La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

English Fern (1890) / Blenheim Bouquet (1902)

f:id:Tanu_LPT:20210701213307p:plain

 

English Fern (1890)

立ち上がり:これも床屋系の香りがします、が、その中にえも言われぬ不思議な香りが混ざっている。柑橘系のような…ややケミカルなような…かなり個性的な香りです

昼:つけ始めの不思議な感じはだいぶ収まり、グリーン系の香りになってきました。FERN→シダの香りかといえばそういう感じもしますがシダを嗅いだことがほとんど無いので確証は持てず

15時位:モスの感じも出てきました。後半スパイシーな香りも混ざりかなり複雑な絡みを見せます。あなどれん。

夕方:大分香りは弱まりました、が、初夏にはぴったりな香り*だと思います。盛夏には上品で負けそうですけど。

ポラロイドに映ったのは:半袖シャツまでは似合うけど、短パン姿まで行くと突然「おにぎりが好きなんだな」と言い出しそうな雰囲気に変わる微妙な青年。

Blenheim Bouquet (1902)

立ち上がり:シトラス系のさわやかな香り。初夏のこの季節にピッタリ*だが微妙に酢っぽい匂いも混じってるような。

昼:酢っぽい匂いはすぐ消えて爽やかな感じのみ残った。良い感じですけど減衰が早いような気も

15時位:ウッディな香りが出てきました。時間的にも落ち着いて良い感じですが大分弱い。

夕方:メンズ系香水あるあるで微かなムスク系残香残してフェイドアウト。良いんだけどなーあと1歩なんか食い足りない感じが惜しまれる。

ポラロイドに映ったのは:若いころ溌剌としてたが30代半ばで加齢臭を漂わせ始め落ち着いてしまった男、糖尿病境界線をさまよう

*ジェントルマンには4月の終わりごろにポラロイドを撮ってもらいました

 

Tanu’sTip : 

前回のフローリス・スペシャル№127と同じ年に登場した、床屋出身の老舗英国パフューマリー、ペンハリガン。フローリスに遅れる事140年、1870年にウィリアム・ペンハリガンが創業し、現在のワラントは本年4月、99歳にて逝去したエジンバラ公フィリップとその息子、チャールズ皇太子より、双方とも「化粧用品商」として賜っています。グロスミス特集でも紹介しましたが、ロイヤル・ワラントは授けた王族が逝去しても、数年間はワラント章を使用してもよい事になっているのでしばらくは問題ないですが、今後チャールズ皇太子の他にどなたかがワラントを授けるか、5-6年経ったら思い出してペンハリガン商品を見てみたいと思います。

ペンハリガンは、1号店をウィリアムが働いていた、フローリスと同じジャーミン通りにあるトルコ風呂(ハマム)の隣に構え、1941年のロンドン空襲で灰燼と化したものの、2号店が無傷で残ったため戦後営業継続するも、1950年代半ばには同業の床屋&グルーミングショップ、ジオ・F・トランパーに買収され、トランパーはカーゾン通りの本店(現存)の地下室で細々と生産を続けたものの、次第にペンハリガン事業が左前になり隠滅寸前のところ、作家のシーラ・ピックルスが、彼女の師匠でイタリアの映画監督フランコ・ゼッフィレッリの援助により1975年に買収、その後23年間ペンハリガンのCEOを務めました。ちなみにゼッフィレッリはルキノ・ヴィスコンティの制作スタッフ出身で、ヴィスコンティがペンハリガンのハマン・ブーケ(1872、廃番)を愛用していた事からブランド救済を決めピックルスに手を貸したそうですが、ゼッフィレッリはゲイ、ヴィスコンティはバイセクシャルだったので、どのへんでハマン・ブーケが好きになったかは妄想特急ですが、ピックルスは花言葉の本を書いてベストセラー作家になった方で、1980年代にペンハリガンの本(下)も出版するなど、余程惚れ込んでの買収だったようですが、2015年にはスペインの大手化粧品メーカー、プッチの手に渡ってしまい、商売は情熱だけでは続かないという教訓も残しています。 

