La Parfumerie Tanu

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- The Essential Guide to Classic and Modern Classic Perfumes -

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London Calling 2 : London Perfumeries Guide | Bloom Perfumery |

モスクワ出身のオクサナ店長が金融を学ぶために留学生としてロンドンにやってきたのがきっかけで、5年前の2012年8月にオープンしたブルーム・パフューマリー。フォートナム&メイソンに長居をしてしまい、取材アポイントの時間に遅れてしまいましたが、ちゃんと待っていてくれました。

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待ってたわよ、タヌ!
オクサナ「タヌって、タヌキのタヌ?」
- そうです、良くご存じで。
オクサナ「東京には行ったことあるわよ」
- へえ、そうですか。東京はロシアの方にも人気です。
オクサナ「東京のどこから来たの?表参道?」
- まさか。練馬です。
オクサナ「今年の夏FUDGEに取材されたの。はいこれ」
- お、海外取材に力を入れてるカジュアル誌ですか。日本からの取材はLPTが初めてじゃなかったんですね。先を越されました。

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入口から正面(左)と店内右は化粧品棚(右)
一見、ラグジュアリーフレグランスとは縁のなさそうな、愛想も小磯もないボーイッシュなオクサナ店長は、話し出すと止まらない真性香水マニア。知識の塊のような方で、ちょっと話を突っ込むと、すぐに原料まで話がいってしまうので、香りは詳しくないけれど、流行りのとか似合うのとかモテる香りを選んでほしい…という軽い気持ちでは行かない方がいいお店です。そういう方はデパートの化粧品売り場やブーツの大型店にお出かけください。ビジネスというよりは香水熱が高じて自然発生的に店舗の形態になったような、同じメゾン系でもラグジュアリーというよりはアノラック的空気の漂う店長及び店内。店内も打ちっ放しの倉庫にネオンライトを張り巡らせた、どこか実験室のような雰囲気です。

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接客中の店長。他の2店と違い、伝統と格式、あるいはスタイリッシュな高級志向とは一線を画した独自のこだわりで品揃えをしています。最近のメゾンブランド中心ですが、大手が手をつけない、伝統の調香方法に則った香調を大事にしていたり、クラシックな空気感のある作品を輩出しているブランドも結構あるそうで、その中からオクサナ店長お奨めのブランドとモダンクラシックな香りを紹介していただきました。取扱商品の価格帯は全般的に他2店より低めで、若干玉石混淆気味ではありましたが、ハイエンドなものだけでなく、手に届きやすい価格帯からも意外性のあるもの、こだわりの作品をチョイスしている感じのセレクションでした。
 
・アーキスト(Arquiste)
「時間旅行で出会った空気感を香りにしているコンセプトで、香料一つ一つにこだわりをもって丁寧な作品作りをしているアメリカのブランドよ。香りもクラシックテイストのものが多く、アーキストはLPTに一番のおすすめブランドよ」建築家出身のメキシカン、カルロス・フーバー氏が2011年に立ち上げ、腕利き調香師ロドリゴ・フロール=ルーとヤン・ヴァスニエのタンデムチームに依頼し制作しているメゾンブランドで、現在12種類のラインナップと5種類のコラボレーション作品があります。アメリカのブランドなので北米拠点が充実していますが、欧州ではイタリアに強く、他にはブルームをはじめ各国の要所には進出できています。日本にも2014年に上陸していますが、発売当初はブランドオーナーがイケメンだったこともあり、女性ジャーナリストが香りの詳細というよりコンセプトやオーナー自身を熱心に紹介し、プロモーションも芸能人を招待した高額なディナーパーティ形式だったりとブランドの魅力が正攻法で伝わってこなかったので、完全スルーだったこのブランドの香りを、まさかロンドンで3年も経ってイチオシされるとは思いませんでした。しかも結構いい線行ってたりして。やはり色々な意味で売り手がイメージ戦略を見誤るといいものも根付かない日本の香水市場の影みたいなものを異国の地で観た感があり、勿体なかったなと思いました。今は細々とトゥモローランドなど都内セレクトショップやホテルのブティック等で一部製品が販売されているのみで、しかも結構欠品が多く、既に撤退の予感がしますが、現在絶滅の危機に瀕している香調や、無理してない良い香りが色々揃っているので、手遅れにならないうちに何とかしてほしいものです。
 
