、勤務先でつけていて、ごく普通の女子社員数名に取り囲まれ「今日は、えええ~香りや〜」と、皆が口々に絶賛した事で、今様の香水らしく、薄くて軽くて拡散力が強いのか、つけた本人ではなく周囲の人、しかも特段香水好きでもない一般人が相次いでセクシー成仏していたようです。案外、汗ばむ季節につけると破壊力が増していい気分かもしれません。シンプルでいい香りなので、温かみのある上質なサンダルウッド香水をお探しの方にはブランドネーム関係なしにお奨めの1本です。

閑話休題、今回のシリーズは、ボトルデザインは既出のものと金型が一緒ですが、ラベルが白く世界を住み分けしています。いつも思うのですが、フレデリック・マルのデザインは、香粧品というより「できる男が選ぶカッコいい舶来文房具の機能性自慢」という感じで、まさに「フレデリック丸善、売り場は丸の内本店4階」といったところでしょうか。バウハウスの影響が色濃いウェブサイトを見ていても、ロットリングの赤と黒のペンを思いださずにはいられません。その辺が、うんちくと相まって、客に対して「わからない奴の方が間違っている」という、事前に攻略本やパンフレットを熟読しないと、作り手の世界観を一方的に晒されて、何が何だかわからないSF映画の疎外感にも通じていると思います。いい作品もあるのに、一般人としては残念です。伊勢丹にて、50mlのみ21,000円(2014年3月現在、税込)。

白ラベル。丸善では売っていません

画像提供:HLグループ

 

 

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