La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

無断転載禁止

Swiss Army Rock (2015, now renamed as Rock)

立ち上がり:甘い…懐かしいガムボールの匂いだ。それもなんか人工的な果汁フレーバーの奴、なんだっけこれ…チェリーコーク(orドクターペッパー)みたいでもある
 
昼:香りの印象も強さもあまり変わっていかない。
 
15時位:徐々にウッド系の香りが出てきて落ち着いてきた。正直、朝少し量多めにつけたんで電車の中やエレベーターなんかで香り強過ぎないかとビクビクしておりました。
 
夕方:レザー系の余韻のこしてます。全体的に噎せる感じの香り・・・私は相応しくないかな。パッケージは北欧メタルバンドみたいで恰好良いけど。
 
ポラロイドに映ったのは:サラサラ金髪長髪、身長190以上、しかし…やることと言えば教会に放火とかするイケメンデスメタルバンドメンバー。パートはベースだ
 
Tanu's tip :
 
前回のSDGs香水に続き本日ご紹介するアフォーダブル香水、ヴィクトリノックス・スイスアーミー・ロックも破竹の調香師、カンタン・ビシュが手掛けています。昨年11月のカンタン特集では、カンタン自薦ではなかったので香水自体は登場しませんでしたが、ブランドの制作インタビューが大変面白かったので、インタビューのリンクだけご紹介しておいたのですが、その後どうしても気になって、国際運賃の精神的希釈要員として、海外通販でついで買いしておきました。
 
アーミーナイフで有名なビクトリノックスは、帽子職人の四男坊だったカール・エルズナー(1860-1918)が、職人の奉公修行を終えた1884年、24歳で実母ヴィクトリアと共に立ち上げた刃物及び手術器具工場を母体とするスイスの刃物メーカーで、7年後の1891年には主業の他にスイス陸軍向けナイフ工場を操業し、1897年にはスイスアーミーナイフとして特許取得、商売敵ゾーリンゲンの安売りや、同じくスイス陸軍にナイフを卸していたウェンガー社との競合に長年苦しみながらも、2005年には目の上のたんこぶだったウェンガーを買収、現在は4代目カール・エルズナーJr.が社長兼CEOを務める同族企業です。初代から4代目まで全員カール・エルズナーを名乗り、三代目J Soul Brothersもびっくりの家族経営で、現在はナイフだけでなく調理器具や腕時計、そして1997年からはフレグランス事業にも進出しています。このフレグランス事業が案外片手間ではなく、Victrinox Swiss Army Fragrance SAという、ドイツやアメリカにも支社を置くれっきとした香水専業の関連会社で、そのためビクトリノックスの公式サイトは香水ページが充実しておりオンラインストアも併設(日本未対応)、先日のカンタン大特集でもご紹介した読み応えのある、かつ香水に詳しくないユーザーにもわかりやすいインタビュー記事が掲載されたというわけです。ちなみにご紹介するのはこのインタビュー掲載当時のオリジナル版で、現在はシンプルに「ロック」と改称し、現行販売中です。

f:id:Tanu_LPT:20210323175732j:plain

スイスアーミー・ロック(現在はロックに改称)EDT100ml
現行販売品のロックはEDT100mlで定価79スイスフラン(約9,200円)と、前回のエッセンシャル・パルファムとほぼ同じですが、ビクトリノックス製品の実売価格は2,500円~3,000円と低下の1/3以下にディープディスカウント、中間価格帯を通り越してアフォーダブル系としてもかなりの安さです。どういうところで売っているかというと、数少ない渡欧の記憶の中では、例えばオランダでは国鉄の駅構内にある化粧品店のメンズグルーミングコーナーみたいなところの、割と下の段にある、そんな扱いだと思います。間違っていたらごめんなさい。

f:id:Tanu_LPT:20210323175736j:plain

そんなわけで香りとしては、いくらカンタン作といっても、6年前の作品にしてはよく言えばオーセンティックな、悪く言えば旧態依然とした、昔ながらの男の香水というジャンルから飛び越えることのない、多少甘めのハーバルウッディアロマティックで、エキナカの化粧品店で「Weekend Offer」とか「Buy 1 get one free」とかいう扱いで、通りがかりのおじさんが「安いから使ってみるか」みたいな感じで買っても、あんまり大きく外さないというか、オフィスの仲間や奥さんも、昨日と違う香りで三歩ドン引きしない程度の差でとどめている、割と普通の男物香水の香りがします。特定の香料が突出して個性を発揮せず、しいて言えば「立ち上がりにラベンダー、真ん中に甘めのウッディ、ベースにレザーが少しある」でしょうか。ジェントルマンがチェリーコークと錯覚した甘さの正体は、ナツメグとベンゾインの混合だと思います。 

f:id:Tanu_LPT:20210325180647j:plain

ポラロイドに映った北欧デスメタルバンド、メイヘム。金髪のメンバーはいなかった。
デスメタルは色々サブジャンルがあるが、
中でもノルウェーのデスメタルは突出して危険度が高く、
北欧と聞いて思い浮かぶヒュッゲな感じが全くない。あ、ヒュッゲはデンマーク語でした

私がジェントルマンのそばで嗅ぐ分には、本人が北欧デスメタルな気分になるほどネガティブな印象はなく、日常使いの香水に対し特段ブランドや香調にこだわりのない男性なら、家計応援団の一員として覚えておいてもいい作品ではないかな、と思います。現在はオリジナル版のデッドストックが底値で漂流している状態なので、5年後10年後、カンタンが将来もっと偉くなって「駆け出し時代に手掛けた珍品」扱いで変にプレミアがつく前に試す価値はありそうです。更には、おじさんから柔軟剤の香りがするよりは、スイスアーミー・ロックの香りがしてきた方がよっぽどいいし、通りすがりに香水名が特定できるほどの個性もないので、ビクトリノックスとはいえビクビクせずに使えるはずです。
 
contact to LPT