La Parfumerie Tanu

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Shalimar (1925) chapter 4 : flankers

Shalimar Flankers 

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金型いっしょ

名香シャリマーといえども、なかなか若い世代には受け容れられなくなってきて、21世紀に入り、売上が落ちてきました。今はどこの会社もターゲットは30歳以下なので、その世代にウケないと商売にならないし、何十年も使ってるリピーターは老い先短いし、マニアは何をやっても納得しない。だったら香水会社だって利益を追求する一企業にすぎませんから、売れるものを作りたいんですが、一から立ち上げてコケると大損ですよね。それなら、昔から名前の知れている香りのバージョン違いにすれば、いちから頭ひねらなくてもレールは敷かれているわけだし、老舗ブランドで使いやすいものが出れば、香りそのものよりそのブランドを使っている自分自身が好きな若い子も飛びつくし、うまくいけばリピーターも買う、マニアも渋々コレクションで買う、と二匹目のドジョウは3倍美味しい訳です。だけどこれが案外もろ刃のやいばで、この「3倍美味しい計画」の照準がちょっとでもズレると、1)若い子にはウケない、2)リピーターは買わない、3)マニアは炎上、と3重苦が口を大きく開けて待っています。ゲランでは、そうやって消えていったバージョン違い、つまりドジョウを最も生み出したのがシャリマーで、シャリマーの名前がついているだけでオリジナルとは似ても似つかないものから、オリジナルの表情の一部を強調したもの、そのボトル違い限定品、とこの15年間で両手両足の指では足りないくらい発売されました。本日はその中から、オリジナルの血を引いていると確実にわかる作品を3つ、似ても似つかないものを一つご紹介します。

 

【オードシャリマー(2003/2008)】

 

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まず最初に出た、これがほんとの「二匹目のどじょう」にあたるのが、オードシャリマーです。オードシャリマーは2003年、マチルダ・ローレンが手がけたシャリマー・オーレジェール・パフメ、別名シャリマーライトが原型です。シャリマーライトが2005、6年ごろ廃番になり、2008年にオードシャリマーとして再発になりました。
 
ゲランって看板調香師は世襲したゲラン家の人々で、ティエリー・ワッサーだってわざわざ養子縁組でしょ?血族、しかも男性でないとゲランの調香師にはなれないんですが、裏には影の調香師がいっぱいいて、それも大半が女性で、結構いい仕事してきたのに一切名前を出してもらえない時代が長くて、ようやく21世紀になって実はだれだれ作、というのがボロボロ出てきました。シャリマー・オーレジェール・パフメ、別名シャリマーライトもその一つで、発売当時はマチルダ・ローレンのマの字も紹介されずにジャンポール・ゲラン作として世に出ました。変な世界ですね。まあでもゲランで下積みした女性の多くは、その後立派によそで専属調香師の座に輝いていますので、ご安心ください。マチルダさんも現在はカルティエの専属調香師です。

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 2008年にシャリマーライトの再発として発売されたオードシャリマーは、ジャンポール・ゲランが少しバニラを汚くしてオリジナルのシャリマーに揺り戻したものですが、それも若干の補正程度なので、いちおう名称変更のみで中身は同じものと解釈して問題ないでしょう。

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香りとしては、一言でいうと「シャリマーのオードトワレ、レモンましまし」ですね。初めてのシャリマーのバージョン違いというだけあって、基本に忠実で、時代に合わない重さとか、甘さを引っ込めて、シトラス度をぐっとあげたもので、同じ濃度のオードトワレとチャート比較すると、その違いがよくわかると思います。結構好きな方も多かったオードシャリマーですが、2015年、後程ご紹介するシャリマー・コローニュ発売に合わせ、廃番になりました。
 
【Ode a la Vanille(2010),マダガスカルルート版(2012)メキシコルート版(2013)】
 
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それでは次のバージョン違いは、オードアラバニーユをご紹介します。シャリマーをさっぱりさせれば売れるのか、と言ったらそうは問屋が卸さなくて、こういうオードシャリマーとは真逆のベクトルにいくドジョウも登場します。日本にも冬季限定で何度か販売されましたが、現在は終売しています。
これも、一言でいったら「シャリマーEDPのバニラましまし」ですね。それに尽きると思います。というのも、バニラがウリのシャリマーですが、驚いたことにそもそも本物のバニラは使われていないんです。先ほどジッキーと一緒にご紹介した、本物のバニラよりスモーキーでレザーノートを含んだ合成香料、エチルバニリンでバニラ感を出していて、天然バニラ香料は処方されていないんですね。知ってました?ビックリですよね。無果汁ですよ無果汁!
 
