La Parfumerie Tanu

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London Calling part 1 : Magical Mystery Tour with The Brookes 2

公共交通機関使い倒し!天下無敵の「グロスミス・カード」で行く、グロスミスゆかりの地ローラー探訪(後編)
 
ルート⑤パターノスタースクエア/ニューゲート・ストリート
 

f:id:Tanu_LPT:20171105152127j:plain  この一角にかつて社屋を構えていたグロスミス社

いよいよ、グロスミス社が19世紀居を構え、一世を風靡した社屋のあったニューゲート・ストリート~パターノスタースクエア周辺に来ました。隣には金融の中心、シティ・オブ・ロンドンが控えるパターノスタースクエアは、再開発が進み現代的な広場になっています。サイモンさんに、グロスミス前のご職業についてお伺いしました。

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背後にセントポール寺院を望む、パターノスタースクエア。中央は
ロンドン大火(1666.9.2-5)記念塔、ザ・フレイミング・オーブ・モニュメント

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「あった!」ご自分の名前を見つけてご満悦のサイモンさん。日本で言ったら弘、茂的よくある名前だし
サイモン「シティで事業用地専門の不動産業を営み、大きな取引も数多く手がけてきた。建築関係には腕に覚えがある。1960年の英国建築は本当に酷く、粗雑なものだった。シティの再開発にはパターノスター・スクエアなど三菱地所も絡んでいる。シティはウエストエンドと違い、土日はほとんど歩いている人がいなくて静かなエリアだ。
- 東京でいえば兜町のような場所ですね。

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エレナーさんのチームが手掛けた、新旧建築物のコラボレーション
サイモン「ローマ遺跡も数多く残っている地域だ。最近、エレナーが勤務先で遺跡と現代建築のコラボレーションを手掛けた。新旧建築物のコントラストが面白い。自分が事業用地の専門で、今娘が建築デザインへの道に進み、現代的なビルのデザインを手掛けるチームで頑張っているのを見ると、親子2代で同じエリア、同じフィールドで活躍できることは嬉しい。自分はシティで頑張ってきたので懐かしい場所だ」
- 確かに、40年以上社会経験を積まれてきた中で、グロスミス時代はまだ10年足らずですね。でも、どうして休眠していたグロスミスを復興しようと思ったんですか?」
サイモン「先祖のことを調べていくうちに、どんどん人生の中で比重が大きくなっていったんだ。最初は片手間に、だんだん時間を費やすようになって、そのうち比重が逆転してしまった。だから、現役のうちに取引先をきちんと同僚に引き継いで、仕事を辞めてグロスミス一筋に人生をシフトしたんだ。時々、自分の先祖はグロスミスを復興した事をどう思っているか、今でも時々考えるよ」
 
- クラシックコレクションをはじめとする、素晴らしい香りの数々がもうその答えなんじゃないですか。復刻や新しいコレクション制作に当たっては、必ずや空の上から調香チームに声なき声で、喜んで指導していたと思いますよ。ところで、お嬢さんがたは、お父さんがグロスミスを復興させると聞いて、当時どう思いました?
ケイト「気でも狂ったかと思った(笑)自分はまだ子供だったから、どういう風にそうなった(サイモンさんが復興を決心した)のかは
当時よく分からなかったけれど、確かになんだか古い香水瓶が家にどんどん増えていったの。ebayでヴィンテージのグロスミスを買いあさっていたんだと、後でわかったわ」
エレナー「私は、新しい世界が始まるようで、見ていてとてもワクワクしたわ!」
 
ルート⑥ギルドホール資料館
 
日本で言ったら、商工会議所の歴史資料館みたいなものでしょうか。ブルック家の先祖探しは、ギルドホール資料館からスタートしたそうで、色々な業界の資料が残っており、グロスミス復興のカギとなった重要ポイントです。
サイモン「ブルック家の先祖についてギルドホール資料館でリサーチしていくうちに、グロスミス家のことにあたった。社会改革主義者である先祖(ジョン・グロスミス)が、香水商も営んで、しかも大変成功していたという事がわかったんだ。リサーチは、途中からプロのリサーチャーに依頼して本格的に調べていった」
- プロのリサーチャーですか。
サイモン「グロスミスの先祖については、まだまだ新たなる発見がある。グラースに自社工場をも持っていたことが最近分かった。グロスミス社は、自社製品を販売するだけでなく、他の香水会社に世界中の香料を販売する輸入貿易業も営んでいた事がわかったんだ」