オクサナさんが千本ノックの勢いでバンバンムエットに香りを吹いては試香させてくれるので、必死にムエットへ名前書きをしていたら「いいわよ書かないで。あとで気に入ったものなんでも小分けしてあげるから」と言ってくれたので、ご厚意に甘えたものをご紹介します。スパシーバ、オクサナ!
 
フロール・イ・カント(2012)
ルガリオンのコローニュ兄弟も手掛けた売れっ子ロドリゴ・フロール=ルー調香、アーキスト作品は殆どこの人が手がけている。1400年8月のメキシコをイメージ。グリーンをブレンドしたチュベローズ系ホワイトフローラル。バランスがよくチュベローズが適度に主張、グリーンが適度に爽やか、フランジパニなどのトロピカルなホワイトフローラルが適度に女性らしさをアピールしている…って、80年代アニック・グタールの代表作路線かな?パッション、チュベローズ、ガーデニアパッション辺りがお好きな方にお奨め。
 
ナンバン(2015)
ドロリゴ・フロール=ローとヤン・ヴァスニエの共同調香。1618年1月、太平洋に臨む日本の大型帆船をイメージ。想像猛々しい。御朱印船のイメージでしょうか。この約20年後から日本は鎖国スタート。それはさておきナンバンは南蛮渡来の「南蛮」に由来する。豊潤な材木系サンダルウッド、ビャクダンと呼びたい良い香り。サンダルウッドをテーマにした香りはごまんとあるが、結構いい線行っている方。マイソール産サンダルウッドのクリーミーな香りを作りたくてココナッツみたいになってる残念なサンダルウッドより、あえて違うものを寄木にして、サンダルウッド「風」に仕上げた結果オーライの好事例。
 
フルール・ド・ルイ(2012)
ロドリゴ・フロール=ロー調香。1660年6月、バスク地方のフランスとスペイン国境をイメージ。第一印象は、80年代爆香系台頭前には普通に生息していた顔面蒼白美少女系グリーンフローラル。特にオードフルール(ニナリッチ)を彷彿する、清楚なスズランやネロリを感じる。しかも香り長持ち。意外にこういう路線の香りは絶滅危惧種でニッチ系でも中々リバイバルしてこないため、昭和のニナリッチがお好きだった方には朗報です。
 
 ・イマジナリー・オーサーズ(Imaginary Authers)
2012年、調香師ジョッシュ・メイヤーとクリエイティブ・ディレクターのアショド・サイモニアンがオレゴン州ポートランドで創業したアメリカのインディ香水ブランド。ブランド名の通り「架空の作家が」綴る決め文句の世界観を、キーノートとなる天然香料を軸に香りへ仕立てるというオーナーの妄想特急コンセプトで、微妙に小劇場っぽいところが学芸会臭くて好き嫌いを分けると思いますが、ブルームでは推してるブランドみたいです。価格もニッチ物の中では値頃な50ml90£(≒13,500円)から。ブルームのベストセラー、メモワール・オブ・ア・トレスパサー(或る侵入者の記憶)のサンプルを頂きました。
 
メモワール・オブ・ア・トレスパサー(2012)
アメリカ人はチョコとバニラが大好き。信じられない位好きで、先日プロテインを安く買うためアメリカの健康食品通販サイトで探したら、もう120%バニラかチョコ味しかない。バナナもストロベリーもないものと思った方がいい。そんなわけで或る侵入者の記憶も当然バニラ。マダガスカル産天然バニラオイル使用、しかもどこか焦げている。ストーブで炙りすぎたマシュマロか?立ち上がりに一瞬シトラスを感じるが、それはたぶん記憶違い。最初から最後まで緩急なくスモーキーなバニラが漂う。少し薬臭いのはミルラのせいか。ナチュラルなバニラものを探しているがありがちな甘いのは苦手で、ちょっと斜めってる方が好きという方にお奨め。パッケージも中二病っぽい。
 
