La Parfumerie Tanu

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Age of Neo-Powderist 1 : Dawn of Neo-Powderist

【パターン1:双璧、または別格:2000年、ネオ・パウダリストの幕開け】
 
1.Teint de Neige (2000)「雪の色」タルコ系の金字塔
フィレンツェの巨匠オーナー調香師、ロレンツォ・ヴィロレーシの押しも押されぬ代表作が、今お配りした1番のタンドネージュです。2000年に登場しました。フレグランスはオードトワレ、オードパルファム、パルファム、パフュームオイル、練香水と何と5種類、バスラインやトイレタリーを合わせると総勢23アイテムという物凄いラインナップを誇り、しかも売れ続けている大ヒット商品です。ヨーロッパでは本当にこのタンドネージュは人気で、取り扱っている所も多い上に、21世紀はメインストリーム系もニッチ系も、中東とロシアという2大マーケットの顔色をうかがってモノづくりをしていますが、ロレンツォ・ヴィロレーシはイタリアのブランドですが、ロシアや中東ではなくヨーロッパでしっかり根を張り、不動の人気があります。特に本国イタリアでは、全国のデパートでちゃんと買える。これはどういう事かというと、イタリアでは、どれだけ多くの香水店や専門店、自社店舗で展開したとしても、デパートに置いてもらえなければ一流とは認められないそうで、ロレンツォ・ヴィロレーシはその点イタリア全土のデパートで買えますので、一流ブランドと認められているわけです。日本では、10年ほど前に伊勢丹などで取扱がありましたが、昨年フレグランスは完全撤退し、入れ替わりに別の代理店が契約して現在はトイレタリー製品だけ販売されています。
 
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タンドネージュ、雪の色という意味ですが、すっきりとしたローズやヘリオトロープの少しだけひんやりした甘酸っぱさが徐々に肌馴染の良いムスクへと展開する、非常に完成度の高い、パウダリーなフローラルノートです。まさに粉物の金字塔ですね。これは、イタリアではパウダリー系の香りをタルコ系と呼んで、ジャンルとして確立しているんですが、タンドネージュはまさにタルコ系の王道中の王道です。80年代の大ヒット作、ブロッソーのオンブルローズに若干感じるちょっと脂っぽいノートがタンドネージュにはなくて、まさに純度の高い白い粉のようです。もう気分は粉まみれですね。驚異の香りもち・香りの強さも抜群で、今回お試しいただいているのは日本で発売しなかったオードパルファムですが、これフランスの製品だったらパルファムだって言って出す濃度だと思います。それだけ香り持ちも奥行きもあります。しかも50mlで95€、100€しないんですよ。ケチのつけようがないですね。
 
2.Iris Poudre(2000)「粉物イリス」旧世界系イリスの金字塔
次はエディシオンズ・ド・パルファム・フレデリック・マル、通称マルちゃんのイリスプードルです。これもジャスト2000年に登場しました。これは香りがどうのという前に、名前がどストライクだったので連れてきた、という感じです。イリス・プードル。粉物イリスね。日本では「アイリスの白粉(おしろい)」という邦題で販売されていました。過去形なのは、日本では伊勢丹が取扱終了したためほぼ撤退状態で、今購入できるのは東京、青山のドリス・ヴァン・ノッテンと、トゥモローランド渋谷と丸の内のランドオブトゥモロー、この3か所だけです。
香りは、どうです?旧世界の遺産を21世紀に渡す、架け橋的なフローラルアルデヒド系アイリス、とでもいえばいいかな、タンドネージュに比べると胸板が薄くて、つかず離れずって距離感ですよね。お手許のムエットだと材木っぽいイリスが残っていますが、これ肌に乗せると最初は立ち上がりのイリスがすごく材木っぽいんですが、あまりこらえ性がなくて、ほどなく落ち着いてとくに説明は要らない、ローズ、イランイラン、バイオレット、ムスク…ってどフランスな、普遍的なパウダリーフローラル・アルデヒドになるんですよ。調香はクーロス(1981)、クールウォーター(1988)など社会現象級の作品を生み出してきた巨匠ピエール・ブルドン。最近では後でご紹介するパルファン・ロジーヌの新作、マグノリア・ド・ロジーヌを手掛けています。これ50ミリで165€、タンドネージュの倍近いです。
 
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2000年に創業したフレデリック・マルは、2014年11月のプレスリリースでエスティローダーが買収契約を発表、2015年1月に買収完了し、現在はエスティローダーの一ブランドとして展開しているメインストリームのブランドです。販路は相変わらず絞って販売されていますので、見た感じ買収前とあまり変わっていない感じもありますが、新商品に調香師の名前が登場しないものや、マルちゃんはメゾン系ではもともと色々アイテム展開している方でしたが、フレグランスは手が出ない消費者もフレデリックマル製品を使える贅沢が味わえるように、というアメリカの良心なのか、ルームフレグランスなどホームケア製品やボディケア商品のバリエーションが俄然増えました。石鹸1個100g30ユーロは高すぎると思いますけど。f:id:Tanu_LPT:20180529224440j:image
メジャー系ニッチブランド、というのも語弊がありますが、トムフォードは最初からエスティローダー系だし、フレデリック・マルをはじめバイキリアン、ルラボ、ジョー・マローンも今やローダーの一ブランドに過ぎないんですよ。資金が流入すれば、そこに自由はないのは仕方なくて、小さく生んで大きく育てて、良く太ったところで売りに出すのが最終目標の経営者も世の中にはいるから、同時に魂も売る事にはなりますが、必ずしもブランド側にとっては買収は悪い話でもないんですね。消費者にとって独創的なコンセプトに見えても、世界企業の看板では実現出来ない機能を担う一器官として利益を生んでいくわけですが、買収しても予算実績に叶う採算ベースに乗らなければ、次に待っているのは不採算部門の整理です。諸行無常ですね。
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ところで、時間のある方は是非公式サイトのQ&A with Frederic Malle、通称「マルちゃんに何でも聞いてみよう」を見てください。結構面白いです。買収前はヒット作ムスクラバジューに関する質問が殺到していて「ムスク・ラバジューを会社につけていっても大丈夫ですか」「ムスク・ラバジューをぼんのくぼにつけても大丈夫ですか」「ムスク・ラバジューは男がつけても大丈夫ですか」と、別にムスク・ラバジューはさほど難易度の高くないアンバーバニラなのに、みんな社長の一押しが欲しい驚きの質問ばかりで、それを逐一載せてるのも面白かったですが、ローダーに買収されてから結構ありきたりのQ&Aに整理縮小したものの、それでも昔からある「私が何年も愛用している香りを、新しいパートナーが嫌がる。香りを変えた方がいいでしょうか」という、特定のフレデリックマル製品も上げてるわけでもないのに、かなりの字数でフレデリック・マルが「生協の白石さん」ばりに回答していて「マルちゃんに何でも聞いてみよう」の真骨頂的質問が削除されていないのは嬉しいです。
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