La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Ganymede (2019)

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いい写真だから何度でも載せます。「できたわ!」「すてきよ!!」
パリのメンズ専門クチュリエ、マルク=アントワーヌ・バロワの第2作フレグランス、ガニメデが今春発売になりました。昨年開催したCabaret LPT vol.9「A Gentleman takes Polaroids」でもジェントルマン高評価としてご参加の皆様にも大好評だった処女作、B683(2016)登場から3年、昨年よりアメリカの高級百貨店、バーグドルフ・グッドマンを始めアメリカへの進出が目覚ましい一方で、対面販売にこだわっていたバロワさんも、ブランドの旗艦店であったパリのコレット閉店をうけ、フランス国内限定ではありますが公式サイトにウェブストアを開設、サンプル販売も始めるなど、基本姿勢はそのままで時流に歩み寄る努力が垣間見えます。
 
1610年、ガリレオ・ガリレイが発見した木星の第3衛星であるガニメデは、4つの「ガリレオ衛星」の一つですが、ガリレオ衛星には複数の名前があり、一般的に親しまれている「イオ(Io)」「エウロパ(Europa、ヨーロッパの由来でもある)」「ガニメデ(Ganymede)」「カリスト(Calisto)」は、木星がローマ神話でユーピテル(Jupiter)、ギリシャ神話でゼウスを意味する名を持つことから、いずれもゼウスの愛人の名がつけられており、更には名付け親はガリレオではなく、シモン・マリウスという同時進行で木星の衛星を観察していたドイツ人。4つの衛星のうちガニメデは、ギリシャ神話でバイセクシュアルの権化ともいえるゼウスがその美しさに心を奪われ、鷲に擬態して神殿にさらい、そばに置くかわりに不滅の若さを与えられた美少年、ガニュメデスに由来します。
ちなみにこの4つの衛星の発見は、当時のローマカトリック教の世界観である天動説を覆す地動説(コペルニクス提唱)を裏付けるひとつの確証となったのですが、ガリレオはローマカトリック教会がでっち上げた裁判で敗訴、生涯自宅に戻れる事なく没しました。「それでも地球は回る」という名言はガリレオ鉄板ネタですが、実際はそんな決め台詞は残しておらず、後日ガリレオの偉業を言い伝えた人たちが「盛った」台詞だとされています。
 
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マルク=アントワーヌ・バロワ(左)、カンタン・ビシュ(右) 共に1983年生まれ
発売前からウェブ上で香調や作品のコンセプトが開示されたり、シンプルに香りを味わう愉しみが損なわれる「文字情報から香りを憶測する弊害」も感じることも多い昨今、まずは何も目を通さず「ガニメデ」という名前、その名の由来、それだけを頼りに試香したレビューをしようと思いました。ただし、運悪く前情報として「オゾン・アクア系」であると耳に入っており、90年代の悪夢がよみがえるようで少々身構えて実装に挑みましたが、全くの杞憂に終わりました。
 

-The first impression of Ganymede-

香りの第一印象は「周りに誰もいない(孤独という意味ではない)真っ暗ななか、少し自熱を帯びた岩場に気持ちよく寝そべって、岩の割れ目から染み出る冷たい水で頬を濡らしている」そんな映像が瞬時に浮かんだ、不思議なくらい手放しに「岩石」と「水」「星明り」を感じる、物凄く透明度の高いハーバルレザーフローラルで、非常に硬度の高い水のように肌当たりの柔らかさが全くないのですが、このゴツゴツ感が眼下には鉱石の煌きのように拡がり、そこに瑞々しい清水の冷たさが涼感を呼ぶのでしょう。ガニメデは見たことも行った事もないですが、よく香りとして可視化したと思います。スモーキーレザーノートとしてはかなりローファットで、甘みはほとんどないので、どちらかというと重厚なB683と比較して、B683が成熟した包容力のある男性なら、ガニメデは手足がすらりと伸び、きゃしゃな肩と細い首が美しい、首筋には熱を持っているが手足は冷たい性別不詳の生物、という感じです。かなりユニセックスに寄せており、女性でも昨今流行のシュガリーな香りが苦手だけれど、シトラス系、グリーン系もあまり得手ではないという女性の方でもスッキリと爽やかに楽しめます。
 

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第一印象で撮ったガニメデ。手持ちのビーズアクセサリーで精一杯ミネラル感を演出
-The Second impression of Ganymede-
ここまで書いたあと、記録として第一印象のイメージ写真を撮影し、ようやくプレス資料を読んだのですが、資料には「マンダリン、バイオレット、イモーテルそしてスエードが、東西南北を指し示すコンパスのように奏でる、想定外のハーモニー」「輝ける鉱石(ミネラル)と塩水の流れのような相反する旋律の調和」「B683が懐かしい思い出の品でできているなら、ガニメデは空想(ファンタジー)でできている。新しいエレガンスのファンタジー、時空を超えて流れるように美しい(カンタン・ビシュ、調香師)」と紹介されており、この作品の主題と自分の第一印象が大きくぶれていない事に安堵を覚えました。主軸の香料が判明したところで、さらに掘り下げていくと、処女作B683(2016)は、クチュリエであるマルク=アントワーヌ・バロワ自身が誕生し、長じるまでの思い出を「架空の惑星、B683」として昇華した、どこか懐かしいオーソドックスなメンズフレグランスであるのに対し、ガニメデは既視感のない美の世界。B683と同じレザースエードをベースに持ってはいますが、ガニメデのピリッとしたスパイシーな表情とウード様の旨味をパチュリから抽出した新しい香料、アキガラウッドとサフランでスエード側に寄せ、よりしなやかに仕上がっています。そこにマンダリン、バイオレット、けぶるようなイモーテルが溶け込み、乾いた熱源反応とミネラルを豊富に含んだ冷たい海水のような瑞々しさがぶつかり合いながら一体化し、香りの変化もあまりなく、坦々と香ります。ウード的な表情はほとんどなく、乾いたイモーテルがアキガラウッドのスパイシーな表情を引き立てており、私と共に実装したジェントルマン曰く「これは好み。アンクルノワールがもっと柔らかくなった感じ」だそうで、確かにきりりとしたベチバーが魅力のアンクルノワールに、ジューシーなマンダリンやスパイスを加え、熱源反応を加えた感じを想像して頂ければと思います。
 
