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Parfum No.1 (1999) revised review

Dedication Festival for Master Perfumer Guy Robert 5 : The Last Creation

Parfum No.1 / The Pink Room 1999

f:id:Tanu_LPT:20180828103544j:plainロベール師最後の作品は、世界的ファッションブランド向けでもなく、中東の富豪向けでもなく、かつてロンドンにあった小さなブティックのオリジナル香水でした。依頼主は、セーラ・バートン=キングという、現在はニューヨーク在住のイギリス人デザイナーで、オープニングビデオにも登場した写真のこの方ですね。ビデオのラストに出てくる短い詩が、セーラさんがロベール師に依頼した内容の要約だったんですが、ロベール師に調香を依頼した際「うちにいらっしゃい」と言われて、パリまで飛んだセーラさんが、ロベール師のお庭で撮った写真がこれで、お二人が映っている写真はセーラさんご自身から送っていただいたものです。パルファムNo.1のフルボトルに入っている小さなメモ(写真、ボトル上)にはこう書かれています。 

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ロベール師のご自宅にて撮影 セーラ・バートン=キングさん(右)謹呈

『静かで、ソフトで、シルキーで、魅力的で、パワフルな香り-セーラ・バートン=キングは、ギィ・ロベールにこのような内容で香水を依頼した

”マルセル・プルーストが彼のおばさんと共に庭でお茶をしている午後4時ごろを想像してください
陽の光がぐっとやわらぎ、オールドローズのブーケが香り立つ時間
決してくどくならない甘さの秘訣はライムのアクセント、ベルガモットとジャスミンがメロウな豊かさをもたらすそばに、バイオレットを少しだけ”

ギィは天才だから、間違いなくしばらくの間、マルセル・プルーストになってくれた』

ロベール師はセーラさんの「マルセル・プルーストになってくれ」という依頼文が非常に気に入ったそうで「今まで受けた最高の依頼だよ。これまで、ビッグなブランドの為に香りをデザインするよう言われるだけだったけれど、今回の依頼は心と心の触れ合いだね。君のおかげで僕はマルセル・プルーストになっちゃったよ」と、喜んで作ってくれたんだそうです。

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20世紀の大作「失われた時を求めて」の作者であるプルースト(写真)ですが、プルースト自身はブルジョワのボンボンで喘息持ちのゲイで、男娼宿の開業資金を提供するほどの人物だったので、ロベール師のどの辺がプルーストになっちゃったのかは不明ですが、まあ「失われた時を求めて」の重要なモチーフである「無意識的記憶」、知らず知らずのうちに刻まれた記憶を何かのきっかけで鮮明に取り戻し、言葉や形にしていくようなイメージだったのかもしれませんが、出来上がった香りは、なかなかの小物感ですよね?フランス産の天然香料にこだわって作ってもらったそうですが、あえてこの「小物感」を前面に出したのか、香料同士の複雑な絡み合いがなく、全体的にざっくりしたハンドメイド香水風の仕上がりとなっていて、これは御大73歳の大団円としては驚くほどシンプルです。王道フローラルが「今ここで混ぜました」風に香り、その後じんわり、でも微妙にまろやかではないフローラルなバニラムスクに着地して、あっさり消えずに結構長々と香るところは匠の技ですね。

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これから日が暮れる、沈み始めの陽光がもたらす逆光の中に香る庭園の寛ぎ、という絵画のイメージで、確かにセーラさんの依頼内容と完全に一致しています。シンプルでレトロ、クラシックというよりはレトロな「フランス香水」を、名もなき一個人のブティックとそのオーナー婦人の為に作った、名声を脇に置いた「こころの作品」を残して調香師人生を締め括られたのは、潔しと染み入ります。

かつてはニューヨーク高島屋、LuckyscentやFirst in Fragranceなどのハイエンド香水店、高級エステサロンなどに販路のあったParfum No.1ですが、現在はThe Pink Roomの公式サイトでのみ入手可能です。日本へも発送対応してくれて、ご紹介したEDP50mlの他にロールオンサイズ10ml、ダスティングパウダーやソープなどのバスラインも揃っていて、今回キャバレーの為にEDPを入手した時も、セーラさんご自身が直筆のカードと共に沢山の思い出話と共に発送してくださいました。

The Pink Room公式サイト

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