La Parfumerie Tanu

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Warszawa (2017), updated review for the worldwide launch

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ヴァルシャーヴァ パルファム 17.5ml(右手前)、60ml、100ml

ヴァルシャーヴァの大まかなレビューは、昨年12月にご紹介したとおりですが、この1年、既にボトル1本使い切る勢いで試香してきた中での気づきと、この香りに大きく関与しているデヴィッド・ボウイの「ワルシャワの幻想(原題:Warszawa)」について、幾つか補足させていただきます。 

ヴァルシャーヴァのコンセプトにもなった「ワルシャワの幻想」は、アルバム「ロウ」の代表曲で、ブライアン・イーノとの合作。この時代のボウイはジャーマン・ロックに色濃く影響を受けており、アルバムも当時としては実験的なインスト曲が中心に収録されています。「ワルシャワの幻想」も陰鬱なオープニングから、後半にかけて呻きにも似た男声のハミングが重い扉を開け、うっすらと光明が差すような展開が、歴史に蹂躙され続けた古都ワルシャワを俯瞰した目線で音に昇華しており、ベルリン三部作の第一弾として名高いこのアルバムの中でも一際印象深い作品です。LPで言えばB面1曲目にあたり、発売当時アルバムのB面に針を落として始まる「ワルシャワの幻想」の荘厳なオープニングに衝撃を受けた当時の社長は想像に難くありません。


ヴァルシャーヴァPV ファイナルカット版。 

今回ピュアディスタンス社を訪問した際、チームやチーワイさんと共に、社長が制作したヴァルシャーヴァのイメージビデオを2本見せていただきました。パイロット版は2年前に作成され、ワルシャワの街に行きかう人々を俯瞰した心の眼で見つめたような、暗く前衛的な映像で、オープニングには「ワルシャワの幻想」のイントロがセンセーショナルに挿入されていました。一方ファイナルカット版は、現在公式サイトでも公開されていますが「さすがに公式ビデオには許諾の都合からボウイの曲を使用する事はできないから」(社長談)「ワルシャワの幻想」はワルシャワを代表する作曲家、フレデリック・ショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調 遺作」に差替えられ、最後は光明が差すような温かなエンディングとなっています。

- ボウイの作品では何が一番好きですか?

社長「ボウイのアルバムで一番好きなのはジギー・スターダスト(1972年、原題:The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)。子供の頃、テレビで見てぶっ飛んだ。他のアルバムではステイション・トゥ・スティション(1976年、原題:Station to Station)、ワルシャワの幻想が収録されているロウ(1977、原題:Low)も好きだ。あとは、アルバムトータルでというより曲が好き。同時代で言えば、ルー・リードのベルリン(1973年、原題:Berlin)も大好きだ」今回訪問時、社長が好きなアルバムとしてあげて下さったボウイの作品は、すべて1970年代、すなわち社長が10代の頃リリースされ、その後の人格形成に大きく影響した作品ばかりです。
 
ロウ
「ワルシャワの幻想」が収録されたロウ(1977) 2016年1月10日、ボウイが亡くなりまもなく2年。「David Bowie is展(2013年、ロンドン・ヴィクトリア&アルバートミュージアムを皮切りに世界開催した巡回展。東京開催:2017年1月8日~4月9日)には行った?フローニンゲン市でも行われたんだけど、父と観に行ったその2日後にボウイが亡くなったの。それはボウイを敬愛していた父は、ボウイの死を知って『右腕をもがれたようだ』と言いながら、さめざめと泣いていた(イリスさん談)」会期中にボウイが亡くなった世界唯一の開催都市、フローニンゲン。その想いも、ヴァルシャーヴァには脈々と流れている
 
