La Parfumerie Tanu

- The Olfactory Amphitheatre -

- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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Chanel pour Monsieur(1955) EDT

A Gentleman Takes Polaroids chapter seven : Monsieur, Monsieur, Gentleman
 
立ち上がり:シトラス系の香り。上品な感じで私には似合わないけど似合う人がつければ良い感じだろうな。
 
昼:むう・・・・・ほとんどつけたんだがつけてないんだが判らなくなった
 
15時位:昼に食べたネギの臭いに押されてるぞ。どこ行った?
 
夕方:おーい!どーこーに行きましたかー・・・・・そのまま行方知れず そのまま行方不明
 
良い香りなんですが持続力がない感じです。
 
ポラロイドに映ったのは:クラス替え当初だけ元気で一瞬人気者になりかけるが夏休み明けから不登校になっちゃう奴。具体名は差しさわりがあるので出せません。
 
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プールムッシュウ EDT 100ml そのまま行方不明
Tanu's Tip :
 
シャネルが5番(1921)を皮切りに香水を発売するようになって間もなく100年になりますが、メンズフレグランスに着手したのは5番から下る事34年、専属調香師がアンリ・ロベール(1899-1987、専属期間1953-1978)になってからになります。アンリ・ロベールと言えば巨匠・ギィ・ロベール師のおじさんに当たる方ですが、手掛けた香りの数は少ないものの、いずれも深く、ぐりぐりと香水史に名を刻むものばかりで、先月「冬のジェントルマン」でもご紹介したドルセーのル・ダンディ(1925)オリジナル版(注)をはじめ、コティのミュゲドボワ(1941)、そしてシャネルの専属調香師として手掛けた3作、今回ご紹介するプールムッシュウ(1955)、19番(1971)、クリスタルEDT(1974)と、アンリ・ロベールが手掛けたこの5作はすべて名香として、香水評論の場には必ず登場します。
大ロベール師のシャネル3作品に共通するのは、石清水のように透き通った、中性的ともいえるグリーンフローラルノートとオークモス。そこにシトラスとシプレのさじ加減を絶妙に変えてマニッシュにも、フェミニンにも表情を豊かにしていく匠の仕事です。プールムッシュウは、3作品の中でも殊のほか「人柄の良さ」を感じる逸品で、ジューシーでフレッシュなシトラスからふわり、ふわりと温かみと渋みの現れる、上品なシトラスシプレです。決して声を荒げない、手を挙げない、しかしそれは弱さではなく人柄の良さなしでは叶わない知的な穏やかさで、もし戦前にエルネスト・ボーがメンズを手掛けていたらこうはいかなかったのでは、と思う程で、実のところ(特に戦前の)シャネルのレディスとはペアフレグランスとしてあまり成り立っていない感があります。シャネルは既発品と共にプールムッシュウからクリスタルのたった3本で20年間をつないでいくわけですが、シャネル第2のメンズがアンテウス(1981、ジャック・ポルジュ作)、ジャック・ポルジュ期初のレディスがココ(1984)ですから、時代性もありますがこの20年間はシャネルほぼ100年の歴史において「例外期」と言えなくもありません。
プールムッシュウは30余年後、リッチなバージョンとしてコンセントレ(1989、ジャック・ポルジュ)、のちに2016年オードパルファムが発売されましたが、せっかくの淡麗美に胸毛を生やしてニヤニヤさせたみたいで、個人的にはこの淡口なムッシュウが好ましいのですが、ジェントルマンの肌に乗せるとどうも持ちが悪いようで、この淡口な魅力がつかみきれないのか、知的なムッシュウは残念ながらあっという間に行方知れず、そのまま行方不明。持続の弱さはクラシックなシトラスシプレの宿命、そこがまたつけ飽きない魅力として、頻繁にタイムレス・フレグランスとして名が挙がる所以と言えましょう。どっとはらい。
 
 
注)先月ご紹介した2009年版ル・ダンディの調香はドミニク・プレッサの再処方で、オリジナルとはだいぶ趣が違うとのコメントあり:
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