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ギルドホール資料館そば、市井の人の偉業を称えるポストマンズ・パーク壁面
- 復興当時より、さらにスケールの大きい会社だったという事がどんどんわかってきたんですね。是非新しく発見した偉業を、公式サイトやソーシャルメディアで共有してください。
サイモン「創業当時のグロスミスは、創業者ジョン・グロスミスの妻、ルーシー・エライザの実家であるウィテカー家と共同でトイレタリーを製造していた。ウィテカー家側は主に石鹸、グロスミス家側は香水を製造していたが、そこでもし石鹸の売上のほうが良かったら、ウィテカー&グロスミスという企業名になっていただろう」
- 石鹸側で復興してたら、クラウスポルトっぽいですね。ぜひ今度、クラシック・コレクションの香水石鹸もラインナップに加えてください。よろしくお願いします。
 
ルート⑦オランダ教会

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オランダ教会(左)を脇に歩を進めるサイモンさんとケイトさん
休日のため、閑散としたシティをなおも歩いていくと、サイモンさんが「見せたいものがある」と言うので、見ると路地に古いオランダ教会が残っていました。1550年に建立されて以来、在英オランダ人プロテスタントの心の拠処となっています(イギリスは国教会なので教会は別)。
サイモン「グロスミス家の先祖は、今から300年前、オレンジ公ウィリアムの時代にイギリスへ渡ってきたオランダ人だ。だから君と私の先祖はどこかでつながっているか、いとこ同士かもしれない」
- えっ!今朝お会いした時、曽祖父の話をしましたが、グロスミスとオランダと私…ご先祖様のお計らいに測り知れないものを感じます。ありがとうございます。
 
ルート⑧レドンホール・マーケット

f:id:Tanu_LPT:20171105153111j:plain レドンホール・マーケット入口

お互いの先祖にオランダ人が出てきたところで、いよいよツアーも終盤です。ロンドンで最も古い市場のひとつ、レドンホール・マーケットに到着しました。近くには食肉市場として有名なスミスフィールド・マーケットがあり、スミスフィールドが築地場内ならレドンホールは一般人も購入可能な場外、といった雰囲気でしょうか。

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アーケード内は薄暗く、蛇行している

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食肉店の名残り、畜肉を吊るす鋼鉄のフック
さきの2012年ロンドンオリンピックのマラソンコースに組み入れられたリ、映画「ハリー・ポッターと賢者の石」のロケ地としても有名です。現在は昔の建物を生かし、レトロな飲食店に変わっている区画も多く、あちこちに食肉市場の名残が見られます。
サイモン「ブルック家の父は、レドンホール・マーケットの生肉部門で働いていた。祖父は、海運業を営んでいて、北欧やバルト三国への独占航路まで持っていて、競合他社もおらず大層羽振りが良かったが、第一次大戦時、ドイツ軍に船を全部沈められてしまい、無一文になってしまった。ロンドンに囲っていた愛人とも、金目の切れ目が縁の切れ目でおじゃんになってしまったよ」
- 諸行無常ですね。
 
気づくと、すでに夕方5時を回っていました。オックスフォードサーカス行25番バスで、トッテナムコートロードまで戻り、サイモンさんお気に入りのイタリア料理店で夕食をいただきながら、ブルック一家に「これからのグロスミス」を伺いました。
 