子供時代、明治のチェルシーで貰えたフェアリーの本を思い出しました

話戻って、ペンハリガンが現在の故フィリップ殿下のワラントを賜ったのは1956年で、経営的にはトランパーが地下製造していたグズグズの時代なのに、何がきっかけだったのか、鬼籍の殿下に聞いてみたいものです。シーラ・ピックルスがCEOに就任後、商品の抜本的見直しが入り、地下製造から脱し当時新進気鋭の香料会社、CPL Aromaに製造委託、同社オーナー調香師のマイケル・ピックサルが再処方しました。ペンハリガンにはそれまであまりなかったフローラル系作品が次々登場したのもピックルスの采配によるもので、70年代後半から80年代にかけて、リリーオブザバレー(1976)やブルーベル(1978)などフローラル系ばかり登場しているのはそのためです。

f:id:Tanu_LPT:20210624185823j:plain

イングリシュ・ファーン EDT 100ml 日本未発売、廃番

1890年に登場したイングリシュ・ファーンは、世界で初めてこの世に存在しない素材、シダ(ファーン)の香りをテーマに作られ、その後「フジェール系」という一ジャンルを築いた、ウビガンのフジェール・ロワイヤル(1882)から明らかに題材を拝借したであろう作品で、実際このシダというのは、21世紀の初めくらいまでは、欧米のトイレタリー製品のラインナップにだいたいあって、ロジェ・ガレをはじめとする香水石鹸から、ブーツなどのケミスト(英国薬局)やスーパーマーケットのプライベートブランド製品で、何とかファーンという香りのシリーズは、結構見かけました。最近ではとんとお目にかからないのは、フジェール系という香調が既に時流から外れているからかもしれませんが、ラベンダー+クマリン+オークモス=ジオッサン、なので、シャネル5番を鼻祖とするフローラル・アルデヒド系が100年前はゲームチェンジャーだったのが、今では「おばあちゃんの鏡台」と言われてしまう(すでにその表現も古いが)昨今、香調にも寿命があるのかな、と思います。創業者の息子で2代目オーナー調香師、ウォルター・ペンハリガンが調香し、1970年代後半にマイケル・ピックサルが再処方したイングリッシュ・ファーンもかなりのジオッサン系で、立ち上がりにガーッとラベンダーとゼラニウムがスパークしたら、その後はフジェールの王道から1ミリもズレない、もわ~っとしたオッサン香が炸裂、ムエットでは更に王道のフジェールが高らかに香ります。ラストはじんわり甘いクマリン香が肌に残ります。これは女性には断じておすすめできないし、ジェントルマンのポラロイドには山下清と思しきもっさりした青年がおにぎりと共に映り込んでしまいました。

f:id:Tanu_LPT:20210701213956j:plain
f:id:Tanu_LPT:20210701213945j:plain
山下清と言えば芦屋雁之助。ぼぼぼ僕はおおおおにぎりがすす好きなんだな

f:id:Tanu_LPT:20210701165716j:plain

さてこのイングリシュ・ファーン、香りはジオッサンでもパッケージが鮮やかなグリーンで、とてもレトロで素敵なのですが、去年の今頃は適当にディスカウンターにドンブラ流れていたのに、年明けからぱったり見かけなくなり、もしや、と思いペンハリガンに問い合わせたところ2020年に廃番となったそうで、広報の方も「営業、製造、マーケティング、財務、購買部門各担当の討議の結果、廃番が決まりました。今後の再発は諸事情により保証いたしかねます」と、そこまで念入りに廃番にした部門を連ねてくれなくてもいいよって位「ないないないない!もうないから!!」ってな回答をして、あっちいけしっしっ、と逃げ切るかと思いきや、そこは広報、ちゃんと後続のおすすめをふたつ教えてくれました。

 However, we can recommend the best alternatives:
 Blenheim Bouquet: Pine, lemon and lime.
 Savoy Steam: Eucalyptus, Rosemary, Rose and incense