そこで「ジッキー、バニラましまし」が原点のシャリマーに、5代目調香師のティエリー・ワッサー氏が「バニラはいってないの、おかしくね?」と、既存のシャリマーに天然バニラチンキを加えたのがオードアラバニーユです。果汁度アップ!天然バニラ香料を使用する事により、エチルバニリンのレザー感が丸められ、よりふくよかな「バニラましまし」になりました。ワッサー、グッジョブ!さすが養子縁組するだけのガッツがあります。

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2010年に発売された初代オードアラバニーユは産地が明記されていませんが、2012年版は「マダガスカルルート版」としてウッディノートが強い、バニラとしては最高級と言われるマダガスカル産バニラを使用し、2013年版は「メキシコルート版」としてフルーティな要素を持つメキシコ産バニラを使用しました。現在アメリカでマダガスカル版が現行販売中で、中東のゲランでも昨年の夏に確認したところメキシコ版が現行販売されていました。Cabaret LPTで試香していただいたのはメキシコ版です。無印のバニーユも所有していますが、どう違うんだって感じですけどね。ただ、同じ濃度のオードパルファムと比較するとその差は歴然で、チャートで見ていただくとお分かりの通り、バニラ度がスケールから振り切れています。その分シトラス度が引っ込みましたが、個人的にはこのシャリマーオードバニーユがシャリマー全体の中で一番好きですね。

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【Shalimar Cologne (2015)】
 
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続いては、シャリマー・コローニュです。これは日本でも売っています。
シャリマー・コローニュはオードシャリマーと入替わりに登場した、オードシャリマーの後継という声も多いですが、オードシャリマーよりレモンのキレが丸いですね。またベースのパウダリー感も控えめで、透明感を増しています。持続もオリジナルのオードトワレより良いです。ラストは粉っぽさのないホワイトムスクに落ち着くので、シャリマーのパウダリー感が好きな人には物足りない展開ですね。バニラやアンバーの粉っぽさが、古臭くて敬遠されて、ワッサー氏御贔屓の今風ホワイトムスクに置き換えた現代版シャリマーというわけで、オリジナルとはラストが全然違いますが、しかしシャリマーのクラシックな粉物感が苦手なユーザーにはこれでもクラシックに感じるでしょう。

f:id:Tanu_LPT:20180302125935j:plainレーダーチャートで見ると、円形を留めていないですね。ドジョウの中ではこれでも直系シャリマーに近い作風ですが、昔の映画のリメイクで、今の女優さんが時代物の格好をしてるんだけれど、メイクとかどうにもすっきりしていて昔の話をやっているようには見えない、そしてストーリーもラストハッピーエンドにまとめられていたり、またちょっとした演出でも、例えば時代考証としてはありだけど、煙草を吸うシーンは世論的に入れられないとか、そういうもどかしさに似ています。いい線行っていますが、バニーユよりは別物感が否めないし、むしろ新たな購買層を獲得すべく作られているはずです。それでは、同じドジョウ同志、オードシャリマーとシャリマー・コローニュをチャート比較してみましょう。

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【Souffle de Parfum (2014)】
 
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最後に、全く別物のバージョン違いとして、シャリマー・コローニュより1年前の2014年に発売されて、毎年美しい限定ボトルが発売されてコレクターアイテムにもなっている、スフルドパルファンをご紹介します。こちらは、あまりに違うのでレーダーチャートを作成しませんでした。肌に何度か載せましたが、何度嗅いでもシャリマーに感じないし、ドジョウというよりはシャリマーのふんどしで相撲を取っている感が強いですね。21世紀版ゲルリナーデ、つまりワッサラーデ(Wasserade)とでも言いましょうか、オレンジフラワーとホワイトムスクという、ワッサー氏のゲラン作品に頻発する組み合わせで出来ています。スフルドパルファンは確かにシャリマーファンからは賛否両論で、新しいファンをつかんだのかも疑問ですが、昨年このスフルドパルファンのバージョン違い、スフルアンタンスが発売された位なので、スフル路線は今後しばらくは続くものと思われます。

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