La Parfumerie Tanu

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Le Barbier de Tanger (2016)

A Gentleman Takes Polaroids Chapter Thirty Five : MDCI par AGTP

 

立ち上がり:モロッコは行ったことない、当然タンジェがどういうとこかも知らない。この名前で想像されるのはKING CRIMSONの曲「Satori in Tangier」になってしまう。
で、最初の印象はシトラスですがかなり目が覚めるような香り、普段の量でつけたら電車乗るのも憚られるような濃さ。幸い今は皆さんマスクしてるから大丈夫だよね?

昼:少し香りが落ち着いてきました、が、まだまだ強い!ラベンダーの香りも出てきました。
15時位:まだまだ勢い衰えず。汗と混ざってきてうーん・・・・モスとかベチバーも出てきてかなり複雑です。
夕方位:ようやく落ち着いてきた。暴れ馬のような香りでした

ポラロイドに映ったのは:モロッコの白昼、白いスーツを着てサングラスかけて佇む怪し気な男。なんのことはないSISTERS OF MERCYのアンドリュー・エルドリッチだ。

 

Tanu's Tip :

 

LPTがブログ設立時から継続してフォローしてきたパルファムMDCI(エムディシーイー)。オーナーディレクターであるクロード・マーシャル氏の透徹した美学と彼の審美眼に叶った調香師だけが手がけることを許される妥協なき作品、それに相反するかのような、どこか普遍的で親しみやすいモダン・クラシックな作風は、世界中に熱烈なファンを獲得しながらも、ブランド信仰の根強い日本では、決定的な評価が得られないまま現在に至ります。最近でこそソーシャルメディアへの露出が増え、認知度も多少は上がってきたMDCIですが、この春より縁あってオランダの香水店、La Cour des ParfumsとLPTのコラボレーションによるサンプリングサービス、La Cour des Parfums par LPT がスタートし、同店のご厚意により筆頭取扱ブランドであるMDCI全21作品のサンプルをご紹介できることになりました。これまで可能な限りレビューをお届けして参りましたが、私をして全点踏破させていただくのは今回が初めてで、憧れの頑固おやじ、クロード・マーシャルさんの作品群がLa Cour des Parfumsから届いた日、図らずも胸に熱いものがこみ上げてきました。それだけ嬉しかったのですが、サンプリングサービスだけではなくブログレビューも襟を正して全点踏破すべし、と改めて気持ちが引き締まりました。

「男らしさ」「女らしさ」と言う概念が、既にハラスメントと受け止められるようになった現代。人種と性差の価値観は、簡単にヒステリアの標的になる時代です。勿論香りはご自身にしっくりくるものであれば、女性物を男性が使っても、その逆でも全く問題はないのですが、ウーマンエンパワメント、ジェンダーレスな価値観…香りについて「男らしい」「女性らしい」と簡単に表現できなくなる日も、遠からずやってくるかもしれません。そうなる前に、男性は男性らしく、女性は女性らしくと言う、少し前までなんの間違いのなかった価値観のもと、ユニセックス系の香りを作らないMDCIの作品を、1日も早く全点紹介していこうと思います。とはいえ、あまりに男らしい香りは着こなせない私は、MDCIの近作メンズをジェントルマンに丸投げ決定。とはいえどちらかと言うと淡麗辛口の方がお好みなジェントルマンを、前回のラベンダー同様、いろいろな意味で唸らせてしまう結果となりました。

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ル・バルビエ・デタンジェ EDP 75ml

モロッコの港町、タンジェ。20世期初頭フランスとドイツが覇権を争い、1956年モロッコに戻されるまで欧米列強の国際管理地域だった事もあり、フランスにも色濃く縁のある国際都市です。エジプト生まれのクロードさんは現在70代前半、子供の頃ちょうど国際管理地域だったタンジェの思い出といえば、床屋。頭ぼうぼう髭ぼうぼうのおっさんが床屋でビシッとキマる時に香る、あの香りを閉じ込めたかったー

