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Sylvan Song (2014) exclusive for Fortnum & Mason

2009年に復興、2012年にはブラックレーベルコレクションを世に出したグロスミスが、同社の旗艦店であるフォートナム&メイソンのために作ったシルヴァン・ソングは、現在もロンドンのF&M本店での限定販売*と、発売当初は限定扱いでも徐々に販路を広げていったロイヤルコレクションと違い、入手性に関して格段にハードルの高い作品です。EDP1濃度で、通常の50ml(£195≒29,000円)と100ml(£295≒44,000円)の他に、単品としては値頃な10mlサイズ(£54≒8,000円)があるのも、世界中から観光客の集まるF&Mならではの特徴です。 

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シルヴァン・ソング EDP 10ml
香りのご紹介の前に、フォートナム&メイソンについて説明します。
1707年創業、ロンドンはピカデリーに本店を構え、本年めでたく創業310周年を迎えた高級デパートであるフォートナム&メイソンですが、創業時は紅茶とキャンドルからスタートした紅茶商だったので、現在でも食料品の品ぞろえが豊富。スコッチエッグを発明したのもフォートナムズと言われています。ヴィクトリア女王の治世から150年以上の長きにわたる王室御用達食料品店で、現在はエリザベス2世より「食料品店」チャールズ皇太子より「紅茶商及び食料品店」のロイヤルワラントを賜っており、紅茶や雑貨の詰め合わせバスケット、ハンパーが有名で、ギフト需要が高い高級店です。フレーバーティと同じテーマのキャンドルやジャムなど、シリーズ展開が多数あり、私の訪問時、本店1階のギフトコーナーは、平日にもかかわらず熟年日本人観光客が精力的に土産物を物色していました。日本では三越がショップ展開しており、高級紅茶ブランドとして名前が浸透しています。親会社はセルフリッジ(英)、ブラウン・トマス(アイルランド)、デ・ビエンコルフ(蘭)など高級デパートを傘下に持つ投資会社、ウィッティントン・インヴェストメンツです。

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フォートナム&メイソンのシルヴァン・ソングコーナー。こちらは100mlボトル
「森の詩(うた)」を意味するシルヴァン・ソングは、復興時からグロスミスとは二人三脚の香料会社、ロベルテ所属調香師のセリーヌ・ギヴァーシュが手がけており「セリーヌさんに、フォートナムのフロアをくまなく歩いてもらって、雰囲気をしっかり掴んで香りにしてもらったの」(エレナーさん談)と、シルヴァン・ソングをまとうとフォートナムズの想い出が蘇る、そんなコンセプトで生まれた香りです。ラベルもF&Mのコーポレートカラー、オー・デ・ニール(Eau de Nil, ナイルの水)を用いています。

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ショッパーを背景に 外箱はラベルと同じオーデニール色をしています
ナイルの水色というよりは灰色味を帯びた薄緑色が眼下に広がる、パチュリとベチバーが奏でるくぐもったグリーンの幕開けは、クオーツ(モリニュー)、オリジナル版イヴォワール(バルマン)といった70年代中盤に登場するグリーンフローラルシプレを想起するのと同時に、背後にケルクフルール(1912)にみられる、オイリーで練白粉のようなオペーク感のあるフローラルノートがしっかりあり、グリーンの底から湧いてくる甘重さがクラシックです。ラストはよりマットなウッディムスクの甘さが現れます。シルヴァン・ソングという名前で言えば、木漏れ日を感じるような煌めく「森の詩」というよりは、小路の両脇から伸びた枝葉が空を覆い、足元には湧き水や湿原(ムーア)が広がる散歩道のような、ムーアの国イギリスならではの「森の詩」です。そういう意味では非常にイギリス的ともいえますが、惜しむらくは、このクラシックな脂粉っぽいベースが折角のグリーンを若干相殺してしまい、幾許かの濁りを帯びているという点でしょうか。言い換えれば、ケルクフルールのマットな甘さが好きだけれど、もう少しグリーンを重ねたいというクラシック香水ファンにはどんぴしゃな、最高のチューニングと言えましょう。ロンドンに行ったら是が非でも手に入れてほしい希少品というよりは、既にグロスミスの魅力をよく知っているファンが本丸のロンドンに来て、旗艦店まで足を運んだ記念碑的アイテムというか、ブランドファンの為のコレクターズアイテム的位置づけなのではと思います。またフォートナム&メイソンの広大なフレグランス売り場には「フォートナムズ限定コーナー」があり、ここでしか手に入らない香りを結構色々な高級ブランドが出しているので、グロスミスにとってフォートナムズは仮にも旗艦店ですから、旗艦店に限定物を置かないのは…という事情もあったのでは、と察します。グロスミスの作品の中では、家督のアーカイヴを寸分たがわず蘇らせたい一心で復刻した気迫十分のクラシック・コレクションとも、時代に呼応しながらも四者四様の秀逸な個性のあるブラック・レーベルコレクションとも違う、どちらのコレクションにも振分けられない独自の方向性を感じますが、クラシック香水好きの率直な想いとしては、次は久しぶりに、まだまだ眠りから醒めぬ家督のレシピ達から幾つか蘇らせて欲しいところです。
 
*一応オンラインストアでの取扱いもあるが、英国内配送のみ
 
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