LPTのグロスミス特集について

 - 今年に入り、LPTを実在の香水店だと勘違いして、売り込んでくるメゾンフレグランスブランドが後を絶ちません。

サイモン「うちも、最初はLPTを香水店と勘違いしてアクセスしたのがきっかけだったけれど、そのおかげで自分たちでもやった事のない総括的な、しかも相当のボリュームで特集を組んでくれて、日本の読者の方々も特集後、とてもインテリジェンスに溢れたコメントを沢山寄せてくださって、本当に感謝している。一番心に残ったコメントは『自分の先祖のことを、4代前のことですら、そんなにすぐわからなくなってしまうものなのか?』だった。そのコメントの方が、今朝がた娘たちがいただいた匂い袋を作ってくれたと聞き、それだけ心のあるファンを、グロスミスは今回のLPT特集で掴んだといえる」
アマンダ「たいてい、皆さん記事を書いてくれると言っても、表面的な事を適当にまとめるだけで、ここまで掘り下げてくれたのはLPTが初めてよ。まさか、ここまでまとめてくれるとは思ってもいなかった。ひとつひとつの記述も素晴らしいわ」
- そこまでお褒めいただき、私も頑張った甲斐がありました。喜んでいただけて、こちらこそ光栄です。アマンダさんには、連載のさなか「たとえ機械翻訳であなたの記事を読んで、多少翻訳が不自然だとしても、あなたのスピリッツは伝わってきますよ」と励まされ、完走することができました。改めて御礼を申し上げます。
 
香水業界について
 
サイモン「私は、売ることだけを考えて香水を作ったのではなく、香水に向ける哲学は、ピュアディスタンスのフォス社長に似ている。小さい商売と大切にしたい。今、香水業界は売るための香水を作っている、順序が逆なんだ。創業者であるジョン・グロスミスは『新しい処方を生み出すのは、惑星をひとつ発見するくらい大変な事だ』という言葉を残している。そのくらいの思いで、新作というものは世に出すものだ。1年に6つも7つも出すのは、明らかに営利目的、売れれば何でもいいやの商売だ。だから我々は香水店とのコラボレーション限定品以外、2012年以来新作を出していない。大事に考えているからだ。次々に新作を出してしまったら、結果どうなるか?不回転在庫がたまっていくだけだ、そして最後は廃番だ。そんな商売にはしたくないんだ。そういう会社の最終目標は、自分の会社を大手に売ることだ。この業界には、香水はただの商売ネタのひとつで、次々に新しいプロジェクトを興し、収益が上がったら売り出して自分は手を放す、相当色々なプロジェクトを同時進行させているタイプの、ビジネスに敏い人間もいるからね」
 
グロスミスのアジア進出とこれから
 
サイモン「人づてに海外進出への歩を進めているが、シンガポールへはなんとか出店できそうだ。中国は規約が厳しく、とても上陸できそうにない。韓国も話はあったが、ロッテとの絡みで前へ進んでいない。台湾は、台北高級香水店、シラノと交渉しているところだ。シラノとの流れで、日本では1社輸入代理店とのコネクションができたが、そことは折り合いがつかず、日本進出の話はまとまらなかった。幸い、中東で成功できたので、中東で充電した体力で、来年からいよいよ本格的にアジアのマーケティングを始めようと思う。極東と言えばオーストラリアとニュージーランドへは1件ずつ取扱店ができた。これから長い時間をかけて、一歩一歩アジアへも進出していきたい。しかしグロスミスは、私とアマンダ、娘のケイト、たった3人のフルタイムメンバーと、パートタイム・メンバーのエレナー、この4人しかいない。最近、フォートナム&メイソンの販売スタッフが加わったが、彼はあくまで我々の旗艦店であるフォートナムズのセールスサポートで、マネジメントには加わらない。だから、極東を回るとなると日数もかかり、たとえ夫婦で商談に回るとしても、その間社内業務はすべてケイト一人で行わなくてはならない。ケイトは今、フォートナムズの販売だけでなく、販売先からのオーダー管理やソーシャルメディアへの発信も担当していて、彼女まで出張に出てしまうと会社業務が滞る。エレナーは週1日しか来れない、本業は建築業だからね。グロスミスはそんな小さな会社だ」
- ご家族だけでの世界進出は、数々の難所があるとは思いますが、ぜひ将来、日本でもクラシックコレクションやブラックレーベルが棚に並ぶ日を、私をはじめLPT読者は楽しみに待っています。今回は、本当にありがとうございました。
 
◎明日は、日本に居ながらの入手はほぼ不可能!フォートナム&メイソン限定販売、シルヴァン・ソング(2014)をご紹介します。お楽しみに!