(ペンハリガン広報、Ellieさんより)

f:id:Tanu_LPT:20210624185830j:plain

ブレナム・ブーケ EDT 100ml

ベスト・オルタナティヴったって、さっぱり香調がかぶってないですよね…でもまあ、気を取り直して、古い方のブレナム・ブーケを試してみました。オックスフォードのブレナム宮殿を居に構えるマールバラ公(英首相ウィンストン・チャーチルもマールバラ公の血筋です)の為に作られたブレナム・ブーケも、イングリシュ・ファーンと同じウォルター・ペンハリガンが手掛けていますが、ピックルス買収時に再処方されず、オリジナル処方のまま引き継がれました。香りとしては、クラシックだけれどイングリシュ・ファーンよりは大分時代感が少ない、清潔なパインニードルとレモンライムが爽やかに香る、身持ちの良いシトラスウッディで、広報の方が言う通りの香調でした。肌になじむと、少しだけ漢が見える、しっとりしたウッディムスクになり、これは使いやすいなあと素直に思いました。ブレナム・ブーケは今普通に使っても違和感がないし、実際ペンハリガンのクラシックとしていまだに現役で、日本でも売っています。5部門満場一致で廃番になる香りとの差は、企業が売りつなぐ商材に欠かせない「未来があるか」。確かに私の肌の上でも未来が見えるのはブレナム・ブーケに軍配が上がりますが、30代半ばで加齢臭を漂わせるような一面が感じられるのは、ちょっとこのパインニードルが、古き良きパイン系消毒剤を彷彿として郷愁を誘うからでしょうか。結構この消毒薬臭さが癖になりますけどね。2014年「香水石鹸の世界」で紹介したペアーズ石鹸(1789)に通じるものもあります。

f:id:Tanu_LPT:20210624185812j:plain
f:id:Tanu_LPT:20210624185806j:plain
個人的には、ペンハリガンのボトルとほぼ同サイズのすっきり外箱が大好きです。なぜかって?場所を取らないから!

ジェントルマンも平生の暴飲暴食が祟り、糖尿病境界線をさまようどころか、年始には血糖値が入院を要するほど上昇、投薬に併せ厳しい食事制限と減量しか生きる道はないと医師から死亡宣告を受けてより、なんと数か月で22㎏の減量に成功(うち2/3は糖尿病の症状による減量)。ギターで言えばレスポール4本分の重さが身体から取れたのと同じです。非常に乱暴な喩えをすれば、発病前のジェントルマンはイングリシュ・ファーン、現在のジェントルマンはブレナム・ブーケ。
プッチのチームも、様々な角度からイングリシュ・ファーンに引導を渡す決意をしたようですが、まあ、平たく言えば、時流にあわず売れなくなったから、ただそれだけだと思いますけどね。

 

おまけクイズです!
2015年にプッチが買収したペンハリガンですが、プッチは同年もう一社買収しています。

①プッチが買収したブランドと、
ジェントルマンコーナーで紹介しているそのブランドの作品を3つ
挙げてください。

🎁全問正解の方には、今回の「憂国のジェントルマン」で紹介した3作のLPTサンプルセット(Special №127 / English Fern / Blenheim Bouquet 各1.5ml)を先着5名様にプレゼントいたします。ブログのコメント欄(応募コメントはブログ上では公開いたしませんので、ご安心ください)より、奮ってご応募ください!
〆切:2021年7月10日(金)

※定員に達しましたので、終了いたしました。ご応募ありがとうございました。


※当選は景品の発送をもって発表に代えさせていただきます。
※当選者には、LPTより個別に連絡いたしますので、コメント時メールアドレスのご記入をお願いいたします。メールアドレスのご記入がないと、発送先の確認メールを送付できないので、残念ですが正解でも対象外とさせていただきます。(クイズ解答時にメールアドレスの記載を忘れた場合は、別途コメント欄にてご連絡いただければ大丈夫です👌)

 ※プレゼントのセットは、LPT direct/A Gentleman Takes Polaroids sampler(new dimension)でも販売している為、今回のおまけクイズは先着枠終了後の抽選枠はありません。よろしくお願いいたします。

 

contact to LPT