La Parfumerie Tanu

The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes

Issara & Oudh Infini (2015)

Issara (2015)

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かつてその木が居たここは、今や太古から降り注ぐ雨を逃れる場となった
                     -モントリー・ウマヴィジャニ
 
独学で調香を学んだピサラさんが最初にドゥシタ作品として作り上げたのが、タイ語で「自由」を意味するイッサラです。
 
瑞々しい生木や新緑の松葉から立ち昇る、胸を洗うような清浄感に始まる立ち上がりは、時の経過により徐々に表情を豊かにする、日本人にはなじみの深い桜の葉の香りー花散らしの嵐に遭った後の八重桜のようなクマリン香と、ベチバーのセミマットな甘さに、くぐもったタバコノートとオークモスの層が折り重なっていて、終始のびのびとした穏やかな印象のアロマティック・ウッディです。
 
どちらかというと女性向きのユニセックス系ですが、メロディ・ド・ラムールと同様、非常に抑制の利いた香り立ちで、肌に鼻を近づけるとしっかり香りが残っていても、敢えて立ち上がらずに、接近戦用に処方されたのではと憶測する位、拡散しないのが特徴です。ひんやりした滑らかさが終始漂い、ラストはふんわりとやさしいムスクが香ります。
 
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イッサラ パルファム 50ml

Oudh Infini (2015)
 

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夢に遊ぶなと人は言う。だが、夢なくして人生は何になろう?
                   -モントリー・ウマヴィジャニ
 
 
「無限なるウード」を意味するウード・アンフィニは、エキストレ三部作の中でもウードの名を冠するに値する、最もパワフルな仕上がりですが、ウードというよりもそれを勝るシベットのアニマリックなトーンに圧倒されます。このご時世、こんなにアニマリックな香りを新作として嗅いだ記憶がありません。
 
立ち上がりは、まるで動物園のケージに放り込まれたような、または毛の生えた動物を生きたまま襟巻にした気分になります。このアニマリック感は結構長く続きますが、落ち着くと、ローズドメやオレンジフラワーが花開き、マダガスカルバニラとドライであたたかなムスクに包まれ、やはりウードというよりは70年代後半から80年代半ばに台頭しながらも衰退した、ラニュイ、パルファンドポー、オリジナル版ダリといった一連のアニマリック・シプレ、しかもそれらのヴィンテージ版パルファムの香りが、脳裏に走馬灯のように浮かんでは消えます。
 
香りの底力も強く、サンプルアトマイザーの4プッシュ、つまりフルボトルなら2プッシュ程度の量で一日しっかり香り、下半身から立ちのぼってくる、動物性ムスク感たっぷりの香気が、どんどんスタイリッシュに、エレガントになる美しい経時変化が楽しめます。しかも、これだけパワフルに香りながら、シャージュが穏やかで消え入り方がナチュラルなのは、このブランドの特徴といえましょう。
 
日常使いにはハードルが少々高いかもしれませんが、もし改まった席への参加や正装する機会があるなら、この位しっかりした香りをつけると、少々の事には動じなくなる、心の支えになる気がしますし、引力の強い香りなので、もし私がその場に居合わせたら、必ず今何をつけているか尋ねると思います。取扱店ではユニセックス系~メンズ系と紹介されている事が多いウード・アンフィニですが、日本の男性には相当の経験値が必要と思われる一方で、女性には相当女っぷりをあげる強力な武器になると思います。
 
名前に反しウー度は低いので、ウードフレグランスを何か、という方には決めの1本にはならないと思いますが、クラシック香水でしか味わえないリアルなアニマリック感のある、オリエンタル・シプレを新作で探したい方にはお奨めの秀作だと思いますし、3部作の中では受賞作であるメロディ・ド・ラムールばかりが話題に上るパルファム・ドゥシタですが、個人的にはこの作品が一番満足度が高かったです。
 
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ウード・アンフィニ 50ml