La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Havoc (1974) / Gucci pour Homme (1976) / Dioressence (1979) new & revised reviews

Dedication Festival for Master Perfumer Guy Robert 3 : 1970's

Havoc / Mary Quant 1974

マリークワントの化粧品といえば、昭和の時代に尖がった女の子が持つステイタスコスメという印象があり、かつてはデパートの化粧品売り場ではなく雑貨やアクセサリー売り場の端っこにわざわざブースを設けて販売していた記憶がありますが、元々は1970年から本国イギリスのマリークワント製品をライセンス販売していた会社、マリークワントコスメチックスジャパンが、1991年にはイギリスのマリークワントの株式を取得、2年後には全世界の販売権を取得し、1994年にはロンドン店をオープンするという、立派な日本のコスメブランドなんですね。猛烈ビッグインジャパンでした、知ってました?ファッションデザイナーとしてのマリークワント自体のピークはミニスカートで一斉風靡した1960年代なので、コスメだけが何故か日本でガラパゴス化して発展したわけです。

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ハヴォック 発売当時の広告。アメリカでも販売された

マリークワントが日本の会社になる前、本国イギリスではティーンズ向けコスメブランドとして、P&Gがライセンスでフレグランスも製造していたようですが、なんとロベール師が処方担当したブランド初の香水が、このハヴォックです。1974年から80年代前半までイギリスで販売されていて、アメリカにも進出したハヴォックですが、当時から銀色のアルミ缶に入っていたティーンズ向け商品で、香りとしてはリブゴーシュやカランドル系のグリーンフローラルアルデヒドですね。ボトルもアルミ缶な所が、当時の大ヒット作、リブゴーシュをバリバリ意識しています。名調香師でも、仕事の依頼が来たら予算内でやらなきゃなりません。ハヴォックとは英語で「どんちゃん騒ぎ」とか「大混乱」という意味で、これまで手掛けていたエレガンス路線が台無しですね。

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しゅーーーーーーーっ

80年代前半には自然消滅したはずのハヴォックですが、これもなぜかインドで継続販売されています。メンズ版もあって、ペアフレグランスですよ。製造は、P&Gからライセンス委託を受けたオランダの会社、Ylang Internationalで、販路はインドです。オランダ東インド会社でしょうか。香水というよりは、ボディスプレーですよね。エアゾールなんでシューっと出ます、シューっ。クオリティとしては殺虫剤ギリギリですが、このケミカルな感じがマリークワントというブランドに良く合っています。インドから送料込みで2500円位でした。

 

Gucci pour Homme/ Gucci 1976

このグッチ・プールオムは、ロベール師がグッチの為に初めて作ったメンズフレグランスです。ミシェル・アルメラックが作った2003年版グッチ・プールオムとは違う香りです。2017年10月「イカすジェントルマン」で紹介しましたが、先ほどのグッチNo.1(1974)のペアフレグランスで、イタリアン・フレグランスに特徴的な、70年代らしい劇画調のウッディ・シトラスシプレです。もちろん三つ揃えのキツキツぴっちぴちで、腕毛も胸毛もシャツの隙間から噴き出してる感じです。これもグッチ側のリクエストに対し、真摯に応えて毛が生えたんだと思います。濃ゆいですね~。正直、くどい。

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ところでグッチは、NHK特集が1本出来て本が一冊出てしまうような壮絶なお家騒動が80年代にあって、その結果業績も低迷し、この時代のフレグランスも一挙廃番になり、トムフォードとか呼んできてV字回復して今に繋がるわけですが、イタリアは日本と地質が似ていて、地震も来れば津波も来ますが、日本と違うところは、津波や地震に襲われた場所は、日本だと一生懸命復興していくでしょ?イタリアは、復興するのではなく被害に遭ったところを根こそぎ捨てちゃうんです。イタリアの海岸沿いには、津波で削られたまま放置された地域が沢山あると聞きます。そこ、人住んでたんですよね?シチリアには、巨大地震で壊滅的な被害を受けた後、市民が街を捨て、現在の場所に街を一から作り直したラグーザが世界遺産に登録されていたりしますが、イタリアのフレグランスブランドは、親会社が変わったとか、折々の事情があると、グッチやフェンディみたいに過去の作品を一斉に廃番にして、更地からやり直すところが目につきます。フランスのブランドが定期的にアーカイヴを蘇らせて温故知新する一方で、同じ名前で全く違う香りを出して来たり、いとも簡単に過去のアーカイブを捨てる。その根っこのない更地感が、少なくともフレグランスに関して一流感を醸し出せない原因の一つに感じます。

 

Dioressence / Dior 1979

ロベール師がディオールの依頼で制作した唯一の作品、ディオレッセンスです。パルファン・クリスチャン・ディオールは、シャネルやゲランに並んで人気のブランドですが、ヨーロッパでは、シャネルとディオールはみんな普通に好きで一目置いていて、シャネルかディオールなら間違いない的な空気を、何度も現場で体感しましたが、今どこのファッションブランドも一般品と販路限定のコレクション品、そのまた限定品と、松竹梅の価格分けをしてますよね?ディオールも、メゾン・クリスチャン・ディオールのシリーズを出して、オンラインと都内2か所だけで販売していますが、1970年代当時はそんなあざとい商売はしてなくて、数年に一度出る新作が、前作より高いラインか安いラインか、という感じでした。ディオールに限らずどこのブランドだって、今みたいに1個新作出した後延々とドジョウを出すとか、プレステージラインをボコボコ出すのではなく、1作1作を大事に何年も売りつないでいました。

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ディオレッセンスの広告 見開き2ページものですね

そういう時代の新作としてディオール側がロベール師に依頼したディオレッセンスは「官能的でアニマリックな、野性的な香りをお願いします」だったそうで、キャッチコピーもそのまま「ル・パルファン・バルバール」、この広告の通りですね。ただ今この香りを嗅ぐと、野性的というよりはむしろ抑制が利いて、スタイリッシュなオリエンタル寄りのフルーティシプレに感じますし、甘さがなくて少し物憂げなところがアンニュイですね。肌に乗せると、じわじわ、ふんわり、パウダリーでコクのある香りが広がって、たまらなく良い香りです。これもグッチ№1と同じく、こういう雰囲気の女性がもういない、絶滅種の1つだと思います。ちなみに、ディオレッセンスの次に出たディオールのレディスものってなんだったと思います?1985年。プワゾンです。6年で時代が物凄く進んで、そこらじゅう肩パッドバリバリ、逆毛でモリモリメイクの女性だらけになってしまって、香りの流行も暑苦しいのばっかり、ココ、ジョルジオ、パリ、プワゾン。その後の香水ヘイトを大量に生み出してしまいます。

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ディオレッセンス ~1980年代前半流通品(パッケージにバーコードなし)



 

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