La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Melodie de L`Amour (2015)

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何もない部屋に咲く一輪の花のように、私はあなたを想っています
                     -モントリー・ウマヴィジャニ
 
パルファム・ドゥシタは、オーナー調香師、ピサラ・ウマヴィジャニがクラシック香水愛好家であるというのもあって、初出3作を往年の名香よろしくパルファム濃度で発表し、その中で最も話題になったのが2017年のアート&オルファクション・アーティザン・アワード*を受賞したメロディ・ド・ラムールです。
 
立ち上がりには、カロリー控えめで大変柔らかなチュベローズ、ガーデニアがそこはかとない苦みと共に広がります。ほどなくピーチやココナッツのような、安心感のあるジューシーなとろみがチュベローズ・ガーデニア・ジャスミンにオーバーラップしていきます。150ものホワイトフローラル系香料をハニーノートで束ねた香りが肌に落ち着いてからは殆ど展開がなく、最初の印象がフェードアウトしていくところが現代的といえましょう。
 
「愛のメロディ」というこちらが照れてしまう程の名を持つ香りでありながら、この香りの意図する愛とは、内包する深い愛がなくては生まれない、頬をなでる意図せぬ微風のように自然な優しさの調べ、のように思えます。そういう意味では、主軸にチュベローズを好んで用いたアニック・グタールの初期作品(パッションやウール・エクスキースなど)を彷彿させるものがありますが、グタール作品の方が内包する情熱が激しい一方で、上座部仏教国・タイの血が流れるピサラ・ウマビジャニの表現は、より東洋のDNAが影響しているのか、同じ東洋人の端くれである日本人にとって、無意識に共感しやすいエレメントが多いと思います。
 
非常に肌なじみが良く、肌が自ら香るような一体感が味わえるメロディ・ド・ラムールは、軸となるチュベローズ、ガーデニア、ジャスミンといった”俺が俺が”になりやすいホワイトフローラル群の主張に抑制を利かせ、穏やかに香るので、チュベローズ系の強香が好きだけれど、主張しすぎて悪目立ちするのが苦手、という方には非常にお奨めできる1本です。一方パルファムとしては持続が弱く、消え入り方がシームレスで、朝つけて一日楽しめるという押しはなく、朝つけて夕方にはつけた事を忘れる程度なので、濃いめのEDP位、と考えた方がよいでしょう。よく思いますが、日本人は欧米人ほど香りの持続性を重要視していないし、むしろメロディ・ド・ラムールのような美しいフェイドアウトは歓迎に値するのではないでしょうか。昨今のメインストリーム系的な傾向が増してきた近作ではなく、80年代から90年代初頭にかけて、調香師の思いがパーソナルな想いが凝縮された時代のアニック・グタールが好きだったけれど、最近同じようなバイブレーションを感じる作品が世の中に少なく、物足りなく感じていたフローラル好きの方には特におすすめです。
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メロディ・ド・ラムール パルファム 50ml
 
 


今春ミラノで開催されたメゾンフレグランスの見本市、Esxence 2017で公開された、ブランドの公式ビデオ。連載の最終日にご紹介する新作2点を説明しています。個人的に、ピサラさんはお姿も勿論お美しいですが、なにより彼女の声が気取りがなくて大好きです。最近どっかで見かけたインタビューでは、アトリエに取材で来た方に、テフロンのフライパンでパッタイ作ってあげている写真が載っていました。いいなあパッタイ

 
アート&オルファクション・アーティザン・アワード2017…2012年にLAで創立した、香りに関する啓蒙活動を行う非営利団体、ジ・インスティテュート・フォー・アート&オルファクションが毎年5月に選定する賞で、対象別にアーティザン部門・インディペンデント部門・サダキチアワード部門・業界貢献賞と計4部門あり、うちアーティザン・アワード2017は2016年に発売された、オーナー調香師のブランド、または共同経営者が調香師である独立系ブランドから2016年に発売された作品から選定された10作品から2作品が受賞する。独立系であること、調香を自社で行っているという点にフォーカスした賞で、制作者の知名度、製品の価格帯などは度外視。ちなみにもう一つのアーティザン・アワード受賞者は、アメリカのインディ・ブランド、SIXTEEN92のブルーズ・バイオレットで、パルファム・ドゥシータと比べて価格帯が桁ひとつ違う(プレミアム版6ml14USドル、EDP版7.5ml20ドルから)。