猛烈な勢いで香りをスプレィしたムエットを渡してくれるオクサナ店長、他にはベロプロフーモなど、どいつもこいつも濃ゆいのばっかり15分で30本はいったかな…途中、鼻がしびれてきたので話題を変えました。
- オクサナ店長が最近お気に入りの香りを教えて下さい。
オクサナ「断然レザーノートね!中でもイギリスの新しいブランド、ビューフォートのクールドノワールはお気に入りよ」
- そうですか。じゃせっかくなので、お気に入りのボトルとツーショットを撮らせてくださいよ。
「もちろんよ!」

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と、ボトルを抱えた瞬間、光量5割増の笑顔でポーズしてくれました。
 
・ビューフォート(Beaufort)
2015年、ミュージシャン兼作家であるレオ・クラブツリーが創設したイギリスのメゾンフレグランスブランドで、英国の史実に基づいたストーリーにインスパイアされた香りをコンセプトにしている…って、なんかそういうストーリーテラー的コンセプトに惹かれるのか、英国の地域限定ではありあますが、アーキストもビューフォートも歴史の語り部的コンセプトがウリ。ちなみにBeauFortとは、フランス語のボーフォールではなく、風速のスケールであるビューフォート風力階級に由来、ブランドロゴも風力記号です。50ml95ポンドと、ニッチ系にしては良心価格。2016年発売のFathom Vがアート&オルファクション・アワード2017年独立系*ブランド賞(自社に調香師及び製造拠点を持たず、製造及び調香を外注委託している独立系ブランド)を受賞した事から、海外香水コミュニティでも俄然話題となった。英国及び極東に製造拠点を持つフェニックス・フレグランス社がOEM製造。
 
クール・ド・ノワール(2015)
ぶふぇっっ!!ハードコアなスモーキーレザーノート。喫煙OK時代なタクシーの、後部座席に乗ってしまった瞬間が蘇る猛烈なタール臭で乗り物酔いしそう。彼女には似合っているけど、こなせないなあ…とにかくパンチの利いた、今ついさっきまで何かが燃えていたいぶされ感が好きな方にお奨め。メーカーサンプル2本くれたので、連載最終日のプレゼントコーナーで放出します。
 

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バニラパック。出来のいいもの、悪いもの…松竹梅鶴亀狸のバニラ満喫
今回取材した他の2店との1番の違いは、販売しているボトルの小分けをその場で販売していることで、ポリプロピレンアトマイザーに1mlほど入った小分けは2ポンドから。お客様のオーダーにその場で小分けアトマイザーをサクサク作ってくれます。高級なボトルでも小分けなら手が届くし、興味のある香りでもいきなりボトル買いは常にギャンブルが付きまとうリスクを逆手に取った、まさにニッチなビジネスですね。ブランドにとっても考えようによっては広告費のかからない絶好のプロモーションになりますからね。また、小分け香水の年間購読もおこなっており、ジャンル別、香料別など多岐にわたるテーマで1年間メゾンフレグランスをお得に試せるのも楽しいサービスです。オンラインショップ上では年間購読は残念ながら画面上では日本発送未対応ですが、サンプルパック単体なら送料22ポンドで対応。「フルボトルをロンドンから発送する場合、危険物取扱資格のある特殊な国際配送業者を使用しなければならず、送料も非常に高くなってしまうけれど、小分けしたものはその限りではないから、欲しいものがあったらメールで連絡ちょうだい」とのこと。このバニラパックもせっかく来てくれたし送料はオマケよ、とサービス満点、購入した受注販売のバニラパックは30ポンドポッキリで小分け13種、香水原料5種のバニラましましジャンボリーで、帰国後私を追いかけるかのように1週間もせずに届きました。ハラーショ、オクサナ!
 
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