ジェントルマンのいう「柔らかさ」といえば、立ち上がりから消え入りまで総じてあまり拡散しないガニメデですが、1日を終え、無防備に服を脱いだ時、衣擦れで突然肌から立ちのぼる柔らかなラストノートが、不意打ちでも食らったかのように微かに、しかも美しく、最後の最後で心が揺れるのが油断なりません。これは、自分と特別な相手にしかわからない「接近戦のお楽しみ」とでも言っておきましょう。続いて、ジェントルマンのポラロイドに映ったガニメデをご紹介します。
 

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公式写真。第一印象で撮ったイメージ写真と、当たらずも遠からず(な気がする)
- The Third impression of Ganymede by our beloved Gentleman-

立ち上がり:アンクルノワールに良く似た香り、かなり好みです、少しアンクルノワールより甘い感じがします

昼:かなり早く薄まりますね。今日は暑いので汗で流れたか?甘さが消えてスパイシーな香りになってきました

15時位:むうー殆ど消えた 持ちはアンクルノワールの方が良いです

方:消滅 短距離選手です。

ポラロイドに映ったのは:名前聞くとついついカウボーイビバップというアニメの「ガニメデ慕情」という回(注:第10話)、その話の主役だったジェット・ブラックというキャラを思い出します。しかし彼はむさい禿げオヤジなのでこういうのはつけないと思います。 

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カウボーイ・ビバップ第10話「ガニメデ慕情」より(英題:Cowboy Bebop session#10 : Ganymede Elegy)ジェット・ブラックの声は石塚運昇(故人)。大塚明夫と並び低音の美声で、キャラと相まってストーリーをびしっと引き締めていました。合掌 ちなみにこういうおっさんは案外グルーミングにはうるさくて、歯磨き粉はコルゲートしか使わないとか、髭剃りはT字に限るとか、それでアフターシェーブは親子二代でオールドスパイスなんだ、とかドラッグストア・クラシックなりのこだわりを持って生きていそうな気がします。ついでに言うと結構情に厚い、というか重たいというか、大塚明夫さんが声をあてるキャラクターで言うと攻殻機動隊のバトーが真っ先に浮かびますが、あの男も全身義体ではありますが、このジェット・ブラックと同じこだわりがあるタイプに感じますし、なにより情が湿っぽくて男性としてはどちらも苦手なタイプです。ってそんなこと誰も聞いてないか、そもそもジェット・ブラックの声は石塚さんだし

さてガニメデには「素材の良さで余計なものを入れる必要がない」革新的技術が取り入れられており、香料と変性アルコールしか使われていません。ガニメデに処方されているマンダリンやオスマンサスなどは、発がん性が疑われる酸化防止剤BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を使う必要がないほど安定性の高い最先端の天然香料(Orpur®シリーズ)を使用し、着色料の退職を防ぐ紫外線防止剤も無添加。素材の色を生かした淡い金色は、高い賦香率25%がもたらす賜物で、化学物質による肌刺激を最小限に防いでいます。

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イモーテル、マンダリン、オスマンサス…ガニメデに用いられた天然香料たち。B683にも同じタッチの線描画カードが封入されていたけれど、この絵が大好き。誰が描いたものだろう(2019.6.20追記)B683,ガニメデの線描画はすべてバロワさんご本人画だそうです(本人談)。クチュリエは絵もうまいんだね!

 
一昨年B683を紹介した時よりもかなり取扱店は増えましたが、日本発送対応、かつ全ラインナップを揃えているオンラインストアはまだまだ限られているのが実情のマルク=アントワーヌ・バロワ製品。2019年6月時点ではアメリカの老舗ニッチ系ウェブストア、Luckyscentがおすすめです。

追記:2022.1

★マルク=アントワーヌ・バロワ製品は、ブランドの協賛によりagent LPTにてお求めいただけます。
→2022年1月末日をもって一時休止いたします。再開のめどが立ちましたらお知らせいたします)

🔓agent LPTはLPT読者向け会員制コミュニティストアです。閲覧にはパスワードが必要になります。
閲覧パスワード:atyourservice
(定期的に変更となりますので、エラーの場合はlpt@inc.email.ne.jpまでお問合せください)

 

追記:2020.9

ブランドと提携し、マルク=アントワーヌ・バロワ品(B683ガニメデ、同サンプル)をLPT directで取り扱っております。 お気軽にご利用ください。なくなり次第終了いたします。

 

資料提供:Marc Antoine Barrois

 

【マルク=アントワーヌ・バロワより協賛プレゼントのお知らせです!】

今回のレビューにあわせ、なんとマルク=アントワーヌ・バロワさんよりLPTへガニメデのフルボトルを丸々1本謹呈していただいたので、読者の方へ大還元!サンプルアトマイザーをプレゼントいたします。ご応募は下記バナーから、応募の際は是非LPTへのご意見、ご希望をお寄せください。〆切:2019年6月27日(木)。当選は発送をもってかえさせていただきます。 終了しました。 

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