社長「初めてワルシャワに行った時、街の雰囲気がとても暗かった。そして陰鬱な街の雰囲気とは裏腹に、会う人会う人みな温かく優しく、明るい人ばかりだった。どうして街はこんなに暗いのに、人々はみなこんなに元気で明るいのだろうと、不思議に思っていた」
その答えは、敢えて社長は語りませんでしたが、自身をあたたかく迎え入れてくれたワルシャワの人々、とりわけピュアディスタンスを興した事で出会ったクオリティ・ミッサラのオーナー、ミッサラ家の人々の優雅な物腰と温かな心遣いに、ワルシャワから吸収した想いすべてを香りに昇華し、感謝をこめて2016年の発売から1年間、クオリティ・ミッサラにて完全限定販売したのがヴァルシャーヴァです。

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17.5ml。ボトルがキャップレスに、携帯用メタルケースが標準装備になりました

名匠アントワーヌ・リー調香、じっくり嗅ぐと非常にモダンながら溢れるオーラは超クラシックな、ジャスミンとエニシダが微笑むフローラルシプレ、この居ながらにしてタイムマシンのような香りはピュアディスタンスのラインナップ中、ひときわ異彩を放っています。立ち上がりのガルバナムとシトラスのバーストからクラシック香水特有の序破急を敢えてつけないモダンな構成で、ミドル以降もエニシダのグレープフルーツを思わせる不可思議な瑞々しさが長く続く一方で、フルーティなジャスミンと全体の調和をつかさどるオリスバターの奥で、ベチバーとパチュリ、ベンゾインがシプレベースとして重要な地塗りの役目を果たし、結果として香水の黄金時代と呼ばれる1920-30年代の瀟洒なクラシック香水のオーラを放っています。香調は違いますが、ジャスミンを多用している事からジョイ(1930)、チュベローズは使われていませんが百花繚乱な印象はフラカ(1948)のDNAを汲んでいると言えましょう。

香りが想起させる女性ー彼女自身は多くを語らないけれど、彼女の面立ちから多くを想起させ、時の流れの幻影すら抱かせる力のある香りです。言い換えれば、この香りからは、過去が見える。その時代はいつなのかは解りませんが、時代がこちらを見つけ、意思をもって出会ったような錯覚を覚えます。

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専属イラストレーター、ロビンさんの描くレディ・ヴァルシャーヴァ
そしてヴァルシャーヴァ最大の衝撃は、香りをつけた人が立ち去った後に残るその残り香で、言いようのないほど…時が止まったかと思う程、月並みな表現ですが物凄く美しいのです。これは実際私が今回フローニンゲン滞在中に体験したのですが、既に社長のご厚意で昨年のポーランド限定発売前から試香させていただき、実に1年も前から知っている香りなのに、朝の身支度でヴァルシャーヴァをつけ、小一時間ほど外出して戻った部屋に入った瞬間、残り香の、あまりの美しさに愕然としました。その日は何度か部屋に出入りしましたが、その度に驚きました。自分の身体から立ちのぼる香りよりも美しく、これまでも残り香の美しい香りには幾らでも出会ってきましたが「愕然」としたのは初めてです。まるで、多くを語らない人の「歴史」を漏れ聞いて、その壮絶な人生に言葉を失い、一緒に心が泣いたようでした。この香りのイメージを調香師に正しく伝えた社長と、イメージ通りに作り上げた調香師の確かな技術と表現力には恐れ入るものがあります。日常使いには勿体ない位良い香りですが、日常を非日常に変える力が非常に強いので、香りに異世界への扉を求める心があるならば、ヴァルシャーヴァは美しい後姿から少しだけこちらを振り向き、重い緑のカーテンを開けてくれる事でしょう。


チーム6名全員がヴァルシャーヴァの魅力を自分目線で解説 普段表舞台にでないイリスさんやロビンさんも登場する貴重なビデオ

 
Puredistance Warszawa(2016/2017)
Perfumer : Antoine Lie
Ingredients:
Head notes: galbanum, grapefruit, violet leaf
Heart notes: jasmin absolut, broom absolut, orris butter
Base notes: patchouli, vetiver, styrax
Olfactory group:Chypre Floral
 
For me, Warszawa is a beautiful lady who has experienced a lot, and carries her tears and pain inside, after her unforgettable experience but never tells us a lot, just smiling and caressing us so warmly. She is Hopelessly beautiful.
 
 
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