その名もズバリ「タンジェの床屋」を意味するル・バルビエ・デタンジェは、フランスの独立系調香チーム、フレア所属の女性調香師、アンヌ=ソフィー・ベアージェルが手がけています。フレアといえば当世売れっ子の調香チームで、ニッチ系ブランドには引っ張りだこ。日本では同じフレアのアメリ・ブルジョワの方が名が知られているかもしれませんが、アンヌ=ソフィー・ベアージェルも若いながら中々の多作で、国内上陸ブランドでいえばエーテル(ムスケタノール他)やオーケストラ・パルファム(アンサン・アサクサ他)、リキッド・イマジネ等で腕を奮っています。

香りとしては、超絶おっさん参るの系なアロマティック・フジェール系で、床屋といえばペンハリガンのハマンブーケやキャロンのプールアンノムみたいな寛ぎの「いい風呂入った系」ではなく、そこにいるのはバキバキに仕上がったおっさん。それも、反射のきつい白壁をバックに立っている、キメッキメに仕上がった、眩しすぎて日陰に入ったら目の前が緑色になるような、揺るぎないおっさんがそこにいます。ラベンダー、オークモス、シトラスにアンバー、パチュリ、ベチバー…至ってオーソドックスな香調なのに、どこかギラギラしているのは、80年代後半から90年代に流行したアクア系合成香料カロンを大量投入したクールウォーター(1988、ダビドフ、ピエール・ブルドン作)を彷彿するからで、クロードさん的には「自分たちより上の世代のノスタルジーを、クラシックな風情ながらモダンに仕上げた」と言うものの、カロンでモダンに仕上げた、と言うのは30年古い気がするんですが…。そしてそこから芋づる式に繋がって出てきたのが、なんとアンドリュー・エルドリッチ。彼もまた、アーティスト人生のプライムタイムを80年代後半に迎えたひとりです。

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アンドリュー・エルドリッチ。後期代表作、ドミニオンのPVが紹介された80年代半ばの音楽雑誌より

画像は、イギリスのSisters of Mercy非公式ファンフォーラム、Heartlandから拝借したものですが、放置フォーラムかと思いきや、Black Lives Matter と小さく書かれていたり、きっちり現役なのが驚きです。2016年7月にジェントルマンコーナーを開始して今月で5年目に突入しますが、違う香りで同じポラロイドが取れたのは今回が初めてで、それもかなり驚きですが、正直こんなカッコ悪いのがジェントルマンの頭の中にいつも棲みついていて、それがサウジだろうがモロッコだろうが「中東」という広大なテーマにほんのちょっとでも接触するとこれが出てくる、というのは、香水ブログとしてはかなりまずいです。しかもここでお断りしておかなければならないのは、ジェントルマンは決して香りでドミニオンのA・エルドリッチを念写したのではなく言葉で連想してしまった事で、昨年のASQ(サウジアラビア)のサファリ・エクストリームも、今回のMDCIのル・バルビエ・デタンジェにせよ、ポラロイドを依頼する際「今回はサウジのブランドだよ」「今月はタンジェ(モロッコ)の床屋がテーマだよ」と言った瞬間、画面いっぱいにエルドリッチが立っている。これは大いに問題です。中東に関しては、ジェントルマンは視覚のボキャ貧だと観念して、ぜひ経時変化レポートだけを参考に、あとはご自身の鼻でご判断ください。でもここだけの話、私の脳内スクリーンにも、香りからアンドリュー・エルドリッチが映ってしまいましたので、同じ釜の飯を食って数十年の我々夫婦にとって、これ以上の引き出しがないと言うか、限界を見た感があります。

せっかくMDCI全点踏破!と意気揚々と始めたMDCIジェントルマンですが、早くも暗雲が垂れ込めてきました。でも、弘法も筆の誤りとか、蓼食う虫も好き好きってことわざがあるじゃないですか。今この香りを、これだ!と言って選ぶ人を、クロードさんと、タンジェの強い光を浴びて真っ黒な影を落として立っている床屋帰りのおっさん以外にいるなら、もしくは俺には似合う!という強者は、ぜひlpt@inc.email.ne.jpまでご連絡ください。よろしくお願いします。

 


 

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